幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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プロローグ
プロローグ「質問」


「おっはよー、月城!」

「おはよう、成瀬」

「ねね、あのさ……今日のわたし、なにかいつもと違くない?」

 

 俺、月城怜太が登校すると、クラスメイトの成瀬姫香が駆け寄ってきて。

そして、開口一番にそんな質問をしてきた。

 女の子がそういった自分の変化について質問するときは、たいていの場合「見た目の変化」もしくは「匂いの変化」についてだと漫画やアニメで予習している。

 それも、たいていの場合は「髪の毛切った」とか「シャンプー変えた」とか、髪の毛に関することが正解なイメージだ。

 そんなことを考えながらもう一度成瀬を見ると、なるほど。

 先週までと比べて、毛先が少し短くなっている気がする。

例に漏れず、彼女の場合も髪の毛に関する変化だったようだ。

それにしても、小柄な彼女によく似合った栗色のポニーテールは愛らしい。

彼女が動くたびにちょんちょんと動くそのシルエットには、小動物に似た庇護欲を掻き立てられる。

そして、返答する前にもう少しこの質問に関して考えると、もう一つあることが分かる。

これもアニメの知識だが……女性がこういう質問をする場合、相手の男はほぼ確実といっていいほど質問してきた女性に惚れられているのである。

 恋愛経験がほぼ読書体験やアニメ視聴に限られる俺だが、冷静に考えてみてもそうだろう。

 なんとも思っていない異性に、自分のちょっとした変化なんて気付いて欲しいだろうか?

 もちろん気付いてもらえれば嬉しいだろうが、自分から積極的に聞きに行ったりはしないはずだ。

 以上のことから、現在俺が置かれてる状況を整理してみると……。

(成瀬は、俺に恋をしている……!)

 いや、だってそうじゃん、一行目からそうじゃんか!

 だってさ、「おはよー」じゃないんだよ? 「おっはよー」なんだよ?

 恋する乙女の浮かれ具合じゃん! 乙女の恋心をあらわす「っ」じゃん!

 そうして考えてみると、成瀬と過ごした去年一年間、好意を感じることは多かった。

 文芸部の恒例行事の旅行とか、カラオケとか、みんなで遊びに行った時も――。

 いつも俺のとなりには成瀬がいたし、成瀬のとなりには俺がいた。

 俺が熱中症になったときには飲み物を買ってきてくれたし、付きっきりで面倒を見てくれた。

 それに、校内でも頻繁に話しかけてくれるし……。

 これで何とも思ってないと考えるほうが野暮というものだろう。

 そんな彼女の気持ちに気付いて、俺はどうするべきか。

 彼女のことを好きじゃないなら、きちんとそれを伝えるべきだと思う。

 それで女の子を傷つけてしまう結果になったとしても、女の子をたぶらかすクズ野郎よりは断然マシなはずだ。

 でも、ここで問題になるのは――

 俺に、成瀬のことを好きな気持ちがある……ってことだ。

 だってさ、実は成瀬ってこの学校でも一、二を争う美少女だし。

 そのうえ性格も明るくて、文芸部に入ってるだけあってインドア趣味にも精通している。

 そんな彼女を近くで見てきて、優しくされて。

 こんなの、惚れるなっていうほうが難しいだろ……。

 

 ってことで、もう一度成瀬に向き直る。

 俺が彼女に好かれて困ることがなんにもない以上、ちゃんと気づいたことを伝えようと思う。

 髪型似合ってるって、そう伝えようと思う。

 

「月城、どう……?」

 

 俺の視線になにかを察したのか、成瀬が改めて訊ねる。

 それに対して俺は、きちんと彼女の目を見て……

 

「……プッ、ふははははははは!」

「……ちょっ、月城……、なんで笑うの……?」

 

 大声をあげて、笑ってしまった。

 

「ひ、ひどい……」

「うわぁ……」

「あいつ、なに考えてんの……」

 

 その場を目撃していた周りの生徒たちが、こっちを見てヒソヒソと話し出す。

 向けられる視線から察するに、全員が俺を蔑んでいることは明確だ。

 全員が、ゴミを見る目をしている。

 そんななか、俺にひどい仕打ちを受けた当の本人である成瀬はというと。

 

「……ふぇぇぇぇぇぇえん、月城のばかぁぁぁぁぁぁぁっ……」

 

 泣きながら、全力疾走で目の前からいなくなった。

 

 その場に、一人取り残される。

 いや、「二人」のほうが適切な表現だっただろうか。

 

「いや~、嫌われちゃいましたね~」

「……誰のせいだと思ってんだ」

 

 その「もう一人」が性懲りもなく話しかけてくる。

 

「えへへ~、私の変顔、めっちゃおもしろかったですよね!」

「うるせぇ! なんでいちいち俺の邪魔をして来やがんだ!」

「だってぇ……」

 

 激高した俺の問いかけに、しゅんとした様子の彼女。

 透き通るような真っ白い肌を少しだけ赤らめて、いつものようにぷかぷかと浮いている。

 

「だって、なんだ。言ってみろ!」

「だって、怜太さんってモテるじゃないですかぁ~……だから関わる女の子はみんなつぶしておかないと!」

「やめろ! お前のせいで俺、全然モテてないんだからな!」

 

 実際、こいつのせいで俺はことごとくリア充になるチャンスをへし折られてる。

 不思議な力を使って、俺に訪れる数多くのラブコメ的展開を、邪魔してくるのだ。

 そんな、他人からは見えないこいつの、正体は――

 この、ぷかぷかと浮かぶ白装束の彼女、幽子の正体は――

 半年前俺に取り憑いた、幽霊だ。

 

「えへへ、そういうわけです!」

 

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