いつまでこうしていただろう。
木ノ葉が離れなくなって、数分は過ぎたと思う。
さっきから道行く人の視線が痛いし、俺の精神だってもう限界だ。
さっきまでは幽子と話すことによって気も紛れていたが、それもやめた途端、木ノ葉の……なんていうか、女の子の匂いが鼻腔をくすぐってきて、ダメだと思っていても変な気を起こしてしまいそうになる。
それに、彼女に触れている部分が熱くなってきたような感覚が湧いてきた。
確かに五月の気温はだんだんと夏らしくなっているのだが、そうじゃない。
人肌に、それもとってもやわらかい女の子の感触による温かさが限界まで達していて――
それに加えて、じわっと心地いいお湯みたいな、そんな優しい液体が俺のシャツに広がって――
「……って、お前何してんだ!」
「……ちゅっ、んっ……じゅる……ん、ぷはぁ……。どうしたの、お兄ちゃん」
「どうしたのじゃないよ! なんで俺のワイシャツの生地吸ってるの⁉ え、え⁉」
――なんかあったかいと思ったら、木ノ葉が俺の服をくわえて、よだれでびちゃびちゃにしていた。……幽霊を見つけたときよりびっくりである。
すると俺の抗議の声を聞いて、木ノ葉が反論を始めた。
「だって……お兄ちゃんから、おいしそうな匂いがしたから……」
「だからってしゃぶるんじゃない! 俺は飴じゃないんだから!」
「ええー、だってお兄ちゃんずっとやめさせないし……」
「しかもずっと吸ってたのかよ! まさかと思って気付かなかっただけだわ!」
知らないうちに、後輩女子が変態になっていたようです。
俺が前代未聞の状態にパニックになっていると、それを見た彼女が耳元で囁いてくる。
「じゃあさ……」
身長が届かないから、俺の肩に手を置いて耳の位置を自身の口元まで下げる。
彼女の吐息が耳元にあたってくすぐったい。
そして。
「……木ノ葉の服も、しゃぶっていいよ……?」
なんて、木ノ葉が淫靡な悪魔のささやきを仕掛けてきたのだった。
正直すっかり彼女のペースに乗せられていたが、俺にそんな特殊な趣味はない。
「……いや、しゃぶらないから。ほら、馬鹿なこと言ってないで先に行くぞ?」
それでも少しだけ雰囲気が壊れるのはもったいないとは思ったが――
本能に打ち勝って、ここは彼女を制することに成功したのだった。
「あ、ほら! 見えてきたよお兄ちゃん!」
服をしゃぶられてからまたしばらく二人歩いていると、遠くの方に広々と生い茂った葉っぱが見えた。
都会の住宅街にある公園だってことで勝手に小さいものをイメージしていたが、こんなに遠くからでもその存在が立派だということを知覚できるくらいに大きいらしい。
テンションが上がって足取りが早くなる木ノ葉に合わせて歩幅を少し大きくすると、後ろの方で民家の紫陽花を眺めていた幽子も急いでついてくる。
公園が見えてから近づくまでは予想以上に歩くことになった。
最初に見えていたのは松ぼっくりを大きくしたような幹に、バナナに似た葉っぱをつけた木で、南国原産のものだったみたいだ。
人間の中でも小さい木ノ葉が視界に入ってくるからだろうか。
その木はとてつもなく大きく、周囲の家と比べても一番大きいような気がする。
それにこの木一本だけでは飽き足らず、この公園にはメガサイズの植物が数えきれないほど生えていた。