「ほら見て、いい場所でしょ!」
薄い胸を張ってドヤ顔をする木ノ葉。
若干鼻につく笑顔だが、こんな気持ちのいい公園を知っている後輩は称賛に値する。
それにいつも学校で卑屈な顔をしている彼女がこうして笑っているんだ。
たまにはからかうことをやめて素直に頭でも撫でてやるとしよう。
彼女のふかふかの頭に手を置いて、その艶やかな黒髪に櫛を入れるかの如く撫でおろしていく。
すると彼女は一瞬びくっと驚いて見せたものの、昔のように目を細めて気持ちのよさそうな声を漏らした。
久しぶりに撫でた彼女の頭は昔よりも数センチ高くなっていて、なんだか感慨深い。
それに、俺としてもこの触り心地は心地よくて、懐かしい。
思わず、撫でていた手を肩に回し、木ノ葉を抱き寄せる形にしてしまった。
少し調子に乗ってしまっただろうか。
反省するが、腕の中の彼女は一向に嫌がる素振りを見せない。
それどころか彼女は口の端を吊り上げると、ふいに両手を広げて――
――俺の身体に自身の身体をこすり合わせて、抱き着いてきたのだった。
……ダメだ、なんか、こう……気持ちが……。
俺が後輩の美少女、それも幼いころから知っている妹のような彼女を抱き寄せていて、それに彼女も嫌がらず、寧ろ自分から絡みついてきているこの状況。
なんというか心の中に背徳感やくすぐったさに似た感情が渦を巻いて押し寄せてきて、俺の思考能力をくちゅくちゅと掻き回してくる。蕩けさせてくる。
だから言い訳というわけではないが、目の前にいるこの淫靡な香りを放つ彼女に口づけをしてしまうなんてことは、必然なんじゃないだろうか。
不可避なんじゃないだろうかと、神様に訴えたいくらいだ。
木ノ葉は目を瞑ってきつく俺を抱擁すると、ふっと力を緩めてこちらを見上げる。
その瞳は濡れて潤んでいて、見るものを吸い込んでしまうブラックホールみたいな怪しさがあった。
その怪しさを分かっていても飛び込んでみたい、振り回されてみたいと思ってしまうのが残念な男の性である。しかし、たまにはその蕩け苛まれた思考を異常に働かせ、流れに乗ってみても許されるんじゃないだろうか、罰が当たらないんじゃないだろうか――。
と、そこまで自分に言い訳をして、彼女のもう一つの肩に空いていた左手を置いて向かい合う形になる。
そして俺たちはどちらからともなく互いの唇を求めて顔を近づけ――
――飛んできた大量のハトに、邪魔された。
「うわっ、なんだこいつら! どこから来やがった!」
「きゃぁぁ! お兄ちゃん、ハトさんだ! ハトさんがいっぱい飛んで……きゃっ!」
さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら。
公園の入り口で抱き合っていた高校生の男女は、今や鳥にいたずらされる喜劇の役者だ。
さっきまで静かだった公園で、急にそんな雑なコントが起こるとすれば、犯人は一人!
「……いちゃいちゃし過ぎだったので、公園らしくハトさんを呼んでみましたっ☆」
……ラブコメを邪魔してくる幽霊の彼女のほかに、誰も候補などいないのだった。