考えていて、ふと疑問が生じる。
「そういえば木ノ葉は前もこの公園に読書しに来たって言ってなかったか?」
ついさっき部室で、そんなことを言われて外に出てきた気がする。
すると問いかけられた彼女はとびきりの笑顔で、悲しい事実を口にしたのだった。
「来たことはあるよ? ……寒くて誰も来てないだろうからちょうどいいと思って、真冬にだけど!」
……うん、なんというか後輩の闇を垣間見てしまった気がする。
というのも、彼女の場合は去年まで特別な事情があったから仕方ないのかもしれないが。
俺は、無理に笑顔をつくっているようにも見える木ノ葉に向き直り、真剣な顔で訊ねる。
「……木ノ葉。お前さ、俺が行くといつも部室に先にいるけど……高校で友達とか、できたのか?」
余計なお世話かもしれないが、先輩として、昔から知っている兄として、彼女のことが気にかかる。実は木ノ葉は……去年まで不登校だったため、余計にだ。
こうして俺のいる前では明るく振舞っているし、学校にもきちんと来ているからこれまで面と向かって聞くことはなかったが、これはいい機会だろう。
そんな思いから投げかけた質問だったが……木ノ葉を見ると、それが杞憂だったと分かる。
「友達もできたし、先生もよくしてくれるし……中学生のころに比べて、すごく楽しいよ」
前髪を長くしてあまり目を合わせないような髪型をあえて作っている彼女だったが、その口元は緩んでいて、穏やかな顔をしているのがよく分かる。
そんな彼女の表情を見て、俺も釣られて穏やかな気持ちになって、その場が温かい雰囲気に包まれて――
「……だけどね」
――その雰囲気を、彼女自らの発言が底冷えするような冷たいものへと豹変させた。
驚いて彼女を見ると、漫画みたいに目の奥にハートを何重にも携えた木ノ葉が光沢のない目をこちらへ向けて口だけを笑わせている。
その両手は胸の前で祈りをささげているように組まれ、その姿はまるで教祖を崇拝する狂信者のようだ。幸せそうな表情ではあるのだが、狂った目をしている。
「だけど、お兄ちゃん。木ノ葉は、優しい友達よりも、頼りになる先生よりも――あなたが、好きなの。大好きなの。愛しているの。だからね、木ノ葉はお兄ちゃんとの愛の巣である部室に誰よりも先にいて、お兄ちゃんを待ってるんだよ……?」
……衝撃の、告白だった。
薄々感づいてはいたものの、木ノ葉の愛がこれほどに強く、重いものだったとは……。
俺は彼女をしっかりと見据えて、その告白の答えを考える。
正直、俺は成瀬のことも好きだが――同じように、木ノ葉のことも愛している。
だからといって両方と付き合うとかそういうことはないが、それは紛れもない俺の気持ちだ。
つまり俺は、木ノ葉の愛情を拒む理由も成瀬と同じく持ち合わせていないわけで――。
俺は、晴れてここに一組のカップルを誕生させる決意を固めるに至ったのだった。
緊張を隠せないが、仕方ないと言い聞かせて震える声のまま彼女に告げる。
気持ちを伝えた彼女は、それこそ人生最大の緊張と不安を抱えたままこちらを窺っていた。
「木ノ葉、聞いてくれ。俺は――」
「お待たせいたしました。プリンとケーキにございます」
『あ、ありがとうございます……』
とてつもなく間の悪い、むしろ会話を聞いていて狙ってこのタイミングで来たんじゃないかと疑いたくなるほどに絶妙なタイミングでケーキを持ってきたウエイトレス。
第三者の存在を思い出して、急に何も言えなくなる俺たち二人だった。
まさかと思って上空を見ると……店内のインテリアに腰かけてにやりと笑う、某うちの幽霊様と目が合う。
またしても、幽子が俺の恋愛成就を邪魔してきたらしい。
さっきまで緊張の告白タイムだった喫茶店のテーブルは、今やぎこちない別種の緊張を抱えた気まずい空間へと成り変わっていた。