幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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第十話「間接」

「……さ、さぁお兄ちゃん。スイーツでも食べようか!」

 沈黙の中、口を開いたのは木ノ葉。

 水を差されたことで告白をなかったことにするらしい。

 とても残念だったが、こんな雰囲気になってしまってはカップル成立どころの話じゃない。

 幽子の策略にまんまと嵌まってしまったが、都合がいいので俺も乗っからせてもらうことにした。

 木ノ葉は自分の頼んだプリンを見つめると、銀色のスプーンで丁寧にそれを掬って口に運ぶ。

 女の子は本当にスイーツが好きな子が多いけど、彼女も例に漏れず好きらしい。

 その整ったかわいらしい顔いっぱいに幸せの表情を浮かべて、満足そうにしている。

「ほら、お兄ちゃんもはやくケーキ食べなよぉ」

 急かす後輩の言葉に、俺も同じくスプーンを手に取る。

 そして、自身の注文したシンプルなショートケーキに口をつけたのだが――

「……う、うまいっ!」

「でしょ!」

――想像以上のまろやかな味が俺の口内を蹂躙した。

 ほどよい甘さと滑らかな舌触りが、身体中の「負」という「負」をすべて洗っていく。

 そうして残ったものは当然、幸せな感情に他ならないわけで。

 俺は、ここに極上の幸せという天国を見ることになったのだった。

「……俺、生まれてきてよかった……」

「そんなに美味しかったのっ⁉」

 ガラにもない台詞が無意識にこぼれるくらいには幸せである。

 すると、そんな俺を見かねた木ノ葉が魅力的な提案をしてくる。

「じゃあさ、木ノ葉が頼んだ牛乳プリンもひとくちあげるよ!」

 ……うん、もらいます。

 普段だったらあんまり人のものをもらおうとなどしない俺だが、こと今日にいたっては話が別だ。ここのスイーツの魔力は計り知れないものがある。

 このシンプルなケーキがここまで美味かったんだ。

 牛乳プリンなるこの目の前の宝石が、俺の舌を刺激しないはずはない――

「はい、お兄ちゃん。あーん」

――と、そこまで考えて俺はとある欠点に気付いてしまう。

 俺の口にスプーンを近づける彼女だが、それじゃあ間接キスになってしまうじゃないか。

 直前のところで我に返った俺は、急いで木ノ葉を制止する。

「ちょっと待て、木ノ葉……それじゃあ、ええと……間接キスに……」

 しかし、木ノ葉がそれに気が付いていないわけもなく、こんな行動を起こしてきたのだった。

「あ、うん。間接キスになっちゃうね。じゃあ……んっ……はむっ、ぺろ……んちゅっ」

 ……俺に差し出したプリンをひとくちそのまま食べて、間接キスになると分かっていながらスプーンをぺろぺろと口に入れて舐めだしたのだ!

「お、おい……木ノ葉?」

 恐る恐る声をかけてみると、ハッと我に返った様子の木ノ葉が反応する。

「……はい、お兄ちゃん。あーん」

「いや、だから間接キスになっちゃうだろ!」

「…………?」

「なんで不思議そうなんだ!」

 よりにもよって、さっきぺろぺろと舐めまわしたスプーンでプリンを掬って寄越しやがった。

 バクバクと心臓の音を大きくさせながらも、悟られないようにきちんとツッコミを入れる。

 すると「ああそっか!」なんて呟いた彼女はプリンを自分の口に入れた。

 やっと言わんとすることを理解してくれたらしい。

 と、俺が自分のスプーンで木ノ葉のプリンをいただこうとしたときだった。

「…………ん」

「…………ん?」

 木ノ葉が、なにやら目を瞑ってくちびるを突き出している。

 味をかみしめているのかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。

 どうしたものかとしばらく迷っていると、ついにプリンを飲み込んだらしい木ノ葉が激昂した。

「なんで食べてくれないのっ!」

「お前の口の中にあるからだよ!」

 スプーンで食べてくれなかったから口移しにしたのに……なんて残念そうにぶつくさ言っている彼女を横目に見つつ、俺は今度こそ自分のスプーンでプリンを口へ放り込む。

 思った通り、ここのプリンはほっぺたが落ちる程に美味しかった。

「落としましょうか?」

「落とさんでいい!」

 俺の思考回路にまで侵入してくる、例の霊。

 俺の考えていることにまで入り込んでくるあたり、この幽霊は本当に読心術が使えるらしい。

 こいつには心の中だろうと軽率に感謝してはいけないと心に誓った瞬間だった。

 

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