「いやぁ~、美味しかったねお兄ちゃん!」
「絶対また来るぞ! そうだな、遅くても明日だ!」
「それ最短だよね⁉ ドはまりしてるじゃん!」
スイーツを食べながら談笑し、日が傾いてきて。
太陽と入れ違いに外に出た俺たち二人は、学校の方面に向かって歩いていた。
木ノ葉の家も、俺の下宿先のアパートも、ここからだと一度学校を経由するのが分かりやすいし一番早い。
それに。
「あっ、お兄ちゃん。木ノ葉、部室に忘れ物しちゃったみたい」
なんてどこかのドジっ娘さんも言ってるから、こっちに来て間違いはなかったみたいだ。
帰りに部室に寄ることを約束し、再び歩き出す。
昼間がいくら暑いとはいえ、まだ五月。日が落ちて風が出てくると、さすがに少し肌寒い。
と、カバンの中からカーディガンでも取り出そうかと考えていたときだった。
ふいに木ノ葉が口を開いたかと思うと、真剣な声で問いかけてくる。
「ねえ……お兄ちゃんは、木ノ葉のこと……ちゃんと、笑えてると思う?」
突然そんなことを言い出すから少し戸惑った――が、正直これは予想していた事態だ。
カフェではああ言っていたし、友達や先生が優しいのは事実なんだろう。
でも――当たり前だが、元不登校とそれ以外の人間には、どうしても差が出てしまう。
それは、楽しいと思うことに違いがあったり、変に顔色を窺ってしまったりと、顕著に表れるものではないかもしれないし、誰もが抱えている問題かも知れない。
しかし、本人にとっては――少なくとも、人間関係が周囲の人より苦手だと自覚している木ノ葉にとっては、日常のひとコマひとコマに不安があふれているのだろう。
それが分かるから、薄暗い中でも分かるくらいに表情が暗くなっている彼女の顔をなるべく見ないようにして、俺は正直に答えた。
「……正直、木ノ葉はまだ楽しさを表現するのが苦手ではあると思う」
「…………そっか……」
力なく呟く木ノ葉に、心を痛める。
しかし、彼女に本当に伝えたいことは、ここからだった。
「……でもさ、木ノ葉」
「…………なーに?」
「……楽しさを表現するのが苦手なら、それを正直に言ってみるのも手なんじゃないか?」
「…………正直に……?」
「ああ。友達だって、みんな木ノ葉が言うんだからいい人なんだろうし……それに、木ノ葉は楽しんでないわけじゃないんだからさ。雰囲気で伝わらなければ、口に出せばいいんだよ」
俺は、続けて持論を述べる。
なにも、コミュニケーションは表情や、身振り手振りや、それだけで行うものじゃない。
口に出して伝えられるならそれでいいじゃないか。
言い切って、隣の木ノ葉を見る。表情は隠れているし、俯いたままだ。
でも、彼女は歩きながら「そっかぁ……」と小さく呟くと、口の端を少し上に引き上げて。
「…………ありがと、お兄ちゃん」
と、安心したようなあったかい声色を聞かせてくれたのだった。