幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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第一章「出会い」
第一話「発見」


俺が幽子に初めて出会ったのは、今から半年前の冬だった。

 その日の俺には、予定もしたいことも特になく。

それでも一日を寝て無駄に過ごしたくなかったから、あてもなくブラブラと街に繰り出してみたのだった。

 休日に何にも縛られず、ただただ街を練り歩く。

 社会に出てからはきっとなかなか得られないであろう『自由』がなんだか心地よかった。

 すれ違う人はみんな、なんとなくあくせくしているように目に映る。

 世界でひとり、違う時間を過ごしているような『余裕』を肌に感じながら、ゆっくりと商店街を闊歩した。

 しばらく歩道を歩いていると、遠くに大型のショッピングモールが見えてくる。

 目当てのものがあって買い物に行ったことは何度もあるが、これまでは欲しいものを買ったらすぐに帰ってきてしまっていた。

 この際、モール内をくまなく探検してみるのも新しい発見がありそうでいい。

 俺はショッピングモールを目指し、意気揚々と足を踏み出した。

 

 モール内は、家族連れやカップルで賑わっていた。

 内心羨ましく思いつつも、心の中で悪態をつきながら進んでいく。

 そうでもしないと嫉妬で頭がどうにかなりそうだった。

 思春期男子のハートはガラスのように繊細なのである。

 心の中での悪態は、そんな壊れやすい心に荒々しくも巻き付けた気泡緩衝材の役割を果たしていた。

 飲食店が立ち並ぶ一階を通り抜けると、少し開けたスペースに出る。

 ステージを中央に多くの椅子が囲んで置かれたそこは、イベントスペースだった。

 まだ午前中だってこともあり、催し物はなにもない。

 飲食店で持ち帰りのジャンクフードなんかを買った客が集まって、フードコートのようになっていた。フードコートは別にきちんと用意されているのに。

 ここで持参した文庫本を読んでみるのも乙なものかと思ったが、カップルの多いこの場所で学園ラブコメを読む気にはならない。

 きっとそんなことをすれば、いくら緩衝材があるとはいえ心に穴も開くだろう。

 いや、心の穴に気付いてしまう、というべきだっただろうか。

 とにかく、こんな場所からはさっさと退いてしまうのが吉である。

 まさにこの場を去ろうと踵を返したときだった。

 

「うっひょー! きっもちいいよぉ~! うへえぇぇぇぇぇ~!」

 

 ……たぶん、聞いちゃいけないなにかが聞こえた。

 ショッピングモールの喧騒にも掻き消されない、透き通った声。

 しかし、その声量は半端なものではなく、内容は異様だ。

 最後の「うへぇ」のところなんて、人間が一生のうち一度出すか出さないかといったレベルの下品な声だ。完全に常軌を逸している。

 なんていうか、感情が昂ったストーカーとかが出しそうな声だ。

 それが、女の声で聞こえる。でも、気にしちゃいけない気がする。

 声の聞こえるほうに集中しながらも、絶対に振り向かないようにして立ち去る。

 黄泉の国に行ったイザナギはこんな気持ちだったんだろうか。

 しばらく歩いて、ちょっと広場から離れたところで振り返る。

 カップルたちは、気にした様子もなくイチャイチャを続けていた。

 彼らも見ちゃいけないものと判断したんだろうか。

 その視線は目の前にいるお互いのパートナーへと注がれたままだ。

 彼らをしばらく観察して、自分の中であの絶叫をなかったこととして消化する。

 よし、もう大丈夫だ。二階にでも避難しよう。

 声が収まった今もなるべく後ろを見ないようにしながら、俺はエスカレーターで二階に上がった。

 

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