暗くなり始めてから真っ暗になるまでは意外に時間が早いもので、俺たちが学校についた時にはもうお互いの顔も見えないほどだった。
学校の門にある街灯には蛾をはじめとする小さな虫が無我夢中で集っている。
そんな趣深いといえば趣深いし、ホラーじみているといえばそんな気もしてくる、良くも悪くもいつもと違った雰囲気の学校を二人で歩く。
下駄箱にある簀の子のカランという音が、人気のなさを物語っていて最高に怖かった。
俺が内心ビビっていると、同じくホラー系が苦手な木ノ葉が腕にしがみついてくる。
控えめな膨らみが胸に当たっているが、今の俺にそんなことを考えている余裕はない。
二人震える身を寄せ合って、夜中の学校を進んでいく。
今だけは特に、部室への無駄に長い距離が恨めしく感じられた。
しばらく手探りで歩いていると、ついに部室がある廊下の角に出た。
昼間、成瀬との一件があったあの廊下だ。
「お兄ちゃん、あとちょっとだね」
「ああ、よかったな……」
部室が近いとあって、安心して言葉を交わす俺たち。
さっきまで無意味に腰を低くして進んでいたが、それに気が付くくらいにはホッとしていた。
最後の角に、差し掛かる。
「じゃあ、忘れ物取ったらさっさと帰るぞ――」
と、二人で姿勢を起こし、角を曲がろうとしたときだった。
「……ばぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
『……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!』
――勢いよく、死装束の女が目の前に飛び出してきたのだ!
あまりの驚きに、腰を抜かしてその場に転げてしまう俺。
木ノ葉を見ると、彼女も隣で目に涙を浮かべたまま腰を抜かしているようだ。
――というか、泡吹いてないかコイツ。
そんな彼女を心配しながらも、俺はこうなった原因、角に佇む元凶の女を見る。
「えへへへ、怜太さん驚かし作戦大成功ですっ! 幽霊らしいこともできましたしね!」
「またお前の仕業か! やめろよ、心臓に悪い!」
「だってぇ……木ノ葉ちゃんと怜太さん、くっつきすぎなんですもん……」
人の恐怖も知らないで、唇を尖らせて不満そうな幽子。
確かにくっついていたことは認めるが、それにしてもこの仕打ちはあんまりだ。
俺は未だ泡を吹いている木ノ葉を指さして、抗議の声を上げる。
「おい幽子! ほら、木ノ葉なんてカニみたいになっちゃったぞ。どうしてくれんだ!」
すると幽子は、ばつが悪そうにしながらも反論してくる。
「いや、悪いとは思いますけど……彼女が驚いたのって、怜太さんの悲鳴にですよ?」
私の姿は見えませんし、と幽子。
そうなると、非常に不服ながらこちらの分が悪くなってくる。
しかし、俺を驚かせてきたのは幽子だ。間接的とはいえ、犯人はこいつで間違いないだろう。
そうして、意見が食い違う二人はいがみ合いを続けた結果――
「きゃあああ! お兄ちゃんが何もないところに向かってしゃべってる―――――!」
と、木ノ葉にもう一度泡を吹かせてしまうという、なんとも申し訳がつかない事態を引き起こしてしまったのだった。