そんな風に彼女のことを考えていると、そこで噂の人物が口を開いた。
「……ちょっと、ここでみんなに協力して欲しいことがあるんだけど……」
「……? なんですか? 日程の調整とか?」
俺が聞くと、先輩は首を横に振って続ける。
「ううん、そうじゃなくてね……。去年の私たちの代もやったんだけど、当日はバスの中でビンゴゲームをやることになってるの。だから、今本番を想定してやってみるのはどうかなって」
「なーんだ、改まって言うから身構えちゃったよー。で、今日も景品とか用意されてるの!」
目をキラキラさせながら質問する木ノ葉。
さっきまで景色を見ながら既にちょっと飽きてきていたのに、すごい変わり様だ。
まあ、クラスでは人見知りでビンゴどころじゃないだろうからな。
木ノ葉が心を許せる文芸部のメンバーくらいは温かい目で見守ってやろう。
「ええと、その景品なんだけどね……?」
木ノ葉の期待に気圧されながらも、彼女の問いに回答しようとする先輩。
正直期待の大きさが富士山級で、これに応えられる景品が手元にあるとは思えない。
全員が妙に真剣な眼差しで固唾を飲み、先輩を見つめる。
すると、彼女はその期待を裏切ることなく、とんでもない景品を提案してきやがった。
「今日の一等の景品は……」
『…………ごくり』
バスのエンジンの音以外は静寂に包まれた中、音垣先輩が言い放つ!
「今日の一等の景品は、月城くんを一日自由にできる権利よ!」
『な、なんだってぇ⁉』
途端にやる気が削がれる俺とは対照的に、なんだか色めき立つ女子メンバー。
「っていうか、勝手に俺の一日を景品にするな!」
「まあまあ、いいじゃない月城くん。貴方だって、文芸部の女子と二人っきりで一日デートできるなんて、いい機会になるんじゃないかしら?」
「そ、それはそうですけど……」
いかん、言いくるめられてしまった。
しかし、俺の恋愛が生まれてこの方、何一つ上手くいっていないのは事実。
ここで一発ラブコメイベントを放り込むことが出来たら、この中の誰かとの仲が急速に発展するなんてこともあるかもしれない。そう思うと、なんだかやる気も湧いてくる。
そうして始まったビンゴ大会であったが、三十分後――
「一等が出ました! 最初にビンゴになったのは――月城くんです!」
――俺の勝利で、会場はとんでもない空気になっていた。
主催者である先輩の手によって、俺に花飾りと俺を一日自由にできる権利が贈られる。
……毎日自由にしてるので要らないです。
「ええと……お、おめでとう」
「お兄ちゃんが優勝しちゃダメじゃん!」
「わたしは何やってもチャンスを逃してばっかり……」
周りでは女子メンバーが三者三様の残念そうな反応を見せている。
成瀬に至っては日頃のスキンシップも上手くいっていないことを気にして、ひときわダメージを受けてしまったようだ。
どんよりと湿った空気が流れる車内。
正直すごく居心地が悪いのだが、俺の耳にはもう一つ、気分を悪くさせてくる笑い声がノイズのように走っていて――
「うひゃーははは! 怜太さん、残念でしたね! 私がいながら怜太さんを他の女の自由にさせるとでも? ビンゴの出目はすべて私に都合のいいように変えさせていただきました!」
やはりと言うべきか。
この「車内ビンゴ月城大勝ち事件」の犯人は、俺の同居人の幽霊だった。
とりあえずこの旅行中はなるべくあいつを無視してやろうと心に決めて、俺はこの微妙な空気から目を瞑るかの如く目を閉じ、束の間の眠りについた。