途中数回のトイレ休憩と軽食を挟み、目的地に着いたのは昼前だった。
長時間移動のあとで平衡感覚がおかしくなっているが、なんとか耐えてバスの外へ出る。
すると、まず目に飛び込んできたのは目の奥まで焼き尽くさんばかりの圧倒的な光。
真っ青な空はその全身をもって太陽光を反射する鏡となったみたいだ。
しかしそんないい天気とは裏腹に、都会の蒸し暑さは全く感じられない。
ここが山の奥であり、冷涼な森の中だということを一瞬にして理解することができた。
「ようこそ、おいで下さいました」
全身で自然を感じていると、宿舎のある方向から声がした。
顔を向けると、そこには施設の関係者であろう初老の男性が立っている。
音垣先輩を筆頭に俺たちは自己紹介や挨拶を済ませ、彼の案内で建物内に荷物を運んだ。
荷物を運び終えると、次の仕事の前に食事をいただくことにする。
腹が減っても戦は出来る。しかし空腹では本来の力が出せないのだ。
それから食事の用意をしてもらう間、俺たちはロビーで休憩させてもらうことにした。
木ノ葉はご飯の前だというのに我慢しきれずお菓子を口に運び、成瀬は持ってきた単語帳を繰り返しめくっている。そして音垣先輩と俺は今後の日程を再確認するなど、思い思いの時間を過ごしていた。ただ、俺が本当に気になったのは仕事の内容なんかでは全然なくて。
「おい、お前なにを見てるんだ?」
なぜだかロビーの一点を見つめて不思議そうにするだけで、全く動かない幽子の姿がなによりも気になっていた。疑問に思った俺は、予定表を閉じて幽子のところまで行き、尋ねる。
すると、幽子も首をかしげながら回答してきた。
「それが、この写真なんですけど……なんとなく、気になっちゃって……」
幽子の視線の先を辿ると、そこにあったのは一枚の集合写真。
十年前くらいに撮影された、体験学習の子どもたちの写真のようだ。
ただ、なんだろう。幽子だけじゃなく、俺もなんだかその写真が引っかかる。
なんというか、過去に見たことがあるような、その場にいたことすらあるような……。
しばらく二人して真剣な顔で写真を見つめる。
すると、食事の準備を終えた施設のスタッフが俺たちを呼びにやってきた。
「皆様、食事の用意が整いました。食堂の方へご案内しま…………おや? その写真にご興味がおありで?」
なにか背景にエピソードのある写真だったのだろうか。
スタッフの男性は、なんか話したそうにしながら俺に近寄ってくる。
「いえ、少し見ていただけで……。それじゃあ、ご飯にしましょうか」
しかし、来る途中に軽食を挟んだとはいえ、俺たちは腹ペコだ。
男性の話は別の機会に聞くことにして、俺たちは食堂へと急いだ。
「そうですか、失礼いたしました。それでは食堂にご案内します」