昼食を食べ終えると、今度は施設のスタッフさんと打ち合わせをする。
先ほどの昼食が長引いてしまった件もあり、スケジュールはより慎重に。
音垣先輩とスタッフさんは過去の宿泊客が計画した予定も参考に、スピーディーに話し合いを進めていく。それに当日なら今の時間行なわれているはずの近くの山を散策する行事についても、二人は安全面を考慮してルートや時間配分を決定していく。
時には先輩が現役高校生ならではの観点から新しい提案をすることもあり、周りにいる俺と木ノ葉は彼女の有能さに圧倒されていた。
(お兄ちゃん、木ノ葉たち全然いらない子になってないかなぁこれ!)
(大丈夫だ。全員そうなると思ってここに来てるし、そうなると思って送り出してる)
(それってやっぱりマズくないかなぁ!)
小声で情けないやりとりをする俺たち。
そんなことには気付く様子もなく、有意義な目の前の会議はテンポよく進められていく。
ただ、それだけテンポのいい会議でも蚊帳の外だと眠くなってしまって、退屈に感じてしまう。先輩がみんなは周りを見てきていいって言ってくれた時に、素直に頷いておくべきだったのだろう。どっちにしろ職務怠慢である。
それからも会議は滞りなく進み、俺たちは何もしないまま午後の仕事を終えた。
「今日の仕事は終わりね……。じゃあ、部屋に行きましょうか」
予定より早く会議を終えると、先に部屋で待機している成瀬と合流すべく、俺たちは宿舎の二階へと向かった。部屋の番号は既に先輩がスタッフさんに聞いてあるらしい。
それから、カードキーを使ってドアを開錠。先輩を先頭に入室する。
すると俺たちを待ち受けていたのは、畳の敷かれた和風の部屋に、自然を見渡せる大きな窓。
その絶景に、旅行気分が一気に湧き上がる。
「お兄ちゃん見て! 川があるよ!」
「あそこ、全員で朝のラジオ体操をするのにちょうど良さそうね」
「怜太さん、見てください! 私の新しい下着!」
既に部屋にいた成瀬も含め、三者三様の反応を……ん?
「おい幽子、貴様どういうつもりだ」
「えへへぇ、大自然といえばやっぱり露出! 興奮してきて脱いじゃいました!」
「早く着ろ! そして二度と脱ぐなぁ!」
最近は鳴りを潜めていたが、そこはやはり元露出狂の変態幽霊。
この大自然に来てまでその欲を抑えることはできなかったようで、その真っ白な肉体を太陽の下で見せびらかしている。やめろ、そんなところを開くな!
と、俺がお憑きの幽霊に翻弄されていることなどつゆ知らず、荷解きを始めた木ノ葉が不思議そうに言った。
「ええと……姫香ちゃん、いなくない?」
そう言われれば、確かにそうだった。
疑問に思う暇もなく変態の露出に付き合わされてスルーしてしまっていたが、着替えて待機していたはずの成瀬がいない。ここにいないのなら外の景色でも見に行ったのだろうか。
そんなことを考えていると、部屋の扉がカチャっと開いて成瀬が入ってきた。のだが――
「すーっ、はぁ~……月城のいい匂い…………って、月城⁉」
「成瀬、お前なにしてんだ!」
――怖い、俺が貸したジャージの袖をめちゃくちゃ嗅ぎながら帰ってきた!
それも幸せそうにして……って、そういうのは本人に見つからないようにやれよ!
「ええと、月城? これは、その、違くて……ふぇぇ……」
「お、おう。そうなんだな、あー、えっと、とにかく、なにがかは分からんが違うんだな?」
現場は見ての通り大混乱。
当事者はもちろんのこと、木ノ葉や音垣先輩までもがアタフタしている。
それを見て、後ろの幽霊が大笑い。とんでもないカオスである。
これは、俺がなんとかするしかない!
この状況を収める手段をいくつか思いついた俺は、その中から最善の手を選んですぐさま実行に移す。
「えっと、俺……もう自分の部屋に行ってるよ。先輩、カギ頂戴?」
……決まった。
この場をうまく収める最適手、俺の離脱!
結束力の高い女子たちのこと、その後はうまくやってくれるだろう。
そう思っての判断だったのだが。
「あの……月城くん。私、謝らないといけないことがあるの……」
先輩の口から飛び出したのは、助け舟ではなく予想もしていなかった謝罪。
思わぬ事態に、幽子を含めた全員が固まって動けなくなる。
……そんな中、先輩が続ける。
「あのね、生徒会のメンバーって、女子しかいないじゃない……?」
不穏な、前振り。
全員が少し勘付きながらも、言葉を継ぐことはしない。
「だから、もともと部屋を一部屋しか予約してなくて……ええと、その、単刀直入に言うと……」
嘘だろ、まさか……。
成瀬は青ざめ、木ノ葉は耳を塞いで震え、幽子は服を身に着け始めている。
そんな状況で告げられた悪魔の宣告。それは――
「今日は、月城くんも同じ部屋です」
『ええええええええええええええ!』
――俺の離脱を許さない、大破壊力の事実であった。
いや、まあこっちのインパクトが強すぎてさっきの事件は忘れ去られたからいいんだけど。