幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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第四章「旅行」(後編)
第一話「浴場」


「…………、……」

 宿泊施設の、大浴場。

 その岩に囲まれた露天風呂にて、俺は考え事をしていた。

 ――自分の置かれた状況を、客観的に見つめ直す。

 生者である俺と当たり前のように接触し、会話し、取り憑いている幽霊。

 彼女は本来この世に留まっていてはいけない存在でありながら、成仏することなく、ずっと俺のそばにいる。

迷惑は多少かけられているものの、既に慣れているうえ、彼女といると楽しい。

しかしそれが俺にとっても彼女にとっても、いいことなのか悪いことなのか。

あの日テレビ番組で霊媒師の言葉を聞いてから、その判断がどうしてもつかずにいる。

――実際、いいことでないのは確かだろう。

生まれ変わることもできずに、未練だけをこの世に残して縛られ続ける。

そんなことが、彼女にとっていいことであるはずはない。しかし。

彼女がその未練を忘れて自分のそばにいてくれることに甘え、俺が彼女を自分から引き離せなくなっているのも事実。

このまま彼女が未練を思い出して終わりの日がやってきても、受け入れられる自信がない。

「……でも、そんなこと言ってる場合じゃないよな……」

 口から漏れた呟きが、水面から立ち上る湯気と一緒に夜の風に運ばれて消えていく。

 今の優柔不断な俺の心は、この青色に濁った湯に映る月のようにゆらゆらと揺らめいていた。

 と、そんな風に感傷に浸って、孤独を寂しく思っていたからだろうか。

 湯煙の中に人間のシルエットが浮かび、その影がだんだんと近づいてくる。

しかしなぜだろう。その影は俺のいる方向に一直線に向かっているように見えて――

「いぇーい怜太さん! 死体の肢体をご覧あれー!」

「ちょっと待てお前なぜここにいる!」

――そこに立っていたのは、噂の人物。

俺に憑いている幽霊の、幽子だった。しかも全裸。

「いや~、せっかくの大きなお風呂ですから、私も入りたいなーと思いまして!」

「思いましてじゃない! それなら女湯に行けばいいだろうが!」

 幽霊のくせに情緒を楽しもうとする幽子。

 俺はそんな彼女に、至極もっともな意見をぶつける。

 ってか前隠せ、前。

「えー、女湯ですかー? んー……まあ、それでもいいですけど……」

 それに答えて、しぶしぶと自分の考えを口に出す彼女だったが……。

「やっぱり、露出しながら怜太さんの裸を拝める、男湯が最適かと!」

「おまわりさんこっちです!」

 最後は自分の歪んだ性癖と欲望を、自信満々に言ってのけた。

 さすが、俺が知る中で断然トップの変態だ。

「そうは言いますけど……怜太さんだって、幽霊になったら女湯に行くでしょう?」

「そ、そりゃあ……まあ……」

 ただ、こうして批判している俺も俺で、彼女に言いくるめられてしまったわけだが。

 

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