幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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第二話「未練」

 改めて、近づいてきた変態を見る。

 肉感的な身体は非常に色っぽく艶やかで、だらしないところなど微塵もない。

 健康的に引き締まった肉体は、それでいて出るところはしっかりと出ていて、自己主張を欠かさない。……要するに、完璧な身体つきをしている。

 それに、毎度言うように彼女の場合は顔も整っていて美しい。

 加えて性格も親しみやすくパーフェクトと来たものだ。

 こんなの、普通の男子が目にしてしまったら、純情なままではいられなくなるだろう。

――と、頭の先から足の先までじっくりと観察していると。

のぼせたように顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている幽子と目が合った。

「……えと、あの……怜太さん? そんなに見られるとですね、いくら私であっても、恥ずかしいといいますか……」

 言って、太ももをこすり合わせながらもじもじする彼女。

 そんな姿に俺は申し訳なくなり、咄嗟に目を逸らす。

「……っ、ごめん…………っ」

「……いえ、私こそ……」

 露天風呂に、気まずい空気が流れる。

 さっきまでは幽子が明るくふざけていてくれたからいいものの、彼女が恥ずかしがった今、空気を変えるものはどこにもない。

 自分から動かなければ、何も変えられない。

 俺がなにか気の利いたことの一つも言わなければ。

そう考えていると、幽子に先を越されてしまった。

「……あの、怜太さんって……このままでいいと、思ってますか……?」

 しかし、それは決してこの空気を明るく変えるものではなく、より話しにくい空気へと突き進んでしまう重苦しい言葉だった。だからと言って、この話題は避けて通れない。

 まさか幽子のほうからその話題に触れてくるとは思わなかったが、いずれは二人で話さなくてはいけないと思っていた、大切な話なのだ。

 俺は、戸惑いながらも答える。

「それは……正直、このままではいけないと思ってる」

「そう、ですか……」

 聞いて、少しだけ悲しそうな声色で呟く幽子。

 だが、俺は言葉を止めない。

 自分の考えを、この際きちんと言おうと心に決めたからだ。

「俺は、幽子と過ごしている今が、すごく楽しい。充実してる。それに――幽子も、楽しんでくれてると思ってる。でも……俺は、幽子に未練があるままじゃ、嫌だ」

 彼女に告げると同時に、自分に言い聞かせるようにこぼす。

 しばらく考えていたことだが――絶対に、二人にとってこの決断は間違っていないのだ。

 それから、二人の間を大きな沈黙が覆い、夜風の吹き抜ける音と注がれる水音だけが岩の中央にこだまする。

 数分の後、彼女が口を開いた。

「…………怜太さん」

「…………なんだ」

 幽霊らしく、血の気のない声。

 いつもの彼女とはかけ離れた元気のなさが、胸を締め付ける。

 そんなこともお構いなしに、彼女は続けた。

 それも、とんでもなく喜ばしくて、とんでもなく悲しい、彼女だけが知っていた、事実を。

「…………私、この世の未練、思い出したんです」

「…………なんだって……」

「……この施設のロビーで写真を見たときに気付きました。私は――ここを、知っています」

 それは、ここに来たことを思わず後悔してしまうような、信じがたい告白で。

 俺は――その場で、何も言えずにいた。

「それじゃあ、私はもう行きますね。十分楽しみましたし。また、部屋で会いましょう」

 そんな心の状態を察してか、彼女はすぐに去っていく。

 取り残された俺は、ポツンと一人。

 何も考えられないまま、ただ永久に流れ続ける水音だけをぼんやりと耳にしていた。

 

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