改めて、近づいてきた変態を見る。
肉感的な身体は非常に色っぽく艶やかで、だらしないところなど微塵もない。
健康的に引き締まった肉体は、それでいて出るところはしっかりと出ていて、自己主張を欠かさない。……要するに、完璧な身体つきをしている。
それに、毎度言うように彼女の場合は顔も整っていて美しい。
加えて性格も親しみやすくパーフェクトと来たものだ。
こんなの、普通の男子が目にしてしまったら、純情なままではいられなくなるだろう。
――と、頭の先から足の先までじっくりと観察していると。
のぼせたように顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている幽子と目が合った。
「……えと、あの……怜太さん? そんなに見られるとですね、いくら私であっても、恥ずかしいといいますか……」
言って、太ももをこすり合わせながらもじもじする彼女。
そんな姿に俺は申し訳なくなり、咄嗟に目を逸らす。
「……っ、ごめん…………っ」
「……いえ、私こそ……」
露天風呂に、気まずい空気が流れる。
さっきまでは幽子が明るくふざけていてくれたからいいものの、彼女が恥ずかしがった今、空気を変えるものはどこにもない。
自分から動かなければ、何も変えられない。
俺がなにか気の利いたことの一つも言わなければ。
そう考えていると、幽子に先を越されてしまった。
「……あの、怜太さんって……このままでいいと、思ってますか……?」
しかし、それは決してこの空気を明るく変えるものではなく、より話しにくい空気へと突き進んでしまう重苦しい言葉だった。だからと言って、この話題は避けて通れない。
まさか幽子のほうからその話題に触れてくるとは思わなかったが、いずれは二人で話さなくてはいけないと思っていた、大切な話なのだ。
俺は、戸惑いながらも答える。
「それは……正直、このままではいけないと思ってる」
「そう、ですか……」
聞いて、少しだけ悲しそうな声色で呟く幽子。
だが、俺は言葉を止めない。
自分の考えを、この際きちんと言おうと心に決めたからだ。
「俺は、幽子と過ごしている今が、すごく楽しい。充実してる。それに――幽子も、楽しんでくれてると思ってる。でも……俺は、幽子に未練があるままじゃ、嫌だ」
彼女に告げると同時に、自分に言い聞かせるようにこぼす。
しばらく考えていたことだが――絶対に、二人にとってこの決断は間違っていないのだ。
それから、二人の間を大きな沈黙が覆い、夜風の吹き抜ける音と注がれる水音だけが岩の中央にこだまする。
数分の後、彼女が口を開いた。
「…………怜太さん」
「…………なんだ」
幽霊らしく、血の気のない声。
いつもの彼女とはかけ離れた元気のなさが、胸を締め付ける。
そんなこともお構いなしに、彼女は続けた。
それも、とんでもなく喜ばしくて、とんでもなく悲しい、彼女だけが知っていた、事実を。
「…………私、この世の未練、思い出したんです」
「…………なんだって……」
「……この施設のロビーで写真を見たときに気付きました。私は――ここを、知っています」
それは、ここに来たことを思わず後悔してしまうような、信じがたい告白で。
俺は――その場で、何も言えずにいた。
「それじゃあ、私はもう行きますね。十分楽しみましたし。また、部屋で会いましょう」
そんな心の状態を察してか、彼女はすぐに去っていく。
取り残された俺は、ポツンと一人。
何も考えられないまま、ただ永久に流れ続ける水音だけをぼんやりと耳にしていた。