――食後。
豪華な食事を楽しんだ俺たちは、すぐに部屋に帰るのも勿体なく思い、ロビーにて時間を潰していた。
ロビーの天井には天窓があり、そこから星空が楽しめるため、他の客も少しだけいる。
しかし、山奥の施設だからか比較的年配の方が多く、決してうるさくない。
落ち着いた雰囲気で星の瞬きを感じられるこの瞬間も、食事と同じく素晴らしかった。
今ばかりは読書家の木ノ葉も、本から目を離して夜空を見上げている。
幽子も天窓を透けて建物から出たり入ったり。
彼女なりの星空の楽しみ方を満喫しているようだった。
「ねね、月城! あの星、ソフトクリームみたいに見えない?」
隣の成瀬が、テンション高く話しかけてくる。
それはいいんだけど、今のって青空で雲を見たときに言うセリフじゃないか……?
疑問に思いつつも、面倒くさい男だと思われないためにツッコまずに同意する。
すると、それを見ていた木ノ葉がなぜか「むむむ……」と唸り出し、対抗心をあらわにし出した。彼女も星空を指さして似たようなことを言う。
「お兄ちゃん。木ノ葉だって見つけたんだから! ほら、あの星見て!」
少し大きな声だったため、周囲の客も木ノ葉の指先を追っているようだ。
俺はその人たちに頭を下げながら、彼らに続いて星空を見上げて――
「ほら! あの星、総理大臣!」
「ガチのすごいやつじゃねーか!」
――成瀬のソフトクリームとは次元の違う、とんでもない完成度の星座が出来上がっていた。
ちょっと、え⁉ あれ本物⁉
目をこすってみても、何度見ても変わらない。
彼女が指さした夜空には、総理大臣の肖像画そっくりの星座が浮かび上がっている。
当然のことながら周囲は騒然となり、腰を抜かす老人まで現れはじめた。
写真を撮ってネットにアップする人や、知人にメールをする人が後を絶たない。
ちょっとしたパニックはパニックを呼び、騒ぎを聞いて駆け付けた他の客もパニックになる。
そうして現場は大混乱に陥って、警察が出動するような騒ぎに――――なる前に収まった。
理由は簡単。総理大臣に見えていた星が、星じゃないことが分かったからだ。
冷静に星を見ていた音垣先輩を始めとする何人かが、あれはたまたま飛んできた小石が総理大臣の形に天窓にくっついただけだと指摘したのだ。
……なぁんだ、偶然小石が総理大臣の形にくっついただけか……。
一同のテンションが徐々に落ち着いてくる。しかし。
……いや、待てよ……? 総理大臣の形に並んだ、小石……?
先輩たちの言葉に冷静になった人々は、再び考えることを始め――
「いや、小石でもじゅうぶんすごいわ!」
「なに⁉ 総理大臣のかたちってそもそもなに⁉」
「え、ちょ……えーと……え⁉ えええええええ⁉」
――大パニックにはならないまでも、宿泊客の間で小パニックになった。
……総理大臣のかたちって、本当になんだろう。
周りの人たちのSNSが急激に人気を獲得する音を聞きながら、俺は天窓に腰かける真の流行メーカーに目を向ける。
すると、彼女はいつものように開き直った様子でぺろりと舌を出しながら言った。
「星空を見ながら女の子といい雰囲気になるイベント、この手で潰してやりました!」
……今回も、恋愛成就を阻止するのが目的だったらしい。