「ええと、幽子……?」
「なんですか? 愛の告白ですか怜太さん! もちろんオッケーですよ結婚しましょう!」
「そうじゃなくてだな……」
パニックがある程度収まった頃。
他の文芸部のメンバーには先に部屋に帰っていてもらい、俺は幽子を呼び出していた。
それというのも――
「……俺に憑くのはいい、百歩譲ってそれは許すんだが……総理大臣の星座はやりすぎだろ!」
――もちろんのことながら、先程のパニックを巻き起こしたことへの説教をするためだ。
しんと静まり返った休憩コーナーに、俺の説教が染みていく。
それにはこのやりすぎ幽霊も反省したらしく、珍しく素直に頭を下げた。
「……ごめんなさい。私……焦ってたんです。このまま私が成仏しちゃったら、怜太さんは私のことなんか忘れて、他の子と生きていくんだなって……。もちろんそれは素晴らしいことなんですけど、自分の心に整理がつかなくて……」
しゅんとして、落ち込んでしまう幽子。
いけないことをしたのはもちろん彼女で、叱ったことは間違っていない。
でも、俺は彼女に少しきつく言い過ぎてしまったのかもしれないと少し反省する。
そしてもう少し彼女の心情も察してやればよかったと思い直し、幽子を許すことにした。
「……まあ、起こったことはしょうがない。今回は珍しいものが見られて喜んでた人もたくさんいたしな。ただ……これからはあんまり関係ない人に迷惑かけるなよ?」
言うと、幽子は少し笑顔を取り戻して。
それから、数十秒黙ったあとに。
「……分かりました! 今度から私は、怜太さん専属のお邪魔虫です! この旅行中にも絶対に恋人なんて作らせませんから、覚悟しておいてくださいよ!」
こぶしを突き上げて宣言する幽子。
その姿は出会った時から変わらない、俺が知っている幽霊の幽子そのものだった。
「それと、成仏だって自分のタイミングでしてやるんですから! 怜太さんに嫌々成仏させられる筋合いなんてありません! ここからは私の――生前の私の未練との勝負です!」
「成仏」というワードから吹っ切れた彼女は、今までのように面倒で。
それでいて、俺の一番大好きな同居人であり、相棒だった。
「いや、恋人は作らせてください邪魔しないで下さいお願いします」
*
「うわぁぁぁぁん、月城、助けてぇぇぇぇぇぇえ!」
幽子への説教が終わって部屋に帰ると、まず俺を出迎えたのは絶叫だった。
「月城」という呼び方からも分かる通り、声の主は成瀬。
しかし、いつもの成瀬とは少し様子が違くて――
というのも、目の前にいる彼女は俺が知っている姿とは似ても似つかない、とんでもない格好をしていたのだ。
「……えっと、どうして成瀬は亀甲縛りを? 趣味なら家に帰ってからにして欲しいんだけど」
「ちがうよ! どう見ても自分で縛ったんじゃないでしょこの縄! 助けてよ!」
SMに目覚めたのかと思われた成瀬だが、どうやら成瀬は何者かに縄で縛られてしまっただけのようだ。誰かは知らないがナイス! 胸が強調されていい感じになっている。
まあ、真面目な話、縛ったのはついさっき犯行予告まがいのことをしていた幽子だろう。
あれだけ邪魔をしようと張り切っていた彼女だ。すぐに行動してもおかしくはない。
それなら事件性もなく心配ないし――
と、隣でぷかぷかと浮いている彼女と目が合う。
しかし、幽子は全くこの事態を知らなかったようで、指でバッテンを作り首を振っていた。
……え、じゃあ誰が……。
幽子や知り合いの人間の仕業でないとすると、さすがにマズい。
ここは先生たちやセキュリティに守られた学校とは違って、外部の人がたくさんいるのだ。
成瀬を縛った犯人を考えてその目的を推測する。
やはり、この宿泊施設には若者がほぼいないため、若い女性を狙った猥褻などを目的とする犯罪だと考えるのが筋だろう。
俺はまだ見ぬ犯人に怒りを覚え、なにか武器になるものはないかと周囲を見渡し――
「は、はろーお兄ちゃん…………」
「ど、どうも~…………」
「……………………」
――両手にロープを持って仕事中の忍者みたいなポーズを取っている先輩と、長めのムチを構えて成瀬を狙っている木ノ葉を発見した。
犯人はこの中にいた!