え⁉ 木ノ葉ってこんなに積極的だったっけ⁉
か弱いイメージが強く残っていたからか、普通よりもオーバーに動揺してしまう俺。
しかし短時間で思い返してみると、部室で隣に座りたがったり喫茶店で自ら間接キスを演出してきたりと、俺と二人のときはかなり前のめりだった気もする。
「いやいやいや、ちょっと待て! そういうのは、ちゃんと好きな人と――」
個人としては流されてしまってもいいのだが、今後の人間関係を考え、断ろうとする俺。
手をつないだりキスをしたり。
場の雰囲気に流されそうになったことは何度もあるが、基本的にそういったことは付き合ってからというのが俺の基本的な価値観だ。
そのため慌てて拒否しようとすると、舌なめずりをしながら木ノ葉が言った。
「木ノ葉は……お兄ちゃんのこと、ずっと好きだよ……?」
…………へ?
時間が、止まったような感覚に陥る。
いやまあ、何となく木ノ葉は俺のことが好きだろうと分かってはいたし、喫茶店で木ノ葉の気持ちを直接耳にしたことだってあった。
でも、そういう場面では今まで、ことごとく幽子がおもしろおかしく邪魔をしてきて――。
真っ白になる頭で、幽子を探す。
すると、木ノ葉の後ろの方でぷかぷかと浮いていた彼女は、今や地面にへたり込み――
「うわぁぁぁぁぁん、木ノ葉ちゃん、みんなに認められてよかったですねぇぇぇぇ……」
――さっきの木ノ葉の話を聞いて、号泣していた。
だから今回は邪魔してこなかったのか!
ぐちゃぐちゃになった顔にハンカチを当てて、わんわんと泣く幽子。
憑いてきて以来、彼女が邪魔をしてこないのは初めてだ。
俺は長いこと近くにいた相棒がかまってくれないことに若干の寂しさを覚えつつ、それならばこの貴重な機会に木ノ葉との恋愛を成就させてしまおうと意気込む。
しかし、「じゃあ、キス……しよっか」と俺が言いかけると同時、木ノ葉が呆れたような表情で座り直し、こんなことを言ってきたのだった。
「……やっぱりお兄ちゃんは、受け入れてくれないよね……。でも、お兄ちゃんのそうやって女の子のこと考えられるとこ、好きだよ。だから今回は……友達のキスにしよっか?」
…………ええー。
せっかく今回こそ邪魔されずに女の子と付き合えると思ってたのに、すっごく言い出しにくい雰囲気にされてしまった。
肩を落としながらも、一応「友達のキスって?」と尋ねてみる俺。
すると木ノ葉が立ち上がって、座っている俺の正面に立ち、跨ってきた。
「……お兄ちゃん、きちんと木ノ葉の味、受け取ってね」
そう言うと、彼女は俺の唇に向かって自身の唇を尖らせ、近づいてくる。
その体温と女の子の柔らかさにどぎまぎしていると、彼女は唇同士が触れる瞬間に小さくその先端を開き、湿った吐息を俺の口内に送り込んできた。
それを懸命に舌で転がし、口の中の皮膚すべてに浸透させて吸収しようと試みる。
しかし木ノ葉の唇はもう逃げてしまっていて、俺の顔全体に向けてもう一度、息をふぅっと吹きかけた。
「これが友達の接吻、だよ」
にやりと笑う彼女に、俺は寒気にも似た快楽を全身で感じる。
気持ちよくて、甘くて、淫靡で、蕩けそうで。
骨抜きとは、こういうことを言うんだろう。
呆然とする俺に、木ノ葉が語り始める。
「これね、今日読んだ小説の中に、書いてあったの。きっとキスしようとしてもお兄ちゃんは断るから、そしたらこれをお見舞いしてあげようと思って」
小悪魔的に微笑む木ノ葉を前に、俺はどうしても言いたいことが一つ。
忘れていたが、俺も中学生のときにその本を読んだことがあるのだ。
――っていうか!
「その小説、俺が昔お前に貸してやったやつなんだけど!」
「借りておいて積んでましたごめんなさいお兄ちゃんっ!」
……まあ、いい感じにこの甘酸っぱくて気が狂いそうな空気をぶち壊せたからある意味よかったんだけど。