幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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第十一話「性感」

 木ノ葉と二人で建物の中に帰り、俺はもとの憩いの場へ、木ノ葉は部屋へとそれぞれ戻っていく。甘ったるい空気はなくなったが、まだ少しだけ頬が熱を持っているような気がした。

 自販機で買った冷たい水を飲みながら、置いてあったマッサージチェアに腰かける。

すると、思ったより一日の疲労が蓄積していたようで、身体のいたるところから悲鳴が聞こえてきた。明日は特に活動内容がない確認だけの日なので、ゆっくりさせてもらおう。

「怜太さん怜太さん! 私が見ていない間に何があったっていうんですか、そんなに真っ赤な顔して! きぃー!」

 ……身体の悲鳴より先に、目の前の幽霊の奇声をなんとかするべきだとは思うけど。

 と、相変わらず騒がしい幽子の喚く声に耳を塞ぎたくなってきたときだった。

「お待たせしたわね、月城くん」

 幽子とは対照的に、落ち着いた、上品な口調の先輩が椅子の上から顔を覗き込んできていた。

 俺は反応が遅れてしまったことを謝ると、すぐに立ち上がって「どこに行きましょうか」と彼女に訊ね、外に行く準備を始める。

 しかし彼女は俺の胸に人差し指を当ててそれを制止すると、近くにあった背もたれのないベンチに腰掛けた。

 

「私の番は、外には行かないわ。月城くん、あなたを癒してあげる」

 

 言うと、彼女は俺をベンチに寝かせ、上に跨ってくる。

 お腹に感じる彼女の体温に、俺の身体がビクンと反応した。

「ちょ、ちょっと待って先輩! 何する気ですか!」

 急な身体の接触に驚いたこともあり、大きな声を出してしまう俺。

 申し訳ないとすぐに反省するが、そんなことを彼女は気にした様子もなく、その細い人差し指を俺の唇に当て、言葉を遮ってくる。

 そして、跨った状態のまま耳元に顔を近づけて言った。

「……今からあなたにマッサージを施すわ。言ったでしょう、癒してあげるって」

 その囁くような声のくすぐったさに、思わず身を捩ってしまう。

 すると、彼女にもその振動が伝わったんだろう。

 恍惚の表情で「……あらあら♪ 我慢しなくてもいいのよ」なんて、舌なめずりをし出した。

 至近距離で薫ってくる先輩の妖艶な香りが、鼻腔をくすぐる。

 公共の場であるとはいえ、人気のない場所で、二人きり。

 それも、先輩は俺を癒してくれると約束しているのだ。

 これはきっと――エッチなマッサージに、違いない! でも!

「やっぱり、ダメですよ!」

 普段の俺なら、流されてしまっていたかもしれない。

 誰とも恋愛関係になくて、告白すらされていない、いつもの俺だったら。

 しかし、木ノ葉があれだけ勇気を振り絞って告白をしてくれた後なのだ。

 ここで快楽を求めてしまうのは、男としてどうなのだろう。

 そう思っての一言だったのだが、そんな俺の咄嗟の足掻きが、この用意周到な年上女性に通用するなんてことは到底あるはずもなく――

「あら、何がダメなのかしら。月城くんのが硬くなってるから……それを、やわらかくしてあげるのよ?」

 より直接的な言葉で、彼女は逃げ場をなくしてきた。

 しかし俺は、ここで諦めるような男じゃない。

 意思を固く持っていれば、場の雰囲気に流されることなどないのだ!

「……やっぱり、ダメですよ。先輩は……もしかすると慣れているかもしれないけど、俺は初めてですし……俺にも、いろいろな事情があるんです!」

 ……言い切った。

 先輩がもし初めてじゃないことが分かったら嫌な気持ちになるが、これだけ言えば聞く耳を持たなかった先輩も観念して辞めてくれるだろう。

 俺は、自分で自分を褒めたいような気分で誇らしげに先輩を見つめ直す。

 しかし、それでもなお先輩は諦めてくれないようで――

「……事情云々に関しては分からないけれど、舐めないでくれるかしら。私は頻繁にお父さんや弟に施術しているのよ? 初めてでも痛くしないと誓うわ」

――なんか、謎のカミングアウトとともにより意固地になっていた。

ってか、ええっ! お父さんや弟さんに毎日⁉

彼女の家庭環境が、今酷く心配になってきているんですが!

……いや、冷静に考えればそんなはずはないだろう。

少し頭を冷やしてみれば、本質が見えてくるはずだ。

俺の知人の中でも、先輩はかなりの常識人で、頼れる人だ。

そんな先輩が、エッチなマッサージを家族に頻繁にしているなんて話を信じるほうがおかしいじゃないか。

きっと――これは、売り言葉に買い言葉だったのだろう。

俺が生意気に言葉を返すような真似をしたから、勢い余って口走ってしまったんだ。

だとするなら、俺がとるべき行動は一つ! その嘘を暴くことだけだ!

「先輩……! その話、嘘……ですよね?」

 俺は、真剣な顔つきで先輩を見据え、言い放つ。

 不毛な嘘の議論をこれ以上見栄だけで頭のいい先輩が続けるとは思えない。

 だから、次に彼女の口から出る言葉は限りなく真実に近いわけで――

「……月城くん、さっきからどうしたの? ちゃんと痛くしないって言ってるじゃない。ほら、大人しくして」

――先輩の家庭状況の混沌とした様子が、俺の中で真実の色を段々と獲得していった。

嘘だろ、本当にお父さんや弟にも同じようなサービスを……!

ええい、こうなったら流されてやるわ!

もうこの際どうなったって構わない! どうにでもなっちまえ!

 据え膳食わぬは男の恥じゃ――――――――――!

 

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