――数分後。
「……月城くんのここ、すごい硬くなってる……」
「先輩……そこっ……んぁっ……気持ちいいです……っ……」
「くすぐったかったら、声を出していいのよ……。その方が、快楽はたくさん感じられるんだから……」
「先輩……俺、もう……気持ちよすぎて……っ……ああっ!」
あの憩いの場には、先輩が俺に施術をする艶めかしい声と、俺の我慢できずに漏れた吐息交じりの喘ぎ声が響き渡っていた!
……まあ、普通にエッチじゃないマッサージの施術だったんだけど。
彼女の施術は、さっきまで赤くなって色々と先輩に突っかかっていたのが恥ずかしいくらいに健全で、そしてとても洗練されていた。
家族をよくマッサージしているという彼女の言葉は本当だったようで、強い力でツボを押しているにも関わらず、受けていると痛いよりも気持ちいいという感情が勝つ。
全く痛くないわけではないが、凝り固まっていた筋肉が解れていく快感は、その痛みを越えて体の芯まで届いてくるのだ。さらに、施術を受けて初めて凝っていることに気付いた箇所ほど余計に気持ちよく、今までの重たい身体はなんだったんだと常識を変えられそうになってしまうほどだ。だから、もちろん先輩が言うように気持ちよさからくる声は漏れてしまうわけで……。
「……んんっ……あっ、先輩、そこ……っ!」
「……ふふ、かわいい。我慢しないで出しちゃっていいのよ」
こんな風に、声だけを聴くといかがわしく聞こえてしまう状況が作り出されているのだ。
そのせいか、幽子がどこからか持ってきたハンカチを噛んでこっちを見ている。
「……ぐぬぬ……私の怜太さんを…………!」
俺はお前のじゃない。
ツッコみたくなるが、先輩のマッサージが気持ちよくて声帯に力が入らず、言葉が出てこない。しかもなぜか、幽子の剣幕はいつものゆったりとした嫉妬と違い、赤黒く煮え滾ったマグマのようなどす黒いオーラを孕んだ嫉妬で――
「……私、このままずっとこんな光景を見せられていたら怒りでこの旅行をなかったことにしてしまいそうです」
――ボソッと、俺にだけ聞こえる声で物騒なことを呟いてきた。
待って、これ止めないと本気で俺たち全員の記憶とか操作し始めるやつじゃ……⁉
それに気が付くと、俺は名残惜しくも先輩にマッサージの終了を願い出る。
しかし、施術は序盤の方だったようで、先輩は頑なにマッサージをやめないと主張してきた!
「月城くん、あなたこんなに肩が凝ってるのよ? 日頃から姿勢悪くして読書してるし、普段の姿勢も悪いし……とにかく、もうちょっとやらせなさいっ!」
「ダメですって先輩! 俺……と、とにかくマッサージをこれ以上受けられない理由があるんですって!」
「なによそれ! 恥ずかしくても声出していいって言ってるじゃない! このまま放っておいたらもっと辛いのよ? 痛くても我慢して!」
「そうじゃなくて……! もっと壮大な理由なんです! だから、ほら、やめてぇ!」
幽子のことが言えない手前、主張が曖昧になってしまう俺に不満そうな先輩。
こうして面倒な口論はそれなりに長く続き――
「とにかく! やめないと大変なことになるんですって――――って、うわぁ!」
「ちょっと月城く――――きゃっ!」
――ヒートアップした俺たちは体勢を崩して、ベンチの上から転がり落ちてしまった。
回転して落ちたため、俺の目の前は天井ではなく、リノリウムの床。
……つまり、俺が先輩を押し倒すカタチになってしまっている。
「ご、ごめん先輩っ……!」
突発的な事故であるとはいえ、この場合悪いのは俺だ。
危険な目に合わせてしまったことに謝罪をして、すぐに先輩の上から飛び退く。
――しかし、何を思ったのだろう。
床に寝そべって笑顔を浮かべる先輩は、俺の浴衣の裾を片手で強くつかんでいた。
「…………先輩?」
俺は、彼女のその行動にどぎまぎしながらも辛うじて声を絞り出し、尋ねる。
すると彼女は、言葉では表さないものの、行動で俺に感情を伝えてきた。
というのも、彼女は俺の裾を握ったまま、静かに目を閉じたのだ。