「はぁ……せっかくマッサージしてもらったのに幽子のせいで疲れたなぁ」
意識を戻した先輩を部屋に送り届け、再び憩いの場へと帰ってくる。
既に俺にとっては憩いの場なんて優しいものじゃなく、各種地獄揃えましたみたいな恐怖の空間となっているわけだが、女子たちにとっては関係ないらしい。
「私のせいとは何ですか! 怜太さんがエッチなのがいけないんですよ!」
ベンチに座って漏らした呟きに、やはり突っかかってくる幽子。
俺はそんな彼女に、いつもの通り静かに反論をしようと試みるわけだが――
「…………どの口が言ってるんだ」
「上の口ですけど⁉」
「そういうことじゃねえよ! ほら、お前の方が確実にアウトじゃねーか!」
――やはりそのあたりは今も宿主を翻弄し続ける幽霊。
彼女にはまだ口でも適わないみたいだ。
半ば勝てないと分かりつつ言い合いを続けていると、例によって客室の側から足音が聞こえてくる。順番的にも、成瀬で間違いないだろう。
言い争いをやめて、彼女とのツーショット会話のため、気を引き締める。
すると突然幽子が「では、ちょっと用事がありますので!」なんて言いながら窓をすり抜けて屋外へ飛び出し、いなくなってしまった。
またなにか嫌なことを企んでいなければいいのだが、今に関してはむしろチャンスである。
俺は幽霊に邪魔されない成瀬との時間を楽しむべく、ワクワクしながら立ち上がった。
そして、俺の想い人にして学校でもトップクラスの人気者、成瀬姫香のもとへと歩いていく。
「よっ、成瀬。じゃあ……どこ行くか?」
緊張を隠すように、俺は極めていつも通りを演じながら話しかける。
すると、成瀬も近づいてきて片手を上げ、挨拶を返してきたのだが……。
「こここ、こんばんは月城! 今日は足元のお悪い中、天気も良くて……ええと、む、ムラムラ……じゃなくて、ポカポカ陽気だね! だよね⁉」
人前に出た木ノ葉もビックリするくらいのレベルで緊張をあらわにしていた。
…………いやどうした! 天気の話しかしてないし、もうじき今日も終わるし、晴れなのか雨なのか全然わかんないし! 顔真っ赤で目グルグルだし!
もう色々としっちゃかめっちゃかになっている成瀬だったが、これを立て直さなければ二人で語り合うどころじゃない。
俺は未だ「ブゥン」と耳障りな音を放ち続ける自販機から水を購入すると成瀬の火照った頬に当て、彼女が落ち着くまで近くで待った。
そして、顔の赤みも引いてきたころで本題の今から何をするかについて話題を振る。
すると、少しまた顔を紅潮させた成瀬が、衝撃の発言を繰り出した。
「ええと……今から、二人で貸し切り風呂、予約しちゃった……」
俺はまた、天国か地獄かはっきりしない境界に身を置くことになるらしい。