成瀬に連れられて、貸し切り風呂へと向かう。
貸し切り風呂は、普通の大浴場とは別の場所にあるらしい。
それどころか館内にもないらしく、俺たちは少し肌寒い外にいったん出て。
それから、別館へと橋を渡って移動した。
すると確かに「月城様御一行 貸し切り」と書かれた札のそばに、赤でも青でもない黄色の暖簾がかかっているのが見える。誰も来ないとは分かっていつつも、俺たちは「入浴中」の札を掲げ、その中へと足を踏み入れた。
早速暖簾の奥にある引き戸を開き、中に入る。
すると、いきなり脱衣所が広がっているのだが――狭い!
大浴場の広い敷地を想像していたから安心していたが、貸し切り風呂は基本的に家族用。
つまり、最悪密着しながら着替えても大丈夫な状況を想定して作られているわけで――
「こ、ここで着替えるのか…………?」
――脱衣所は、隠れるところなどなく男女が裸をさらけ出す場所と化していたのだ!
しかし、さすがに言い出しっぺの成瀬とはいえ、これは想定外だったはずだ。
きっと彼女も予期せぬ事態に戸惑い、取り乱していることだろう。
そう思って隣にいる成瀬の顔を覗き込むと――
「つ、つつ、月城! は、早く着替えましょ!」
――なんて、なぜか決意に燃えた瞳をしてらっしゃる!
そんなに顔を真っ赤にするなら無理しなければいいのに!
自分からここに来たいと言い出した結果引っ込みがつかなくなったんだろうけど、さすがに急にこれは不自然だし、無理がありすぎる。
俺は成瀬を説得してなにも怒らないうちに帰ろうと思い、彼女の方を向く。
でも、成瀬は逆に吹っ切れたようで、既に浴衣の紐をほどき始めていた!
「ほ、ほら……月城も、早く脱いで……?」
耳まで真っ赤にして、半裸の成瀬が言ってくる。
そんな彼女を見て、俺の中の男の部分が語りかけてくる。
……ここまでされて、帰ってしまうというのはいかがなものなのか?
……いつもと違って幽子がどこかに行っているこの状況、今思いを伝えなくていつ恋愛関係になろうというのか?
……先輩のときは欲望だけだったが、成瀬に関しては明確な恋心がある。それで何を躊躇うことがあるのか――?
冷静に考えてみると、確かに俺がここで我慢する必要はないじゃないか。
ずっと好きだった女の子。
それも、相手も自分のことを好いてくれていて。
そんな状況で、何を俺は自分を押さえつけて――
思ったときには、既に俺は浴衣を脱ぎ捨て、パンツ姿になっていた。
成瀬も目の前で、上下揃った水色の下着姿になっている。
観察していると、目が合って「変態……」と呟かれる。
しかし、それは照れ隠しによるものだ。
傷つくどころか、むしろ興奮する。
それから――パンツも、脱ぎ去って。
裸になった俺たちはガラス戸を開けて湯船へと向かう。
もちろんバスタオルで前を隠してはいるが、ノーガードの後ろ側は丸見えだし、前だって豊かな凹凸は手に取るように分かるわけで。
お互い反対側にあるシャワーをパパっと浴びると、濁った湯で身体を隠すかのように湯船に飛び込む。そして、二人は肩の力をようやく抜いて――
顔を見合わせて、どちらともなく笑い出した。
しばらく、湯の足される音と笑い声だけが室内にこだまする。
それから、少しの沈黙があって。
「――こうして、誰にも邪魔されずに二人になれるのをずっと待ってたんだ……」
成瀬が、呟くように話し始めた。
いつもの快活な話し声とは違って、落ち着いて丁寧に編まれたような声。
その声は湯気のように細く、すぐに消えてしまいそうなほど可憐だ。
しかし、言葉の中に込められた決意は強く、そして真剣で。
一直線の矢の如く俺の心を貫き、掴んで離さない。
「だからね、月城……。一度しか言わないからよく聞いて……?」
成瀬が、俺の目をまっすぐ見つめる。
そして、渇いた唇を湿らせるかのようにペロッと舐めると――
「わたし、月城のことが――――食べたい! 怜太さん、食べたいですよっ! 怜太さんも私のこと、食べたいですよねっ! ね!」
――一世一代の大告白を、大失敗に終わらせた。
っていうか、途中から明らかに幽子に乗っ取られていた。