「えっと……お兄さん……? な、何の御用でしょうか……?」
「何の御用でしょうか? じゃないよ! こんなとこで何しようとしてんすか!」
走り出した勢いのまま、ショーツ脱ぎかけの彼女の腕をつかむ。
すると彼女は驚きの表情とともに、なんとか手だけは止めてくれたようだ。
彼女の一糸まとわぬ姿が衆人の目の晒されることにならず、ひとまず安心する。
詳しいことは分からないが、下着姿と全裸では刑の重さも変わってくるだろう。
それに知らない人だとはいえ、美人な女性が下半身を大衆に見せびらかすのを見過ごすなんて、俺にはできない。酩酊状態の彼女が素面に戻ったとき、自分の失態を嘆くにしてもこれは度が過ぎているだろう。最悪、自殺してしまうほどだと思う。
さて、なんにせよ俺はとうとうこの女性に関わってしまったわけだ。
そうなってしまった以上、もう知らんぷりは許されない。
責任をもって、彼女を説教しなければならない。
と、思っていたんだが。
「え……っ……、返事が……。じゃ、じゃあ、ほんとに私が……?」
「なに変なこと言ってるんですか! 早く服着てください! あとリンボーダンスやめて!」
「ほ、ほんとなんだね……ふ、ふぇ……うわぁぁぁぁぁん……」
なぜか、泣き出してしまった。
酔うと露出狂になるうえに、泣き上戸まで持ち合わせているのだろうか。
「ええと……なんで、泣いてるんですか……?」
とりあえず、なにか会話を続けなければ。
そう思って目先の疑問を口にしてみたのだが。
「だってぇ……それは、あなたが私のこと、見て、触ってくるからぁ……」
「誤解されるようなこと言わないでください!」
完全に、俺が美人女性を触って泣かせたという危ない構図が出来上がっていた。
さっきとは違って、浮いている対象が二人に増えたからだろう。
大衆の異様なものを見る目が、完全に俺たちに向けられている。
さっきまで見ないようにしてた人たちが、全員こっちを向いたみたいだ。
「ちょっと、ここじゃ人目に付きますから……こっちに来てください!」
「ふぇぇん……ぐすっ……すんっ……」
彼女の手を引いたまま、俺はその場をあとにする。
半裸の女性を引き連れて歩くのはかなり注目を集めたが、その場で何か対処するよりはいいだろうと考えた結果だ。
とにかく彼女をこの衆人環視の中に置いておくのは避けたい。
泣きじゃくる彼女の顔がだんだんと涙ゆえのものから別のものへと変わっていることなんて俺には気付けようもなく、彼女の身体をコートで隠しながらそそくさとその場を去った。
なお、リンボーダンスのセットはそのままモールの通路に置きっぱなしだ。