「ほ~ら怜太さん、憧れの成瀬ちゃんの裸ですよ~? 今ならいくら見ても触っても、誰も文句なんか言いません! さあ、見てください! ひゃっふぅ――――!」
根っからの露出狂である幽子。
このシチュエーションを邪魔するとともに、自分の性癖を満たしてやろうと計画していたのだろう。最初から姿を見せなかったのも、ここまで状況を整えるためか……。
「分かった分かった。ほら、成瀬に体を返してやれ。な?」
「アレっ⁉ どうして私だって分かったんですか――! 騙されて飛びついてくださいよ!」
「騙されるわけないだろ! いい雰囲気だったのに……もうっ!」
今回ばかりは期待していただけに、肩を落とす俺。
長引いてしまった告白を山奥の風呂で行うことに魅力を感じていたのに、この幽霊は――!
イライラしつつ、怒っても仕方がないので身体を拭いて、脱衣所に上がる。
「ほら、早く成瀬に変われ」
そして、もう一度幽子に成瀬とチェンジするよう促した。
しかし、なぜだろう。
後ろで着替えているはずの幽子からは返事がない。
「おい、返事しないと振り向くぞー」
再び催促して――それでも反応が無いため、宣言通り後ろを振り向くことにした。
すると。
「ええと……あの……」
なにやらばつが悪そうな顔をして、俯きがちに膝をこすり合わせている幽子。
それから彼女は、申し訳なさそうにこっちを向いて――
「ごめんなざいいいいい! 成瀬ちゃんはあと数時間幽体で眠ったままなんでずううう!」
――と、自分の犯した罪を涙ながらに絶叫告白してきた――。
ええと……つまり、寝るまで幽子はこのまま成瀬の身体に……?
*
「ただいまー」
「おかえりなさい、月城くん」
「あっ、おかえりお兄ちゃん!」
全員のデートが終わり。
役目を終えた俺は、みんなが待つ自室へと帰宅する。
すると快く迎えてくれる文芸部のみんなだったが――
「あれ? 成瀬さんはどうしたのかしら?」
「姫香ちゃんが見当たらないよー?」
――俺が成瀬と一緒じゃないことに、違和感を抱いたようだ。
それから、首をかしげて俺の背後を確認しようとする二人だったが――
実際に俺の後ろを見た途端、口をあんぐりと開けて動きを止めてしまった。
それもそのはず。
俺の後ろにいる成瀬は、俺の浴衣の中に腕を入れて絡みつくように抱き着いていて――
「えへへ……月城……うふふ、えへへ、あはぁ……うひひ♡」
――と、こんな形でふにゃふにゃに蕩けているのだから。
「なにがあったのお兄ちゃん⁉」
数秒遅れて、動きを取り戻した木ノ葉が叫ぶ。
ポンコツだが普段はしっかりものの成瀬がこんな風になっているのを見たことがないからだろう。彼女は自分の頬をつねり、「現実だ……」などと虚ろな目で呟いている。
先輩に関しては、動きが止まったままもう二分も経っている。
腰でも抜けたんじゃないだろうか。
そうしてカオスとなった空間に、成瀬の声だけが反響する。
「うぇへへ、月城ぉー。今夜は一緒に寝ようね♪ 絶対だからね♪」
正直、息が詰まりそうでもう帰りたかった。
……誰か助けて!
――数分前のこと。
「お前、どうするんだよ! このままじゃすぐ全員にバレちまうぞ!」
「しょうがないじゃないですか! 成瀬ちゃんの体だったら怜太さんも興奮して見てくれるかもしれないって思ったんですからー!」
事の重大さを知った俺たちは、貸し切り風呂の脱衣所で口論になっていた。
「いつも霊体だったから怜太さんにはポルターガイスト以外で触れませんし、自由に人間の感覚でべたべた引っ付きたかったんですよ―――!」
「ああ、もうっ! 理由はなんだっていいよ!」
泣いて縋りついてくる幽子を、浴衣の袖で振り払う。
「とにかく、今はこの状況をどうやって乗り切るかだ! なにか提案がある人!」
「はいっ!」
「どうぞ、憑きまとい大臣、幽子くん」
「え、ええと、最低限口調とか呼び方は統一すべきかと!」
「……うむ。一理あるな……。それじゃあ、練習するぞー!」
そんなくだりがあって、幽子は成瀬の言葉をマスターしようと頑張った。
「怜太さ……月城! ええと、い、一緒に三途の川で釣りしま……しない?」
「駄目! やり直し! 呼び方は月城、語尾は敬語じゃなく、三途の川は行かない!」
最初の方こそぎこちなかったが、呑み込みが早いようですぐにマスターし始める幽子。
そして、今やデレデレの完璧な成瀬として振舞っているのだ!
「えへへ、月城っ。見て見て、わたしの鎖骨おいしそうでしょ!」
……セリフが普段の本人とかけ離れているのはさておき。
こうしてなんとか違和感なく成瀬として部屋に溶け込むこととなった幽子。
しかし、事件は新たな事件を呼んでしまったようで――
「ぐぬぬ……お兄ちゃんと姫香ちゃん、さっきのツーショットで何があったの……!」
「姫ちゃん、ここで本気を出してくるとは……むむう……」
何やら真剣な顔で、残りの二人が考え込んでいる。
そして、みんなで布団を敷きながらテレビを見ていると、唐突に先輩が宣言した!
「今日はみんな、月城くんにくっついて寝ましょう!」
ええっ! ちょっと、またそんないきなり……。
驚く俺とは対照的に、なぜだか好戦的な笑みを浮かべる女子たち。
そして、並べた布団を俺の布団に各々くっつけ始め……
ここに、危ない一夜が幕を開けることとなったのだ。