「じゃあ、電気消すわよー」
消灯時間。
各自歯磨きやトイレなど準備を済ませて、布団にもぐる。
本来ならば、一日で一番身も心もリラックスできる、至高の時間だ。
しかし、現在の俺はといえば――
「えへへ、月城? 寝込みを襲っちゃうぞ☆」
「えっへん、お兄ちゃん! 木ノ葉を抱き枕にしてもいいんだよ?」
――左右から、猛獣に狙われていた。
右からは幽子扮する成瀬が、左からは木ノ葉が。
さらに――上からは、音垣先輩のなにやら柔らかいものが当たっている。
眠れねえええええええ!
心地良い疲れが俺を眠りに誘おうとするのだが、今だけは最高に要らない!
ここで俺が眠ってしまったら、どうなってしまうことやら……
不安に思っていると、近くから息遣いが聞こえてくる。
不思議に思って耳を澄ませると、それはほぼ全方位から聞こえて来るではないか。
ええと、この音の正体は……。
「すぅ……すぅ……むにゃ……すぅ……むにゃ……すぅ……」
全員の、寝息でした。
みんなも今日一日動いたりお風呂に入ったりで疲れたみたいで、即寝落ちしてしまっていたようだ。助かったけど、ちょっと勿体なかったな。
……まあ、音垣先輩の柔らかいものは当たったままだけど。やっほい。
*
そうして、昨夜は悶々としたまま。
それでも結局睡魔に軍配が上がり、俺は気持ちよく夢の世界に旅立った。
――で、迎えた翌朝。
布団の中で目を覚ますと、視界に飛び込んできたのは木色の天井――ではなかった。
なにか湿ったものが覆い被さって、視力と、ついでに呼吸を奪ってきている。
「……なんだ、息苦しい……」
寝起きの気怠さもあって、俺は一気にそれを掴んで横に放り投げ――ようとして、失敗した。
なぜなら今俺が掴んだものは、寝具やタオルなどではなく――
「……んっ……あっ……おはよう、月城くん……ふぁ…………」
眠たそうにあくびをしている、巨乳の先輩の脚だったからだ!
ハリがあってムチムチと柔らかい太ももが指に吸い付いてきて、とんでもなく気持ちいい。
しかもこの先輩、浴衣ははだけてるし髪は乱れてるし、なんかとんでもなくエロい!
このまま先輩の脚を触りながら下着を顔に押し付けていたいが、他のメンバーもいる中そういうわけにもいかず、俺はもう一度感触を確かめてから注意する。
「ちょっと、寝ぼけてないでどいてください! 朝ですよ!」
すると先輩は、なんでもないことのように髪を手櫛で梳きながら言ってきた。
「朝じゃないわ。じきに昼よ」
「分かってるなら余計に早くどけぇい!」
……計画的犯行だったらしい。
やっとのことで先輩を説得して、布団から出ようとする。
すると、今度は下の方に違和感があって――
「お兄ちゃん……の、お兄ちゃん……むにゃむにゃ……」
視線を向けると、木ノ葉が俺のパンツに顔を突っ込んで眠っていた。
どういう状況なんだ!
自分の貞操が心配になったが、昨日キスですら付き合ってからと認めてくれた木ノ葉。
今になってその条件を破り、勝手に致すということもないだろう。
それに、そこにやましい気持ちがないことは健やかな寝顔も物語っている。
……だからといって、どうしようもないんだけど!
先輩は顔を洗ったり歯を磨いたりすると言って洗面所に向かったきり。
そして、この部屋で起きているのは俺だけだ。
……あ、いや。どうにか木ノ葉をモノにしようとしてるわけじゃなくてだな。
どうやって起こさずにこの状況を回避するかって話なんだけど――。
考えている間にも、俺はだんだん目が覚めて……というか、俺の俺が起きてきて。
木ノ葉が目覚めてしまうほどの武器になるときも刻一刻と近づいている。
そんな中、俺は勇気を振り絞って――お腹のほうからパンツに顔を突っ込んでいる木ノ葉に足が当たらないよう、ゆっくりとパンツを脱いだ。
しかし、パンツに頭が入っていた以上、全く当たらないわけにもいかず――。
ついでに、ゆっくりと脱いでいた分時間はたっぷりと使ってしまったわけで――。
「ん……むにゃ、おはよう、お兄ちゃ……ん⁉」
「月城くん、あなた……何をしているの⁉」
――結果、寝ている木ノ葉の前でパンツを脱いでいるところを、二人同時に見られてしまう事態となった……。
このあと既に霊体に戻っていた幽子に二人の意識を消してもらわなかったら、絶対に言い訳できない状況になっていただろう。
結果、二人とも同じ夢を見ていたという苦しい言い訳でなんとかやり過ごすことができた。