腹が膨れると、ついにやることもなくなる文芸部の面々。
食器や借りた調理器具も洗って返したし、完全な自由時間だ。
さすがに当日のプログラムにあるキャンプファイヤーを勝手にシミュレーションするわけにもいかず、ロビーでゆったりする。
別に山に行ってもよかったが、昨日のオタマジャクシ事件を考えると、室内にいたほうが安全だろう。メンバーが全員インドア派なこともあって、結局こうしてくつろいでいる。
と、奥のスタッフルームの方からやってきた人影に声をかけられた。
「おはようございます。飯盒炊飯の体験もされたということですが、楽しめていますかな?」
「はい。お陰様でとってもおいしいご飯が食べられましたし、当日も楽しめそうです」
「それはよかった」
人影が施設のスタッフ――副所長さんであると分かって、挨拶する先輩。
本に熱中して気付かないふりをしている木ノ葉以外の全員も立ち上がる。
すると、副所長さんは「あ、少し待っていてください」と言い残して、スタッフルームへと戻っていった。相変わらず、幽子は壁の写真を見つめている。
しばらくすると、副所長さんがロビーに帰ってきた。
その片手には、大きなカメラが握られている。
「……お待たせしました。私はここに来たお客さんを、いつも写真に撮っていましてね……。どうですか、みなさんで一枚」
今度は木ノ葉も含め、全員が興味を示す。
「せっかくだから、撮ってもらうか」
「うん、思い出だね!」
「額に入れて文芸部の壁に飾りましょう!」
「木ノ葉、お兄ちゃんの隣がいいー!」
撮影が決まると、いつも撮っているという施設前の芝生広場に全員で移動。
全員がジャージ姿だったため、一度浴衣に着替えての登場だ。
気持ちのいい風が吹く長閑な芝生の上は、とても気持ちがいい。
風を浴びながら、写真の構図を確認する。
俺たちの立ち位置から見る施設は、幽子が見ていたあの写真と同じ構図なようだ。
「何年前からここで撮影しているんですか?」
気づくと、副所長さんに聞いてみる。
すると彼は、ちょうど十年前の夏から写真を撮っていると教えてくれた。
――あのロビーの写真が撮影されたのが、十年前の夏だ。
あの写真が初めての集合写真なのかな、とか思いながら、配置につく。
施設の建物を背景に、真ん中に俺がしゃがむ。
するとそれを囲むように、右に木ノ葉、左に成瀬がすり寄ってきた。
「お兄ちゃんの隣は木ノ葉なんだから!」
「月城、隣失礼するね!」
それをジトーっとした目で見ながらその後ろに先輩が陣を取る。
そして――彼女は、俺の背中にどっさりと覆い被さってきた。
「なっ! 何してるんですか先輩っ!」
「……だって、みんなだけ楽しそうなんだもの。参加したいじゃない?」
「貴女だけは良識人であってください!」
朝の件もそうだけど、最近先輩が毒されてきてる!
俺は少し心配しながら、背中にへばりついた彼女をゆっくりと剥がした。
……背中の温もりは、残ったままだけど。