「それじゃあ、撮りますね……ハイ、フォルマッジョ」
気を取り直して並び直すと、副所長さんがシャッターを押す。
なぜチーズをわざわざイタリア語にしたのかは分からないが、鉄板ネタなのだろうか。
チーズや鉄板だけに深く考えると脳が溶けそうな変なボケだったため、スルーしつつポーズを決める。しかし副所長は納得がいかなかったようで、もう一枚を要求してきた。
どうやら、木ノ葉が目を瞑っていたみたいだ。
もう一度、ポーズを決める。
そして、副所長さんがカメラに手をかけたその時――――
「待ってください私も写りたいですぅ――!」
ひゅおおおおおっと、強い風と共に幽子が飛んで乱入してきた!
お前、どうせカメラに写らないだろうが!
ぎょっとして声のする方を向きそうになるが、撮影中なので動かない。
結果間に合わなくて画角に入っていなそうな幽子だったが、気付いていないらしく満足そうだ。そして、出来上がった写真を見てみると――
「……は、恥ずかしいよぉ……」
幽子が来た衝撃でめくれた成瀬の水色パンツが、ハッキリと写っていた。
「いやあ、やはりそうでしたか……先に見てもらって正解でした」
と、風が吹いたことを察知して写真を俺たちに先に確認させてくれた副所長が言う。
涙目の成瀬だったが、施設のおじさんに見られなくて少しは安心したようだ。
……とはいえ、ここで成瀬は少しでも嫌な思い、恥ずかしい思いをしたわけで――
「おい、幽子! またお前は余計なことしやがって!」
「だって……みんなが写真撮ってるのに、私だけ呼んでくれないなんて酷いじゃないですか!」
「お前幽霊だから写真とか写れないだろ!」
「……そうですけど……」
加害者である幽子を叱っておくが、元気がない。
やはり、仲間内で自分だけ実体がなく、認知されないことが嫌になってきたんだろうか。
俺はそんな彼女の心中を察して、今度は優しい言葉をかけてやることにする。
「……その、まあ……写真には写らなくても、俺にはお前がはっきり見えてるんだ。だから、俺の中でお前はいないことにならないし……その、心配すんな」
フォローになっていたかは、分からない。
実際、俺はこういった声かけが苦手だから、彼女がどう受け取るのかも。
しかし、少しは知っていて欲しかったんだ――
幽子が、孤独じゃないってことを。
照れくさそうな俺の発言を受けて、幽子が嬉しそうに微笑む。
寂しそうに落としていた肩も、今は胸を張って元気に復活し。
そして、相変わらずぷかぷかと浮きながら口を開く。
「怜太さん、私――――」
それは、溜息が出るほどに綺麗な表情で。
思わず見とれてしまうほどの、太陽みたいな満面の笑顔。
きっと、有名な画家が見ればこの光景を絵画にして後世に残したいと思い――
さらには、音楽家であろうとこの感動を五線譜にして世界中の人に広めたいと思う――
そんな、人間の心を震わせ、人生観を変えるほどの表情で、幽子は――
「私、安心しましたよー。怜太さんはちゃんと私の露出を見ててくれるんですもんね!」
――なんか、とんでもなく残念なことを言っていた。
画家も絵筆を投げつけ、音楽家もチューバで殴りたくなるような残念っぷりだ。
さっきは笑顔の美しさで出そうだった溜息が、別の理由で口から漏れる。
「……お前、もう口閉じてろよ……」
さっきフォローしたばかりだが、こればかりは咎めずにいられない。
口をついて暴言が出てしまう。
すると、笑顔で開き直った様子の幽子が、楽しそうに言い返してくる。
「……ええと、閉じるのは下の口ですか?」
「上のだよ! っていうか上とか下とかいうな! クソ、俺が触れれば塞いでやるのに……」
相変わらずな幽子に、ぶっきらぼうに呟く。
すると彼女はこれにも律儀に反応を返してきて――
「……大胆ですねえ」
「……上のだっつってんだろ!」
……もう、疲れるから憑かれるの嫌になってきました……。