コーヒーを飲みながら、ソファーに座り。
副所長さんを取り囲んで、みんなで話を聞く体制を取る。
すると準備が整ったのか、彼は息を一つ吸い込むと、ゆっくりと幽子のことを話し始めた。
「私は、生前の彼女と面識がありました。彼女は――この施設の、社長のご息女なのです」
「…………っていうと、市の職員の?」
「いえ、当時は民営の宿泊施設でしたので、当時の社長ということになります。現在は、既に亡くなられました。…………幽子さんと、同じ日のことです」
幽子は生前、この施設の社長の娘だった。
そして、住まいもこの施設。
小学校はこの辺りにある生徒数八人の小さな学校で、同級生はいなかったらしい。
当時の彼女について、副所長が語る。
「少人数の田舎の学校と聞くと仲がよさそうなイメージを持たれるでしょうが、この辺りではそんなこともなくて……。というのも、この辺りに工場を誘致するという話が当時県から持ち上がりましてね。当時の社長は……近辺で唯一の、肯定派だったんです」
それからは、もともと移住して宿泊施設を作っていた社長と古くからの住民の間に溝が出来。
その対立は子どもたちをも巻き込んで激化していったという。
親の教えで、仲良くしてはいけないと言われ独りぼっちになった幽子。
彼女は、いつしか学校に行くふりをして森へ隠れ、施設の宿泊客にいたずらをするようになったという。
「それで、幽子はいたずら好きに……」
「左様でございます。あの当時は私たちも忙しくてかまってあげられなくて……。きっと、誰かに自分をアピールしたかったんでしょうな……」
遠い目をして呟き、彼はコーヒーをすする。
そして一度溜息を吐くと、懐かしむように微笑んだ。
嬉しそうに続ける。
「そんな中――この施設にやってきた少年がいたんです」
学校に行かず、いたずらをして過ごすようになった幽子。
しかし、もちろん大人たちが本気で子どものいたずらに驚くことなどなく、彼女は一層孤独を感じていた。――誰も、振り向いてくれない。そうして、彼女が不貞腐れていたとき。
「うわっ、なんだこれ!……うぎゃああ! オタマジャクシだぁ――――!」
市外から体験学習にやってきた少年、月城怜太があらわれたのだという。
「……えっ、俺ですか……?」
「左様でございます。先ほどまでは気づきませんでしたが、はっきりと思い出しました。あなたこそが、当時の幽子さんにとって初めての心を許せる友達だったのです」
言われて、俺はロビーの写真を見たときの既視感を思い出す。
あの写真に俺と幽子は写っていなかったが……そういえば、旅館の女の子に邪魔されて、カメラの反対側でぎゃーぎゃー泣き喚いていたような――
……思い出した。
当時の幽子と、俺の記憶を。