当時の俺は、今と違って活発な少年だった。
クラブにこそ所属していなかったが、スポーツもできて、そこそこ人気者で。
だから、アウトドア好きな両親は喜んで俺を山奥の体験学習に送り出した。
虫取りをしたり、魚を捕まえたり。
都会では見ることのなかった自然を、一通り謳歌して。
そんなとき、一人の黒髪の少女が俺にオタマジャクシをぶつけてきた。
もちろんそんなことをされれば、俺も黙っちゃいられない。
近くにいたダンゴムシを掴むと、彼女めがけて投げつけた。
それからというもの、俺とそいつのイタズラ合戦が始まった。
落とし穴に落としてみたり、水鉄砲で濡らしてみたり。
売店で売っていたイタズラグッズを使って不可避な攻撃を仕掛けたこともあった。
そうして宿泊した三日間、俺と彼女は忍者さながらの攻防を繰り返し。
……ついに、俺の帰る日がやってきた。
「怜太くん……帰っちゃうの?」
あんなにいがみ合った仲だというのに、しおらしい態度で彼女が訊ねる。
「ああ……帰るよ。元気でな」
俺には短くそう答えることしか出来ず、二人とも黙ってしまう。
すると、彼女は俺を――強く押し倒し。
「帰っちゃやだ! ずっとここにいるの! ずっと一緒に……いるの!」
今までイタズラを仕掛けることでしか自己主張をしてこなかったのに、初めて自分の言葉で気持ちを表現した。
周りにいた大人たちも、これには驚いた様子で固唾を飲んで見守る。
旅館の大人たちからすれば、大変なことだったのだろう。
咄嗟に上手い言葉が出ることもなく、ただ沈黙が場を支配する。
そんな中、口を開いたのは押し倒されていたこの俺。
俺には、その場を収める上手い言葉を考える必要はない。
なぜなら、本心を口にするだけでいいんだから。
「幽子、聞いてくれ。俺は、もう一度ここにお前に会いに来る――そして」
目を見開いて今にも泣きそうな、意思を爆発させた彼女に告げる。
「――今度は、俺だけじゃなくて、お前にたくさんの友達を作ってやる!」
*
そのあと、忘れないようにと大人たちは集合写真を撮影して。
肝心の俺と幽子は押し倒されたままだったからカメラ側から眺めることになったけど。
それでも、一旦はお互い納得して。別れ。
そのまま、俺は旅館の少女のことなどすっかり忘れて大人になった。
――幽子が年始の交通事故に遭って死んだのは、その半年後のことだったという。
彼女の未練は、俺ともう一度会って、たくさんの友達を作ること。
だから、文芸部のみんなに認められて、彼女は成仏したのだろう。
結果として、俺は幽子のことを話せる友人を三人も手に入れた。
しかし、半年以上ずっと近くにいた親友の幽霊を失ったのだ。