「お姉さん……あんまり飲み過ぎたらいけませんよ?」
俺が彼女の腕を引っ張ってモールの隅に移動してから、数分後。
ファストファッションのお店で適当な服を身繕い、それを渡して俺は言う。
「お姉さんって……私、まだ高校生なんですけどね……」
その無難なトレーナーに袖を通しながら、泣き止んだ彼女が答えた。
彼女が言うには、だいたい俺たち二人は同じ年齢だってことだが――
「ええっと、それじゃあ余計にダメじゃないですか。高校生がお酒なんて飲んじゃ」
「さっきから言ってますけど、私飲んでませんよ⁉」
「飲んでる人はそうやって言うもんなんですよ。ほら、認めて反省して」
「ほんとに飲んでないですよ⁉」
ダメだ。埒が明かない。
酔っぱらいの言動がおかしいというのは父のおかげでよく知っているが、反省してもらわないことには同じ悲劇が繰り返されてしまう恐れがある。
そう思ってしつこく粘ってみたのだが、やっぱり話が通じないみたいだ。
このまま言い合っていても日が暮れてしまう。
そこで俺は、質問を変えてみることにした。
「ええと……」
「幽子です」
「……幽子さん。あなた、なんでモール内で下着姿なんかに……? 季節も季節ですし、寒いでしょう」
そうなのだ。
冒頭でも言った通り、季節は冬。
こんな寒い時期に半裸でいるなんて、モール内が暖かいとはいえ、酒でも飲んでいなければ説明がつかないのである。
今度はそこをうまく攻撃して、飲酒を認めさせる作戦だ。
我ながら策士である。そう自信満々でいたのだが……。
「……えっと……私がこれから変なことを言っても、信じてくれますか……?」
「さすがになんでもって訳にはいきませんけど……ある程度なら」
しおらしい態度で、幽子が訊ねる。
そして。
「あの、私……すでに死んでるんです」
「……は?」
突拍子もないことを口にし始めた。
「ってことは、あなたは……」
「幽霊、なんです!」
「幽……霊……?」
まさか、そんな答えがこの女から飛び出そうとは。
確かに肌なんて真っ白で、それに長い髪も幽霊のイメージに近いものがあるが……。
「はい、酔っぱらいは早く帰りましょうねー」
「いや、嘘じゃないんですけど!」
信じろというには、さすがに無理のある話だった。
もうこの女はダメだ、警察に突き出そう。
自分の手には負えないと判断したこの案件を、国家権力に引き継いでもらおうと思ったそのときだった。
「じ、じゃあ、証拠を見せます! 証拠を見せますからぁ……」
幽子が、そんなできもしないことを宣言してくる。
俺としては、もうこれ以上彼女の戯言に付き合ってやる義理はない。
そう思ったのだが……ちょっとだけ、面白そうだと思わなくもない。
今思えば、これが俺の人生最大の選択ミスだったんだが――
俺は、彼女に証拠を見せてみろと、促してしまったのだった。
「は、はいっ! チャンスをもらっちゃってありがとうございますっ!」
そうして感謝を述べながら、嬉しそうに笑顔を覗かせる。
すると、彼女はこぶしを握り、ぐっと力を込めて……。
「えっと、おならでもするんですか?」
「しませんけど⁉」
うん、我慢できずに水を差してしまった。
「もう……お兄さんのいじわる」
そうボソリとつぶやくと、幽子は再度さっきのおならのポーズに戻る。
それから、今度こそぐっと力を込めて――
さっきまで生えていた足を、幽霊のそれにしてみせた。
「……えへへ、うまくいきました! どうです? これで信じてくれますかっ?」
そう言って、彼女はぷかぷかと宙に浮かびながら首をかしげる。
これには俺も、さすがに彼女の言うことを信じないわけにはいかなかった。