幽子がいなくなってからの生活は、色がなくなったかのようで。
やつれた俺を気遣って木ノ葉や成瀬が外に連れ出してくれるが、それも鬱陶しい。
あれだけ恋愛がしたいと毎日思っていた俺だったが、そんな気には一切ならず。
文芸部のメンバーさえ、邪険に扱ってしまう始末だ。
俺は、そんな自分が嫌いで、嫌いで。
「俺、幽子に呪われてるのかもな……」
最後には、幽子のせいにしてみたりなんかして。
幽子……お前の邪魔は、今でも有効みたいだ。
こんなんじゃ、俺……恋愛なんか、できないよ……。
車の激しく行き交う大通りを見ていると、そこに飛び込みたくなる。
あの世に行けば、彼女に会えるかもしれないから。
いつものように、憎たらしい笑顔で馬鹿にしてくれるかもしれないから。
……でも、今俺が死んだとて悪霊になるのがオチだ。
幽子は天国。俺は地獄。
あの世でも、永遠に会うことはなさそうだ。
車の下敷きになることもなく、横断歩道を渡って歩いていく。
すると、遠くの方に大型のショッピングモールが見えてきた。
幽子と、初めて出会ったショッピングモールだ。
あの日感じていた「余裕」は一ミリもなくなったが、足がふらっとそこに引き寄せられる。
本屋に、映画館に……気分転換に向く場所は、いくらでもある。
しかし、俺はそのどちらにも行く気力がない。
かつて考えたように、イベントスペースで読書するくらいが関の山だろう。
新しいことを取り入れる気分ではないのだ。
自動ドアが開いて、中へ足を踏み入れる。
ショッピングモールは、やはりカップルで賑わっていた。
停められた自転車の数でも分かっていたことだが、多くの人が収容されている。
以前はここが自由の象徴に見えたが、今は刑務所と大差ない。
幸せそうなカップルがいようがいまいが、どちらにせよ俺は締め付けられる。
生きている限り、永遠に続きそうな痛みだ。
飲食店が並ぶ通りを進み、通り抜ける。
すると、例のイベントスペースが見えてきた。
相変わらず午前中は催し物がないらしく、カップルが食事に使っているようだ。
以前ならば俺はここを避けていただろう。
なぜなら、俺は恋をしたかったから。
しかし、現在の俺に妬みや嫉みの感情はない。
傷つく心すら持ち合わせていないのだ。
カップルの根城と化したスペースに、異物が入り込む。
彼らは気にも留めず、談笑を続ける。
……幽霊は、こんな感じなんだろうか。
誰にも見つからず、気にも留められず、ただただ未練を持って彷徨って。
そうだというなら、今の俺だって同じじゃないか。
幽子との生活という未練があって。
誰にも気に留められなくて、心で泣いて。
文芸部のみんなには申し訳ないが、そんな心地がしているのだ。
どうせ幽霊であるならば――と、俺は文庫を鞄から取り出しつつ妄想する。
どうせ幽霊であるならば――思いっきり目立つようなことをしてやろうじゃないか。
負の感情が俺から去ることはもうないだろう。
この沈んだ気持ちが、再び盛り上がることなどありえない。
だったら、望みすらも断ち切ってしまおうじゃないか。
光があるからこそ、闇は一段と深くなるのだ。
――と、俺は考えを行動に移そうとする。
これは、破滅への序章だ。
自身の上衣を取り去って、家族への未練を。
下衣に手をかけて、友人への未練を断ち切る。
そして、一気に俺が全裸になろうとしたところで――
「うっひょー! きっもちいいよぉ~! うへえぇぇぇぇぇ~!」
――女の、叫び声がフロアに轟いた。