幽霊少女が俺の恋愛成就を全力で阻止してくる。   作:雨宮照

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第七話「結論」

「……はぁ、ダメだったな……」

「はい、見えませんでしたね……」

 結論から言うと、俺には幽子以外の幽霊が見えていなかった。

 幽子が近くの浮遊霊に声をかけて連れてきてくれたんだけど、全滅。

 中には元アイドルの幽霊なんかもいたらしいんだけど、残念ながら気配を感じることすらできなかったみたいだ。

 イベントスペースも離れて、二人、落胆する。

 こうなってしまっては、なぜ俺が幽子を見つけることができたのか、さっぱりわからなくなってしまった。

 そんな重苦しい空気の中、幽子が口を開く。

「……んまぁ、幽霊って基本足がないですから、それが見えてない時点で分かってたんですけどね!」

「おい先に言いやがれコラ」

 彼女らしい満面の笑顔でとんでもないことを言う幽子だった。

「でもでも、実験しないことには確信は持てなかったわけですし……ね?」

 首をかしげて舌を出す幽子。

 あからさまのあざといポーズだったが、今回は許してやるとしよう。

 なんていうかその……かわいいし。

「あ~、照れてますね~?」

「……うっさい」

 うん、やっぱり許さないことにした。

 俺が金輪際こいつのからかいに屈しない決意をひそかに固めていると、そんなことはつゆも知らない幽子はまたも続けて攻撃を繰り出す。

「えへへぇ……怜太さん、照れちゃってかわいいです」

「馬鹿っ、撫でるな!」

 幽子が、俺にかぶさって頭を撫でようとしてくる。

 俺はそれを振り払おうとして腕を振るったんだが……。

「……あれ?」

「……およ?」

 直後、スカッという音がして、俺の腕が幽子の腕をすり抜ける。

 ここにもうひとつ、新たな問題が発生した瞬間だった。

 ……俺、幽子のこと触れなくなってる……?

 

 そんなこんなで、俺たちはだんだんとお互いの性質について理解を深めた。

 俺には霊能力があったわけじゃないこと、俺が幽子に触れられたのはなぜかあの時一回だけだったこと、幽子が成仏できていない理由は本人にも心当たりがないこと……などなど、まだ分からないことだらけだったけど。

「……まあ、不思議なことが起こったけど、なんとなくこうして話ができる友達ができた……ってのはお互いによかったかな」

「ですね、怜太さん!」

 この幽子の心底安心したような笑顔を見ていると、ちょっとでも分かったことがあるならいいじゃないかって、そう思えてくる。

「じゃあさ、俺は帰るよ。またどこかで会えるといいな」

 最後に俺は言い残し、手を振って踵を返す。

 今日はほんとにいい経験をした。

 他人に話して信じてもらえる話じゃないかもしれないけど、この世にはまだまだ分からないことがたくさんあるって、なんていうか希望みたいなものが……

「ちょちょ、ちょっと待ってください怜太さん!」

「……ん? どうかしたか?」

 俺が今日のことを思い返して歩いてると、真後ろで幽子の声がした。

「どうかしたか? じゃないですよぉ! なんでここでお別れみたいになっちゃってるんですかぁ!」

 振り返ってみると、血相を変えた幽子があたふたしている。

 ぷかぷかと追いかけてきていたらしい。

 焦ってる感じがちょっとかわいい。

「ええっと……ここでお別れみたいって、実際そうなんじゃ……」

「なに言ってるんですか! ええっと……それじゃ、私がさみしいじゃないですかぁ……」

 幽子、マジ泣き。

 子供みたいに、顔じゅうくしゃくしゃにして大量の涙を流している。

 それから幽子は、空中で崩れ落ちたみたいになって。

「……私、死んでからずっと一人だったんです……」

 泣きながら、一人語りをはじめた。

「ずっと、誰にも気づいてもらえなくて、孤独で……。なにも楽しいこともなくて、たまに外で露出を楽しむだけ……。誰にも気づいてもらえないのって、ほんとうにつらいんですよ……? だから……」

 露出のくだりは台無しなような気もするが、確かにかわいそうだ。

 少しの間があって、噛み締めるように幽子が言う。

「だから、怜太さんが見つけてくれたとき、嬉しかったんです……」

 その笑顔には、これまでの彼女の孤独と、俺に気付いてもらえた時の安堵、喜びが最大限に反映されていて。

 俺は、その慈悲に満ちた女神のような穏やかな表情を……心底、美しいと思った。

「そして……ここからは、私のお願いですっ」

 幽子は、そんな女神のような雰囲気のまま続ける。

 このまま言ってしまうと、俺はどんな願いでも聞いてしまうんじゃないか。

 そう思わせるほどの美しさが、彼女にはあった。

 しかし、彼女が次に口を開いたときに飛び出したのは、そんな想いすらも打ち砕くほどに不穏なもので……。

「……私を……怜太さんに、取り憑かせてくださいっ!」

「……却下します」

「そんなあ!」

 丁重に断らせていただいた。

 

 まあ、結局そんな俺の言葉なんて関係なく幽子は憑いてきて、今に至るわけだけど。

 これら一部始終が、俺と幽子の出会いの物語としては過不足ない説明なんじゃないだろうか。

 だから、この話になにか追加するとなるとその後の話に限られてくるわけで……。

「……そういえば、なんであのとき強引に私がついてきても怒らなかったんですか?」

 ちょうどいいところで、部屋の隅に腰かけてうたた寝してたはずの同居人が質問してきた。

「そうだな……一つは、やっぱりずっと孤独だったお前が可哀想だったからってのと……」

「……ふぇ? ほかにも理由があったんですね」

 意外そうに目を丸くする幽子を横目に、言葉を続ける。

「実はさ、俺にはちょっとした信念みたいなのがあって、二択があったら楽しそうな方を選ぶようにしてるんだ。だから、そのときも俺は信念に従ったってだけ」

 バーベキューよりも、読書。

 大勢よりも、一人。

 俺が陰キャになったのだって、その信念に従って選択を続けたからに違いない。

 その結果、他人がどう思うかは知らないけど、俺は満足のいく生活ができている。

 だから、幽子に関しても俺は同じように考えた。

「幽霊と暮らす」か「幽霊と暮らさない」か。

 人によってこれも意見はまちまちなんだろうけど、俺はどう考えても、幽霊と暮らす方が魅力的で楽しい日々が待っているに違いないと思った。

 そして、その見立ては間違ってなかったわけだが……。

「へええ……怜太さん、そんなこと考えてくれてたんですねっ」

「……俺の恋路を邪魔してこなければ、もっと楽しかったんだけどな」

「またまたそんな意地悪言って……。私のことだけ見ていれば、ちゃんとそれでも楽しくなるはずなんですけどね~」

「はいはい、昼なんだから幽霊はもう一回寝ましょうねー」

「ちょっ、怜太さんひどい!」

 俺の恋愛を邪魔してくるこの幽霊には、なにかと手を焼かされっぱなしだった。

 まあ、そんなところもかわいくて、今となっては微笑ましい。

 再度眠りについた幽子の寝顔を見つめながら、ぼんやりとそんなことを思う。

 なんだかんだ言いつつも、そんな非凡で平凡な今日があることがなんだかとても気持ちよく思えて、俺は静かに笑みを一つ浮かべたのだった。

 

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