チート持った痛(I)い奴らを俺がチートで成(S)敗する 作:憲彦
白式到着後すぐに行われた玲衣との訓練。特にハードと言うわけでも無いのだが、とてつもなく疲れたと言うのが一夏の感想である。内容が内容故に仕方ないと思う。
「あぁ~……疲れた……」
「なんだ一夏こんな所にいたのか」
「千冬姉……」
「どうした?そんなに疲れた顔して」
「いや~。飛行訓練がさ……」
そう言いながら、玲衣と行った飛行訓練の内容を詳しく千冬に話していった。と言っても、アリーナのシールドギリギリの高度まで運ばれて、そのまま落とされただけで、伝える内容としてはそれ以上はない。
「なんだその翼竜の親が子供を飛べるようにするために崖から突き落とす様なやり方は?」
「玲衣も似たようなこと言ってたよ」
「それで?飛べるようにはなったのか?」
「なんとか。まだフラフラだけど」
「なら、明日以降も気を引き締めて受けるんだな。アイツの実力はそこが知れない。戦ってみてこれ以上に厄介なのはいないと思えたからな」
「うん。分かった」
「それとこれ。部屋の鍵だ。急遽決まった為、荷物は私が家から持ってきた。3日分の着替えにパソコン、携帯の充電器、枕とパジャマ、玲衣が作った予備の制服とISスーツにその他諸々。全部部屋に置いてある。1人部屋だから安心しろ。それに私の部屋の隣だ。何かあったらすぐにこい」
「よく1人部屋確保できたな」
「本来は玲衣と2人の予定だったんだが、白式の整備の為にしばらく整備室で寝泊まりすると言っていてな、限定的だがしばらくは1人だ」
寮の部屋まで一夏を誘導し、千冬は仕事へと戻っていった。そしてその時、一夏から白式を預かり整備室まで行っていた玲衣はと言うと。
「では、ここの一角を自由に使って良いと許可が出ましたので、ここを使うようにしてください」
「どうも。これ鍵です。無くさないようにしてください」
壁で仕切られた整備室の角。玲衣の望み通りに真耶が使えるように学園に掛け合ってくれた。自作の鍵を取り付けると、カードキーの様な物を真耶に渡す。
「その鍵には1日1回、5桁のパスワードが送られてきます。それを差し込んだあと、ナンバーを入力して、網膜認証と掌紋認証が完了したら入れるので、ここに入るときはそれをやるように。千冬と一夏には別の番号が届くので、共有はしないでください。どれか1つでも一致しなかった場合、容赦なく直径5センチの鉄球が肋骨と喉、顔面目掛けて飛んできます。敢えて時速は教えません。あと時々爆発音が聞こえるかもしれませんが、気にしないようにしてください」
「分かりました。他にはなにか?」
「特には。それじゃあ」
過剰すぎるシステムの説明をすると、玲衣は早速用意された環境に飛び込んでいった。白式をハンガーにかけてパソコンにコードを繋いでいく。千冬から提供されたカタログスペックと実際の物を照らし合わせながら、どの様なカスタムが一夏に適しているのかを模索していく。のだが……
「ふぅ……開発チーム一斉解雇の方向で話を進めるか」
白式にアクセスして早々に、その方向で玲衣の意思が固まった。同時に株主総会に参加するメンバーにも事の経緯を説明して話を通しておいた。倉持が近々どうなるのか、非常に楽しみである。
「せめて数値くらいは誤魔化すなよ……操縦者を殺す気かコイツら」
覗いてみて分かったのは1つ。企業から提出されているカタログスペックは誤魔化しの塊であると言うこと。当然だ。専用機とは時間をかけて作る物。本来の期間や過程を無視して無理矢理作ればこうなるのは当たり前だ。
「ジャーヴィス。スペックを本来の数値にしてくれ。あとコイツに合ってるカスタムを考えて欲しい。俺のと合わせて、何が最適なのかを考えたい」
『かしこまりました。10分ほどで作業が完了します』
もはや何もかもが気の毒すぎる。10分経って実際のスペックが出てきたが、防御はカタログスペックの約半分程度で、攻撃も10%ほどダウン。にも関わらずスピードは60%アップ。機動力は倍以上。しかも調整された気配なし。
「本当、なんでアイツにこれ渡したんだよ……」
この世界でこの機体を完璧に操れる純粋な人間はただ1人。千冬だけだ。転生者共の技量をもってしても、すぐに扱うことは困難を極める。玲衣ですら扱える自信がないくらいだ。
「いくつか検証しよう。白式のパススロットを増やすことは?」
『不可能です。零落白夜で全て埋まってしまいます。ですが、他の機体とは違いアクセス許可なしでもその他の武装を装備することが可能です』
「射撃用のセンサーリンクシステムの搭載は?」
『システムの一部として盛り込む事は可能です』
「こっちで作った独自のシステムを搭載することは?」
『可能です。しかし、現段階では企業がうるさいかと』
「そこは後で黙らせる。次に唯一の武器である雪片弐型についてだ。現状での武器としての性能は?」
『打鉄で使われている標準的なブレードと比べて、切れ味と言う点では変化ありません。しかし、形状が形状ですので、重量があり破壊力はあります。零落白夜発動時は、相手のエネルギー攻撃やシールドバリアを無効化し機体に直接ダメージを与えることが可能で、やり方によっては防御に転用することも可能です』
「シールドエネルギー満タンの状態で零落白夜は何秒使うことができる?」
『最大時間使用するには出力を3%に抑える必要があります。その場合は4分です』
「最大出力の場合は?」
『20秒です』
「短いな……雪片弐型にアークリアクターを埋め込む事はできるか?」
『可能ですが、その場合大幅な改修が必要になりす』
「代表決定戦後の改造だな……白式の動力をアークリアクターに変えることはできるか?」
『不可能です。コアと機体は一心同体。白式はISとして完成しています。アークリアクターに変えれば安定はしますが、ISとしての進化はそこで止まります』
「つまり第二形態移行はしないと言うことか……それは痛いな」
『やはり、ここはISコアを使ったまま一部を改造する方がよろしいかと』
「射撃・防御用の追加装備も作らないとな……スペックも調整しねぇと……」
『でしたら、ISの訓練は少しお休みですね。調整には2日ほどかかります。その間は彼の基本能力を上げるのがベストかと』
「同じ意見だよジャーヴィス。すぐに取り掛かってくれ。アイツの訓練内容は雪片に合わせたものに変えるかな」
『剣道場は部活に加入していなくても申請さえすれば誰にでも使える様です。メールで申請しましょうか?』
「頼んだよ。追加する武器のイメージを固めたい。良さげな物をいくつか呼び出してくれ。そうだな~…コンパクトで扱いやすいヤツ。威力は……まぁ作ったときに調節すればいいとして、できればケース付きの物が好ましい。弾丸もいくつか出してくれ。破壊力の大きい特殊な形をした物を頼む」
『一般的な9m弾と5.56m弾はどうしますか?』
「今回はいらない。リボルバーなんかに使われるデカいのを頼む」
『かしこまりました』
玲衣の指示通り、口径の大きくて特殊な形状をした弾丸と、コンパクトで扱いやすいと言われる銃がいくつかピックアップされる。注文通りの物となると、やはりハンドガンが中心になってくる。
「ISに合わせて巨大にするとして……やっぱりリボルバーがいいか」
『弾詰まりもせず威力も大きく扱いやすい。ご注文通りの物ではありますが、初心者向けと言えるのでしょうか?』
「使えるようにするのが俺の仕事だ。機体にはセンサーリンクシステムと共に反動制御装置も付ければ、反動に負けて仰け反ったりはしないし、引き金を引くだけで的に当てられる。弾道計算とかも全部システムで片付ければ、下手でも問題ない。システムを信用して従えばと言う前提が付くけどな」
『その辺りは問題ないでしょう。彼は良い意味でも悪い意味でも素直ですので』
「だな」
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