「そんじゃ、あの時の続きを頼む」
昼休みの食堂で俺と桔梗が半円上のテーブルの席についている。休憩時間の時の話の続きを聞くためだ。ちなみに全員が和風定食(俺と桔梗はご飯大盛り)を頼んでおり、テーブルにトレイごと置いてある。
「ええ。そういう約束でしたね。しかし、時間は限られてる故に幾つか省略させてもらいますよ?」
「十分だ。それと、周囲の食欲をなくす話はやめろよ」
2年以降は実技が導入されてるかもしれないし、無関係の人間がいきなり飯抜いて空腹感で悩まされるのは僅かに引け目を感じるからな。
「そのような内容ではございませんのでご安心を。実は休憩時間の件とは別に多くの子供が誘拐されかけたのですよ。しかもその殆どが女尊男卑思考ではない家族のね」
「…子供はどうなった?」
「家族がいる子達は救出できましたが、戸籍がないものやストリートチルドレンはほぼ連れ去られました。犯人は瞳の色が暗く濁った女性でして、逃げ去る時に鳥を利用していました」
子供を攫うそして、鳥ってぇと――
「
しかもすっげえタチが悪いやつだ。
「亡くなった妊婦が妖怪になったという説が一部のホラー漫画で取り入れられている妖怪ですね。……成程。伝承や説話、概念等が全てが混じった上に堕ちる前の執念がそれらを取り込んだというのですか」
「正解。しっかし女尊男卑思考持ち以外の子供なら何でもありってのが気になるな。普通は伝承とかを知ってる人間以外は対処が難しいことを除けばそこまで強いものじゃねえがな」
「そこは八重さん達に任せています。魂駁家は裏の暴力の面に当てはまるものでして」
「そりゃそうだな。相手が人じゃないだけましだろうが」
「ですね」
「気になったけど、魂駁家って何を相手にするの?」
話題を変えたいと思ったところで桔梗の質問が飛ぶ。が、中身が中身だからあまりいいもんじゃない。
「大雑把に言えば呪術に近い存在ですね。これ以上の回答は今いる場所が場所なので控えさせてもらいます」
「そう。それじゃ、今はやめておくわ」
桔梗があっさりと引くと相変わらずのゆるりとした笑みを浮かべる妖夢。
「そういや妖夢のとこの二人目ってどんなやつなんだ?」
食堂で4人目の男子を見ていないので妖夢に尋ねる。その答えは普段とは違う苦笑いで返された。
「彼ですか…。何といいますか、ナイ神父にバロン・サムディの性格と幾つかの悪意にメタ発言が多い傭兵の性格を練りこんだような性格でして、掴みどころがないというより、人のような何かを話している気分でした」
「正体が化身そのものでも驚かないな、そいつ」
「私もその類ではないかと思いましたけど、違いました。朧斬りがすり抜けましたので純粋な人間です」
「マジか…」
妖夢が使う剣技は主に対人外向けで、その内の一つである朧斬りは人間には武器を除いて刃がすり抜けるようになっている。朧斬りがすり抜けたって事は4人目は純粋な人間という事だ。色々と濃いキャラなのに純人間か…。
「カオスだな」
「カオスですね」
「カオスなんだ」
最終的に味方なら問題ないんだがなぁ。まずは昼食を食べて予習するか。
「あー、終わった終わった」
「人から見るISってこんなんだ。うん、お気楽すぎるわ」
放課後となり、背中を伸ばすとポキポキと音がした。殆どデスクワーク状態だったからこってるなこれ。
「やあやあ。初めましてかな僕の名はナイア・ベル「「…………」」スラットォォォッ!!?」
突然現れた男子に向かって桔梗と共に拳を出すがマトリックス風ブリッジで回避された。無意識に殺意を込めたパンチが出る程に胡散臭いこいつが悪い。
「ちょっと!? 出会い頭に濃密な殺意を込めたパンチって何!? さっきの喰らったらGがつく18禁描写となるのは確定的に明らかだったよ!! と言うより君たちは血も涙も尻尾もない外道か何「
喋る度に胡散臭さとウザさが増し、プチっときたので調律したら避けられたが、土下座したので一応追撃は止めておいた。教室と廊下にいる女子と一夏は目を点にしているが、そういうのは後回しだ。
「で、某邪神の化身っぽい4人目が何の用だ?」
「ま、まあ胡散臭い人間なのは自覚してるよ。用件はただ1人目と2人目がどういう人なのか見たかっただけ。けど、出会い頭に身に覚えのないご先祖様か前世が一瞬幻視させる拳がくるのは予想外だったけど…」
「だって胡散臭いの度を通り越して【殺したい、この存在】レベルだから。『だから私達は悪くない』」
「-筆頭のセリフを引っ張る程!? てかすっごい辛辣!!?」
土下座しながらしながらのツッコミ。しかも背中で驚愕を表すとは、こいつ(某傭兵並に)かなりできるな。ナイアはノーモーションでヒョイと立つと両手を挙げる。
「さっきの言葉に嘘偽りはないよ。それに、僕は僕自身や友達、家族に危害を加える存在には容赦しないだけさ。それを除けば自他共に認める胡散臭い一般人さ。多少の例外はあるけど、それはその時に全部話すよ」
一瞬だけ含みがある胡散臭くない笑みをして教室を出るナイア。その行動を黙って見送った後、本音がため息を吐いた。その顔は半妖と暗部を合わせたものだ。
「胡散臭いのは演技がどうかわからないね。裏社会の者でもあんなのは真似するのはほぼ不可能だよ」
「歩く高性能嘘発見器である本音でも無理なんて、本当に人間?」
「もしくは高度な何かを会得している人外だろう。ま、敵対しないだけマシだ」
一応この会話は教室の端+釘を刺し処理で行っている。こういうのは専門家だけの仕事であって一般人が首を突っ込むべきではないからな。まあ、会話自体は短いが…。
「とりあえず、本音は楯無と本家に情報を送っといてくれ。こっちもこっちであいつ等を通して伝える」
「わかった」
「ありえそうなのは、
確実に起こるフラグ立てんな。色々と危ういのが幾人かいる、または来るから冗談話どころじゃすまない。
「あ、織斑君。比泉君。禍津さん。まだ教室にいたんですね。よかったです」
「はい?」
ナイアとほぼ入れ替わりで入ってきたのは山田先生だ。一夏は呆けた声を出している。
「えっとですね。皆さんの寮の部屋が決まりました」
「早いですね。イカレ研究者とかの対策ですか?」
「見も蓋もない言い方だとそうなります」
桔梗が尋ねると苦笑いで返答する山田先生。色々と常識外れ+世界規模の後ろ楯がある俺達と違い、一夏は家族・知り合いが凄いだけの一般人だ。捨て駒を利用しての誘拐なら一夏の方がやりやすい。織斑先生の提案だろう。
「もしもの場合があってはいけないという事で、政府は寮に入る事を優先したそうです。一ヶ月もすれば織斑くんの個室が用意できますからそれまでは女子と相室となります」
「は、はあ。それで、雪那や他の男子も同じですか?」
「はい。比泉君は禍津さんと同室で月日が経っても変更はありません。魂駁君とベルスラット君は女子と同室となりますね」
「わかりました。それで、荷物は―――」
「織斑の荷物は私が手配しておいた。比泉と禍津の荷物は今総合受付にて預かっている。今から受け取りに行った方がいいな。それと、これがお前達の部屋の鍵だ」
織斑先生から鍵と紙を貰う。紙に書かれている番号は1244だった。
「了解。じゃあな、一夏」
「それじゃあね」
軽く手を振りながら教室を出る。総合受付で荷物を貰い、部屋へと向かう途中、扉へ向かって土下座する一夏を遠目で確認したが、あえてスルーした。
ネタバレですが、ナイアは偽名です。