「担架だ!!担架もってこい!!」
その試合想定外のことが起こった。自分の足の限界を超えてプレーをした瑠璃の足にはいままで以上の負荷が掛かっていた。
「ったく。大げさなんだよ。自分で立てるってーの。」
心配するチームメイトの手を振りほどき瑠璃はそこに行く。
「悪りいな。こっからは俺の全てを受け継いだあいつが相手するから。」
すぐさま直感した。そこにこの会場で最も強烈なオーラを放っている男がいることに。
”ゾーン”天才だけが入れるその領域にたやすく足を踏み入れる。
「はっ。いいじゃねえか!!灰崎祥吾!!」
「それでは試合を再開します!!」
このアクシデントのため試合は一時中断したが、すぐに再開する。
しかし、会場ではもはや福田総合の勝ちはないと思われている。
この男を除いては。
「この勝負、案外分からないのだよ。俺の予測が正しければ、今この会場に黒金瑠璃の全てを受け継いだ男があのコートにいる。」
それは闘い、追いつき、追い越したい、そして憧れたからこそ分かること。
「くやしいものなのだよ。それが俺じゃないというのは。」
「(こいつ、読めねえ。)」
青峰のこの時、すでにゾーンに入っていた。その青峰をもってしても今の灰崎からは何も感じ取れなかった。
バスケットは読み合いのゲームである。DFはOFの先読みをし、OFはそのDFの先読みをする。
そのバスケットにおいて相手に気配、つまり先を読めなくすることはこれ以上ない武器となる。
「なっ!?」
会場はまたもや一瞬、静けさに包まれた。おそらく今大会初。キセキの世代、青峰大輝が何もできずに抜かれるのは。
「(おいおい、いま俺は何をしてた!?なんで動けなかった!?)」
「あかんで、青峰!!はよ戻れ!!」
すぐさま今吉らがカバーに入る。しかし、もう遅い。
瑠璃の得意としていたストップ&ジャンプが決まる。
「んーー?いま崎ちん何したのー?」
相変わらずお菓子を片手に紫原はハテナを浮かべている。この男には分からない。努力をいまだに否定してしまうこの男には。
「灰崎は何もしていないのだよ。ただ基本に忠実にクロスオーバーで青峰を抜いたのだよ。付け加えるなら最速の速さでな。」
すべてのスポーツには基本の型が存在する。なぜ、そんな基本の型が存在するのか考えたことはあるだろうか。それは、その型が最速にして最高だからである。
だからこそ、多くの選手は基本の型を身につける。
「まあ、しいて言うならば。」
「しいて言うなら?」
緑間もまたいつものようにメガネを片手で持ち上げ
「単純に今の灰崎は青峰より速いのだよ・・・!!」
「大輝。わりいが、この試合だけでいい。俺はお前に一度も負けねえ。」
受け継いだその意志と主に銀色の狼は吠える。