超次元サッカーさせてくれ(懇願) 作:勝機を零した、掴み取れん
──ネット小説を見てれば何十、何百と飽きるほどある異世界転生。俺もその1人になってしまった。
何で死んでしまったとかは覚えてない、気がついたら死んだと言われた。それだけだった。
そして、小説のテンプレのように好きな特典やるからさっさと行けと目の前のおっさんに言われる。
その人に聞いたところ別によくある剣と魔法の殺伐として世界ではないということなので、ちゃんと努力すれば確実に身につく体と頭をお願いして転生した。努力を裏切られるのは辛いからね。
転生してしばらくしてからわかったが、ここは某超次元サッカーとして有名なイナズマイレブンの世界らしい。
家でテレビを見てたら明らかにサッカーだけほかのスポーツより人間離れしていたので多分そうだろう。
俺は折角前とは違う世界に来てしまったのだから、その世界の中で1番関わりの深い事をしようとサッカーを始めた。
一応、特典でもらった身体のおかげかこの世界のサッカーに適応するのは難しく感じられなかった。
身体が未発達の幼少期からサッカーを始めても毎日2時間、3時間の練習をサボらずにこなせばボールから火は吹くし、ゴールネットは破れるし、地面には何処ぞのグラップラーのようなクレーターを生み出せる。
これでも周りから普通と思われるのがこの超次元サッカーの世界だ。……え? 流石にドン引きされる?
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それから数年、中学二年生となった時だった。家の事情で東京に引っ越すことになり、俺は雷門中に転校することになった。
雷門中といえば原作主人公である円堂守が通っている学校だ。しかも、時期的には全国大会であるフットボールフロンティアに優勝している時だ。まだ学校が崩壊していないのは宇宙人が来るまで時間があるからだろうか。
とはいえ、あの雷門に来れたというのは自分にとっても大きい。原作キャラと触れるというポイントもあるし、自分が今まで頑張って練習してきた事がどこまで通用するのかもとても気になる。俺は意気揚々とサッカー部への入部手続きを行った記憶がある。
「──ああ、サッカー部なら今は休部になってるよ」
「──は?」
──俺は、全く違う世界に来てしまったようだ。
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それから約半年、本来のサッカー部員はまだ戻ってこない。俺にとっては理解できない状況だった。
あの後聞いた話だと雷門のサッカー部は全国の中学サッカー部をレベルアップさせるために強化委員制度というもので全国に派遣されてしまったらしい。そんな時代、ゲームやアニメでも聞いた事なかったぞ。まさか、俺というイレギュラーな存在が現れてしまったせいで原作の流れが歪んでしまった? いや、それは流石に無いと思いたい。人ひとり違うのが生まれたくらいで歴史が変わるような世界でもないだろうから。
サッカー部は事実上の休部を言い渡されてしまっているためにサッカー部に入部する事は出来ないし、そんな1人の練習のためにグラウンドを貸してくれる事なんてもちろん無い。
なので、この半年間俺はずっと孤独に練習をしていた。出来ることも限られているし、ここ最近はリフティングとドリブルしかやってない。
最初の頃は腹いせに校舎の壁に向けてシュートなんて撃ってた時もあったが壁にヒビとか穴開けてしまったのでやめた。まさか、あれくらいであんな風になる脆い校舎とは思っていなかったし、バレたら絶対に謹慎みたいなの食らうと思ったので逃げた。まだ先生達には見つかってない。全校集会でそのことを言及された時は少し焦ったけど。
「──あっ、優くん〜」
放課後、サッカー部の部室の前でリフティングをしていた時、こちらにジャージを着た女子生徒が駆け寄ってきた。
「──大谷さん」
短めに整えた髪に、可愛らしく、それでいて元気な笑顔を見せる彼女──大谷つくしさんは自分一人しかいない現サッカー部を支えてくれるマネージャーである。とはいえ、サッカー部というのは自分が勝手にそう思ってるだけで実際は非公式な部活動であり、それなのに彼女の方からマネージャーをしてくれている。
1人でやると準備などで色々時間がかかってしまうのだが彼女がいるおかげで本当に助かっている。
──ただ。
「──二人っきりの時はつくしって呼んでって言ったはずだよね……?」
「──悪い……つくし」
──彼女は俺に対して異常なものを抱いている。それは今の言葉からでもはっきりわかる。
さっきまでの彼女の優しい声はどこへ行ってしまったのか。今の彼女はまるで夫が違う女に浮気していたに気づいた時のように、低く、それでいて重圧のかかった声色だった。まあ、その例えが合っているかはわからない。大体こんなもんだろうというあくまでも予想だ。
「ならよろしい。今日もあれ、やろう?」
「──別にいいけどさ」
さっきとは打って変わって優しい顔に戻るつくし。俺も2人でいる時と同じように話すようにする。そうしないとまた怒られるからな。
彼女は笑顔を見せながらサッカー部の部室の鍵を開けて中に入っていく。彼女の言う練習って中々やばいんだよなぁ……。
俺は部室の外観を眺める。一言で言ってしまうとボロい。アニメでもよく部室のシーンはあってそれなりにボロいんだろうなとは思っていたけど想像以上だ。元々はサッカー部は無いと言われていたし、当時は弱小サッカー部とも呼ばれていたのだからそういった所にお金を入れてもらえなかったのだろう。これだと中々人は寄ってこないよな……それが今回のやばさを促しているんだが。
「早く早く!」
部室の外観を語っていた所をつくしの急かす声で遮られてしまい、俺は大人しく部室に入る。中も大分汚れている。掃除しているとは思うが所々埃が溜まっている所もある。今度彼女と一緒に部室の掃除でもするか。
そう考えているとガチャっと、重みのある金属音がなる。毎度のように鍵を閉めたな。
「──じゃあ、練習……しよ?」
「──はい」
彼女が言う練習……それは別に隠語ではなく、ちゃんとしたトレーニングという意味合いである。
腕立て伏せに腹筋といっあ基礎トレーニングを行うだけ。基礎とはいえそれはどんなスポーツでも支柱となる筋肉を付けるために必要だ。
それが無ければ力強いプレーも、試合いっぱいまで戦う体力も生まれない。
それを技術で補うなどという人間も少なく無いとは思う。だけど、基礎がなっていなければ技術を身につけるための長い期間を耐え抜くための体力も続かないし、さらにそれを洗練させるための筋肉も無い。
全てに置いて筋肉、体力といった基礎は必ず必要なのだ。俺もこれだけは決して怠らない。前の世界ではそんな事を思わなかっただろうがこの世界では考え方が変わった。
今の俺には努力をすれば必ず結果がついてくるという事実がある。それを実感した時がとても気持ち良いのだ。もっとこの気持ち良さを味わいたい、もっと成長したい。あの特典の選択は今の俺にとって正解だった。
──話が脱線してしまった。
このトレーニングでの疑問はなぜ、部室で行うのだろうか、だ。
基礎トレーニングくらいならわざわざ室内でなくても出来る。外は土や草で手を痛めるから、滑るから? いや違う。
「──いいよ、優くん……もっと近づいてきてもいいんだよ?」
「──これ以上はごめんだ……!」
──これの本当の問題はその内容だ。
現在、俺は床で仰向けとなっている彼女の顔の間を跨ぐように両手を置き、足も同じように広げて床ドンのような形で腕立て伏せを行っている。
腕を畳んで身体を下げていき、彼女の顔ギリギリまで自身の顔面を落とす。その間わずか数センチ。互いの息が触れ合い、少しでも力が抜ければ息ではなく、唇が重なりあってしまうのだろうという、官能的な雰囲気を漂わせていく。それもあってか、別な意味での汗が俺の背中を擽らせ、腕の力を失わせてくる。
俺はそれでもしっかり腕に力を込め、なんとか身体を持ち上げ、腕立て伏せを1回、終わらせた。
「──むぅ。もう少しでキス出来そうだったのに……早く楽になっちゃえばいいのに」
「──そういう訳にもいかないだろ。あと、4回だ」
あの状況なら彼女が少しだけでも顔を上げるだけでキス自体は出来たはず。それを彼女がしなかったのはきっと、事故とはいえ俺の方からしてもらいたいのだろう。彼女はそういう人だ。あえて自分から誘うような真似をする。だからこそ、俺はそれに耐えてみせる。
──本音はJCとやれるなら本望です。
ただ、見た目は中学生とはいえ単純な精神年齢は三十を超えてしまっている。合法とはいえ謎の背徳感が襲ってくるのでなるべくそうはなりたくない。けど、彼女はそれを望んでいる……難しい所だ。
俺はなんとか残りの4回もギリギリではあったが耐え、腕立て伏せを終える。
──これがあと、何ヶ月続いてしまうんだろうな。
この他にも彼女の誘惑ともいえる練習は続くがその話はまた今度にしよう。流石に……時間が足りなくなってきた。