前回、モグロウの過去を知った稲森。稲森を連れて行けば家族が助かると言われた稲森は迷わずついて行こうとするが、その純粋な心にモグロウは一度その場から逃げ去ってしまった。一方の陽奈は楓と再び戦う事となったが、その強さに手も足も出ない。何としてでも彼女を止める為、スーパーハードウェポンを使用するが、自我を失い暴走。その時、彼女の前に現れたのは助けた少女であった…
それではどうぞご覧ください。
街中に響き渡る爆音。
先ほどまでエースに声を掛けていたクインだったが、目の前に広がる光景に何も言えず、ただ瓦礫や砂煙が立ち込める方をジッと見続けていた。
「陽奈……?」
「…………」
砂煙が徐々に消えていくと、怪人の少女の姿が見えて来る。
クインは最初、この怪人は死んでしまったのだろうと思っていた。ただでさえ、スーパーハードの暴走はクインでさえも止める事は厳しい。そしてそれがただの怪人、しかも子供だったとしたら耐え切れるだろうか。
結果は考えずとも無残な姿か、そこから消えて無くなっている事だろう。
「………嘘」
だが、それはクインが思っていただけの話しである。
目の前の少女は擦り傷はあるが、その他どうということはなさそうにピンピンしている。本人も何があったのか分からないようで、自分の身体を触ってみていた。
そう、エースの必殺のキックは少女の後ろの建物を潰しただけで、少女自身には大したことはなかったのだ。
あの暴走状態で一体どうしたというのだろうか? 無駄なはず。スーパーハードの暴走は止められないはずだ。
「…ぅ…っ!!!」
しかし、エースは耐えて見せた。
これは班目さえも予測できなかったことである。完全なる暴走をテーマに作成されたこれを、いとも簡単に操ることはできない。そもそもそういう設計ではない。
それでもエースは無理やり止めた。通常出来ないことをやって見せた。
「……うぐぅ…… くっ、あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!」
それから陽奈はエースドライバーからスーパーハードフィードを引き抜く。
変身が解除され、激しく息を吸っては吐き、酸素を取り込もうとする。それほど今の状態は厳しかった。理性を保てたのは奇跡に近い。
「お姉ちゃん…? 大丈夫?」
「───── えぇ、大丈夫よ。あなたは?」
「うん! 大丈夫!」
「ごめんね…」
「うぅん! 私、全然気にしてないよ! それよりもお姉ちゃんが治ってくれてよかった!」
「はぁ…… ホント変な子ね」
2人の会話を側から見るクイン。怪人と親友が笑い合っている。楽しげな会話をしている。
陽奈が暴走して、少女を殺しそうになって、さすがの楓も彼女を止めようとした。それが楓の良心。一瞬だけ現れた、戻ってきた本当の楓。
だが、2人の笑顔を見ると我慢できなくなった。自分の中にある何かが再び噴火する。してはいけない憎悪が込み上げる。
「陽奈は…… 陽奈ァ… ダメだよ。怪人と仲良くなんてしたらッ!!!!!」
「ん…? 楓────」
クインの内にあるものと呼応するように、杖へと赤黒いエネルギーがみるみるうちに溜まり、巨大な熱エネルギーの塊となる。
そして怒りや嫉妬、憎悪が陽奈たちに向けて放たれた。
それは大きく逸れて後ろの建物へと当たると、ただでさえエースの一撃で不安定になっていた建物が、クインのエネルギー弾によりバキバキと音を立てて崩れ落ちる。
「まずい…!!」
「お姉ちゃん!!」
その瞬間、陽奈は少女の全身を使ったタックルを喰らわされ、地面に尻餅をつく。あまりに突然の事で対応しきれなかった。それどころか理性を保つ為に体力を使い過ぎていたこともあり、少女の力でも簡単に押せるほど踏ん張りが効いていなかった。
この行いの意味はなんなんだろう。目の前で少女がニコッと笑った。
「─── お姉ちゃん。ありがとう」
そして少女を埋め尽くす程の瓦礫が降り注ぎ、少女の姿は瞬く間もなく瓦礫の山へと沈んだ。
陽奈はあまりにも突然、あまりにも早過ぎる結末に首をゆっくり横に振る。わからない。否、わかりたくない目の前の現実。
「楓…… 楓ッ!!! あんた自分が何したかわかってるの!!?」
「え…? 怪人を殺したんだよ…?」
「まだ子供なのに… あの子になんの罪があるのよ!!」
「怪人は悪いやつ。そうでしょ? 悪者を倒すのが仮面ライダーの役目でしょ?」
「違うわ… 全然違う。それで命を奪っていいって理由にはならない」
「私の、陽奈の… いや、この世界のみんなが怪人から大切なものを奪われたんだよ? これくらいの報いは受けてくれないと────」
「あなたがやっている事は怪人そのものよ」
「………… え?」
「ようやくわかったわ。今更過ぎた…… 罪なき命を奪うって私たちもそうじゃない。あなたがやっている事は、昔あなたがされた事をやっているだけ。復讐に過ぎない。そんなのあなたが言う悪い怪人… いや、最低の人間そのものじゃない!!」
「なんで……? 陽奈… なんでそんなこと言うの…? やだ… やだ…… やだぁっ!!!」
するとクインが杖を振ると、彼女の身体にベールを纏わせ、その場から消えてしまった。
陽奈はクインがいなくなると同時に瓦礫の山を退かしていく。見てしまえば彼女は苦しむ。ただしそのままにも出来ない。
まだ助かるというほんの小さな希望。
助けたい。救いたい。
「お姉ちゃん必ず助けるから!! だからお願い!! 死なないで…!!」
しかし、現実は簡単に希望など出て来るはずもない。
瓦礫を退かして出てきたのは、希望とはかけ離れた少女の姿があった────。
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敵となってしまったモグロウ。苦しそうな親友の姿。
稲森にとってそれはどれほど苦痛なものなのだろうか。モグロウ自身もそうに違いない。お互いに、お互いの存在が親友を苦しめている。
「…… また1人か」
とてつもない孤独感が稲森を襲う。
友達なんかこのご時世できるはずもない。他の怪人なんて、表に出るものはほとんどいない。出ても不遇な扱いを受けるだけ。
もう怪人なんてどこにもいない気までする。
「誰にも相談できないって、こんなにも苦しんだな……」
ただぼーっと歩いていた稲森は、病院前まで来ていた。
特に用はないし、何も考えず歩いていたら来ただけ。しかも怪人がこんなところを彷徨いていたら、何を誤解されるかわからない。
稲森がその場から離れようとすると、病院から陽奈が出て来るのを見つける。
「羽畑さん……」
陽奈はこちらに気がつくと、何を言うわけでもなく、その場から離れていく。
首を突っ込むのは馬鹿のする事であるが、稲森はどうしても彼女を放ってはおけなかった。
あんな悲しそうな顔をするには理由があるはずだから…。
それから稲森は陽奈の後を追う事にする────。
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そして陽奈は誰かに追われている気配を感じ、後ろを振り向くと、案の定稲森の姿が見える。
誰にも会いたくはなかったのに、ちょうどいい時にこの怪人は現れる。
「羽畑さん! 待ってください!」
「…… 何よ。私は別についてこいなんて一言も言ってないわよ?」
「さっき病院から出てきましたけど…… 何かありましたか?」
「…っ!」
「羽畑さん…?」
「うるさいわね!! それ以上なんか喋ったら、ここであなたを倒すわよ!!」
「え、いやその… す、すみません!!!」
この表情と声の圧からして、陽奈に何かあった事は明白。それも尋常ではないほどの事が起こったのだろう。病院にまで発展するような酷いことだ。
「…… あの」
「話し聞いてた…?」
「少しお話ししませんか? 僕も話しがしたいんです」
「…………… あんたと話すことなんかない」
「僕の友人が敵になりました」
「は…?」
一瞬、陽奈は楓の事について言われていると思った。だが、彼が言うには彼もまた親友が敵にまわったという事実。
陽奈は自分の今置かれている状況と重ね合わせてしまった。
「─── わかった」
「え?」
「少しだけなら聞いてあげる。あそこのベンチでいい?」
「は、はい!!」
──── 2人は街中にあるベンチに座り、今の状況を話し始めた。
今までならばあり得ない事だ。互いの話しをし、互いに話し合うというごく当たり前な事を今まで一度たりともやってはこなかった。
こうして話しをしてみれば、互いに親友への責任を感じている事がわかった。
親友がこれから罪を犯すとわかっていながら、何もできない自分たち。どうする事もできない自分たちのやるせなさ。
「あんたも苦労してんのね…」
「羽畑さんもやはりと言っていいのか…… それにしても、その子生きていて本当によかったですね」
「えぇ… まぁね」
あの後、怪人の少女を瓦礫から救い出し、急いで病院に連れたいった。
少女は重傷で助からないだろうと思ってしまっていた。だが、蓋を開けて見れば少女は生きていたのだ。
諦めないと思っていても、どうしてもその目で、その現実を見てしまったら誰しも無理なんだろうと揺らいでしまう。信じた奇跡を諦めてしまう。
それでも陽奈は病院へと運んだ。それが普通とかではない。心の奥底に、ないと思っていた奇跡を信じ、行動に移したのだから。
「親友がもう少しで殺人を犯すところだったわ… まぁ、楓もきっと何かあるんだろうけど、あの子があぁなったのが、私のせいなのは変わらない。楓がもし誰かを殺してしまったらそれこそ私の責任よ」
「…… だとしたら、僕も責任を取らなきゃいけませんね」
「あなたの場合はモグロウ? だか言うジェスターの掟のせいでしょ? あなた自身に責任って…」
「羽畑さんと同じ、と言ってしまうのは違いますね。僕もモグロウには幼い頃から救ってもらっていたんです。楽しいこと、苦しいことも、どんな時でも一緒に過ごせた。親がいない僕がこうして笑っていられるのも、モグロウという親友がいたからです…… だから僕は親友を解放したい。例え無理難題だろうと、今度は僕が親友の希望になりたいんです」
「… 私も同じような感じかしら…… 人も怪人も、もしかしたら分かり合える日が来るのかもね」
「羽畑さん……」
「今は違うけど、まぁ考えてあげなくもないわ…… 父さんには逆らってしまうけどね…」
「羽畑さんのお父さん…… 初代エース」
「こうした平和があるのは父さんのおかげ、ただそれが本当に正しいかなんてわからなかった。今も怪人に対しては嫌悪感はある。けど、あなたみたいなのもいるってわかったし、あの子もヒーローを望んでいるから…」
「はい! それならとても嬉しいです!… 今日はありがとうございました」
「私もスッキリした…… もし、何かあったら言いなさい。お互いの敵はどうやら同じっぽいし。協力はしてあげる。一時休戦? もうなんでもいいわ。とりあえず私たちはこれから協力体制。いいわね?」
「も、もちろんですよ! 凄く嬉しいです!」
「はいはい。じゃあ、私はもう行くから────」
「─── 羽畑さん。協力ということであれば、早速なんですけどお願いできますか?」
「……… なるほど。別にお願いされてあげてもいいわ」
2人は同時にドライバーを腰に巻きつける。
すると、2人に車椅子に乗った人物が近づいて来る。顔は包帯で巻かれ、その素顔は何も見えない。
ただ言える事は尋常じゃないほどの重い空気と威圧感。全身が強張るのがわかるほどの恐ろしい何か。
「誰ですか… あなたは?」
「……… 私が態々出向いた。連れてこいと部下に命令していた何も関わらずだ」
「……?」
「それはなぜか? それを1番わかっているのは、エース。お前のはずだ」
「私?」
「ファング。ここからは私がやる。手を出すな」
そういうとそこにあった気迫の一つが薄くなった気がした。
ただそれがファングだったとするなら、今目の前にいる人物はそれ以上に強大な力を感じる。
「あんたはなんなの…」
「察しているはずだ。エース。初代の娘」
「……… まさかっ…!!」
「そう、私はジェスター首領。今、再びこの地に舞い戻った!!」
2人はそこにいるものが首領だと発言した瞬間、脳裏に今からどう対処するかと、何通りも考えた。信じたくはなかったが、信じるしかなかったのだ。
稲森はこの日であってもおかしくないと思えていた。話しに聞いた通りになっている。
「首領… もう復活しただなんて…」
「アベンジか。裏切り者め。お前の始末は後だ。だが、安心しろ。今はエースに用がある。黙って見ているのであれば、お前の始末は考えてやってもいいが?」
しかし、稲森は前に出るとトランスフィードを構える。
この行為が許される行為でない事は承知済み。これが稲森の答えだ。
「……… そうか。わかった。それがお前の答えと言うのだな」
「すみません… あなたは怖い。だけどそれ以上にここで何もしないのはもっと怖いです」
「私より怖い… か。いいだろう。エースもろとも消してやろう」
そういうと首領は後ろに手を回し、包帯を取っていく。
包帯を取り終わると、首領の顔が露わになった。その顔はとても見覚えのある顔であった。
「現エースよ。この顔に見覚えはないか? いや、ないわけがない。お前がよく知る顔だからな」
「…… 嘘よ。なんで…… なんで、同じ顔なのよ…!!!」
首領の顔は陽奈にとって、とても大切な人。とても大切でかけがえのない家族。世界を救った英雄。
陽奈の父親であり、初代エース。
「─── お前の父親。羽畑 月火の身体だ」
エース編終了(唐突)
今度は親友奪還編始まります。
次回、第21話「初代がファーザー」
次回もよろしくお願いします!!