仮面ライダーアベンジ   作:辰ノ命

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皆さんご無沙汰しております。

前回、父の見た目をした首領との戦いをした陽奈であったが、その力の前には及ばず倒れてしまった。稲森もファングとの戦いにより1度はダメージを与えるものの、決定打とはならずに敗れる。そんな稲森は首領に助かる条件を出されてしまった一方、彼にはまた一つ最悪な結末への切符が作られてしまった…

それではどうぞご覧ください。


第22話「友にペイン」

稲森が助かる為に課せられた条件。陽奈とモグロウの殺害。

そんな条件が呑めるはずがない。ただあの時はどちらにしても、あぁする他の方法はなかった。

これは一昨日の話だ。首領とファングに囲まれ、絶体絶命の大ピンチの時、稲森に与えられた命令のようなもの。

 

 

「─── そ、そんな条件呑めるはず…!!」

 

「素直に従えばいい。そうすればお前は助かる。それの何がいけないんだ?」

 

「首領… 僕は誰も殺したくありません…」

 

「忘れたか? お前は私を裏切った。私は裏切り者が嫌いだ。殺意を抱くほどにな。今すぐにでも、お前のその首をへし折ってやりたい…… が、私も復活してから多少の慈悲深い心が芽生えたようだ。そんなお前を救ってやろうという慈悲がな」

 

「………」

 

「モグロウは、私に一度も会いには来ないが、奴は掟がある。奴にとって掟を破る事、それ即ち一族の命を差し出すという事。今は班目に唆されて計画を練っている最中なのだろうが、奴はたった1度私を裏切った。結局は裏切ったのだ。たかが1度の失敗だろう。しかし、その失敗は私に意に背き、掟を破るまでに至っている」

 

「だから… 殺すんですか?」

 

「当たり前だ。一族もろともな」

 

「…………」

 

「…… 時間をやろう」

 

「…っ!」

 

「3日だ。3日以内に私にモグロウとエースの首を渡せ。当然、今奪っても構わない。お前がそれでも私に従わないというのなら、話しは別だがな」

 

「……… わかりました… 首領」

 

 

稲森にはそう返事をするしかなかった。これ以外に自分も陽奈も救われる道はなかったから。

そして約束の時間は刻一刻と迫っていた。たった3日という中での決断を強いられ、もう後1日。時間が過ぎるのを、ここまで実感できるのはいつの日以来なのだろうか。

稲森は自宅で、この状況を打破する為の考えを見出そうとしていた。病院にいる陽奈は未だに動けそうにない。何をするにも相談相手がいない。

 

 

「モグロウ…… また話したいよ…」

 

 

ボロボロになったアパートで、1人静かに涙を流す────。

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

それから稲森は、気分を変えようとアパートから街へと駆り出した。

頭がいっぱいでどうしようもない時は、こうやって外へと出てリフレッシュした方が良い。最も、稲森の置かれている状況では、ほとんど何の意味もなさないのだが。

 

 

「─── イナゴ」

 

「… ん? あっ……」

 

 

急に話しかけられたと思ったら、その人物はモグロウであった。

彼がどうしてこんな所にいるのかわからない。ただ会えただけでも、こんな嬉しくなるとは思わなかった。自然と涙が溢れる。

モグロウもそんな稲森に少々驚いたのか、稲森の背中をさすりながら、公園へと足を運ぶ。

稲森をベンチに座らせ、隣に置いてある自動販売機でジュースを買い、それを稲森に優しく渡す。

 

 

「久しぶり… だな」

 

「久しぶりでもないよ」

 

「あ、あぁ…… そうだったな。身体の調子はどうだ?」

 

「全然平気さ」

 

「おう… そりゃ良かったぜ…」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

いつもなら続く親友同士での会話も、今置かれている状況から何も答えられないし、何も聞かなかった。

2人にできてしまった大きな溝。掟や条件。この2つがある限り、当たり前のように楽しい会話などできるはずがないのだ。

暫くだんまりが続いたが、ここでようやくモグロウの口から言葉が発せられた。それは謝りの言葉だった。

 

 

「─── 悪かったな。イナゴ」

 

「急にどうしたの?」

 

「掟だ、なんだで、お前の事を傷つけちまった…… 親友なのに情けねぇよ」

 

「何言ってるんだよ。掟だったんだから仕方ないさ」

 

「それでもだ! 俺は… 俺は…… 大事な親友の命を奪おうとしたんだ」

 

「家族が大切なのはよくわかる。僕は生まれた時から家族いないけど、なんとなくだけどわかるんだ。それに親友が苦しんでる顔見るの辛いし」

 

「…… お前って奴はほんとに優しいよな。その優しさがお前のいい所だぜ」

 

「僕は優しくなんかない…… なにせ、君を殺す事を命じられたんだから」

 

「……っ!!? お、おいそれどういう事だ!!」

 

 

それは首領の条件だと、モグロウに一言一句何があったか細かく伝える稲森。

話しを聞いたモグロウはベンチに座り直し、頭を抱え、怒りなのか哀しみなのか、ふるふると身体が震えている。

 

 

「お前はその条件を…… いや、言わなくていい。やるしかなかったんだもんな。陽奈の奴も、お前も、その場から逃げる為には仕方なかった」

 

「それでも僕は親友を盾にした。一時とはいえ、首領の言いなりになったのは事実さ。これから… どうしようかなぁって」

 

「たった3日でどうするってんだよ… 俺かお前か…… イナゴ」

 

「なに?」

 

「俺は結果的に死の運命にある。お前が条件呑もうが呑まないが、俺は殺される。それならいっその事こと、お前にはあの首領に一泡吹かせて欲しいんだ」

 

「な、なに言ってんだよ… モグロウ?」

 

「俺を犠牲にしろ、イナゴ────」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

数時間前、班目の研究所では新たなアビリティズフィードが開発されていた。

その名は「リジェクトフィード」。拒絶という意味があるそれは、人の犠牲が増えれば増えるほどその力を増していくという、まるで殺人鬼であり、悪魔のような恐ろしいアビリティズフィード。

モグロウはそのリジェクトフィードを見て、思わず言葉が出てこなかった。

 

 

「犠牲… だと?」

 

「はい。トランスフィードは『溜め込む』という力があります。それは自らの内に秘めている力だったり、外部から受けたダメージなんかも…… この特性を活かし、リジェクトフィードには『犠牲』。人の持つ秘めたる命を溜める事で最大限の力を発揮します。その命がその者によって大きければ大きいほど…」

 

「つまり… 家族のような縁が強い場合、リジェクトフィードの力が更に強まると?」

 

「素晴らしい! 全くその通りです!」

 

「… ってめぇ!!!」

 

 

モグロウは怒りのままに怪人態へと変化すると、班目の首を掴み上げ、研究所の壁にぶつける。

そして班目は苦しそうに片手を掴まれている首に当て、もう片方の手で静止するよう仰ぐ。

 

 

「イナゴをなんだと思ってやがるッ…!!!」

 

「… でも稲森さんとはぴったりな能力だと思いませんか? 稲森さんは命を大事にしている。人と人との縁を大切にする善人だ。そんな彼が、もし人を犠牲にしてみてください。恐ろしいほどの力を発揮します…… よっ!!?」

 

「お前それでも人間かぁッ!!!!!」

 

「全く…… 戦争に参加していたあなたがよく言いますねぇ…」

 

「はっ…!」

 

 

その一言を言われたモグロウはほんの少し手を緩めてしまった。

一瞬の隙をつき、班目はモグロウを蹴って首の拘束を外すと、すかさず腰にポーカドライバーを巻きつけ、ダイヤの描かれたカードを差し込む。

 

《ダイヤ!! ベット!!》

「変身」

 

 

ドライバーの両サイドを引っ張ると、アーマーが形成され、班目は仮面ライダージャック ダイヤウェポンへと姿を変える。

 

 

《Let's call!! ダイヤジャック!!》

「さぁ、思う存分私を殴っていただいて構いませんよ」

 

「あぁ、殴りがいがありそうで安心したぜ!!」

 

 

当然、100t以下の攻撃を無効化する装甲を持つジャックには、単純な物理攻撃では傷一つ負わせることはできない。

知ってか知らぬか、モグロウは無謀にもジャックを力の限りを尽くして殴る。ガキンという鉄と鉄がぶつかり合ったような音が響く。その間にもジャックは一歩もその場から動こうとはしない。否、動かすこともできない。

 

 

「くそっ…!!」

 

「あなたの怒るのも無理はないと思いますが、これしか首領を倒す方法はないんです。そうすればあなたの命も助かるんですから、万々歳じゃありませんか? 大元を倒すわけですから」

 

「そういう問題じゃねーだろ!! このマッドサイエンティストがッ!!」

 

「マッドサイエンティスト…… 聞こえはあまりよく感じられませんね」

 

「当然だろうが…… ッ!!?」

 

 

その時、ジャックの渾身の右ストレートが、モグロウの顔面に直撃する。

ミシミシと音を立てながら、モグロウは研究所の端からは端へと、いとも簡単に殴り飛ばされてしまった。

 

 

「がはっ…!!」

 

「私はあまり戦闘は得意じゃないんです。今日はこれで落ち着いてくださいね」

 

「て、てめぇ……」

 

「明日、稲森さんにでも会いに行って、この事を伝えていただいて構いません。モグロウさん。あなたのその親友を思う気持ちに免じて、今回は彼の意思でこのリジェクトフィードを渡しましょう。要らないのであれば捨てます。もったいないですけど」

 

「………──────」

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

「そんな事が…… だからってモグロウが犠牲になる事ないじゃん!!」

 

「お前が否定するって事もわかった。だけど、これは3日後なにも変わらなければ、そうしなければいけないという策だ。嫌な話しだが、奴の造るそれは嘘偽りない。本当にあれは首領を倒せるかもしれない」

 

「だからって……」

 

「わかってくれ、イナゴ。親友のお前にしか頼めないんだ。死んじまうくらいなら裏切っちまった親友、家族の為にこの命を使いたい!! お前ならわかってくれるはずだ!!」

 

「モグロウ……」

 

 

モグロウは本気で言っている。嘘ではなく、覚悟した目で稲森をジッと見つけてきた。

わかっている。稲森自身にもモグロウの気持ちはよくわかる。裏切り者は必ず死。与えられた選択は最早、死という一本道だけ。どちらにしても底のない穴へと真っ逆さま。

それなら、いっそ死ぬ運命にあるならばと、モグロウは本気で覚悟を決めた。リジェクトフィードと呼ばれる悪魔に、その命を捧げるという。

 

 

「やだよ」

 

「イナゴ…!!」

 

「そんなの、はいそうですかって、簡単に受け止めるわけないだろ!! 僕は親友を救う!! 陽奈さんだって誰だって、僕が救ってみせる!! 誰かを犠牲にして生きるなんて僕にはできない!!」

 

「………… お前って奴は本当馬鹿だぜ… そういう所が良い所だ。イナゴはな」

 

「へへっ…」

 

「─── あらあら? お二人ちゃんでなーに仲良しごっこしてるのかしらぁん?」

 

 

2人の間に入るように現れたのはスピーダ。リゲインの幹部の1人である。

稲森とモグロウはベンチから立ち上がり、稲森は腰にアベンジドライバーを装着し、モグロウはいつでも怪人態へと姿を変化できるよう構える。

スピーダは首を横に振りながら前へ出ると、その後ろからウェイトも姿を見せた。

 

 

「ウェイトさんにスピーダさん… どうしてここに?」

 

「どうしてって、もちろん決まってるでしょ? 経過確認よ。それでどうなの? 見たところモグロウちゃんはピンピンしてるけど?」

 

「僕は誰も傷つけたくないし、誰かを殺すなんてもってのほかです!」

 

「じゃあつまりは… 首領を裏切るって事で良いのかしら?」

 

「裏切るもなにも、元々意に反してました。今更な話しですよ」

 

「あっそぅ…… なら、明日になるまでもないって事で良いわね。首領も確実ならやって良いって言ってたし… ウェイトちゃん。殺しましょん!!」

 

 

スピーダは稲森とモグロウの後ろに回り込み、いつでも殺せる体制を整える。ウェイトもスピーダに合わせ、徐々に2人に詰め寄っていく。

稲森たちは背中合わせになると、お互いの背中で語る。これからどうすれば良いのかと。これからすべきことはなんだと。

 

 

「─── わかってるよな。イナゴ」

 

「わかってるよ。僕たちがやるべき事」

 

「俺たちの絆ってもんをッ──!!」

 

「見せてやろうッ!!」

 

「「変身ッ!!!!!」」

 

 

アベンジドライバーにジャンプウェポンを差し込み、ドライバーの口を閉める。閉じると怪物のような顔になったそれは、周りからイナゴの群れを作り出し、稲森の身体に噛み付いていく。一つ一つがアーマーに変化し、稲森は仮面ライダーアベンジ ジャンプウェポンへと変身する。

モグロウはモグラのような鋭い爪と長い鼻。爪は長く鋭い刃が3つに分かれ、鼻はドリル状の物へと変化し、全身は機械のようなアーマー態に変化する。

 

 

《The war begins again, we're the last to laugh》

《START!! トランスアベンジ!!》

「行くよモグロウ!!」

 

「あぁ!! イナゴに代わってッ!!」

 

「モグロウに代わってッ!!」

 

「「──── 逆襲だッ!!!!!」」




アベンジ・モグロウvsスピーダ・ウェイト!
勝つのは果たしてどちらなのか!?

次回、第23話「手段でノットセレクト」

次回もよろしくお願いします!!

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