前回、大きな痛手を負わされた首領と怪人たち。そして心に大きな傷を受けてしまった稲森。人間たちに戦争をやめるよう説得する陽奈と楓。しかし、戦争は始まってしまった。人間と怪人。生き残るのは…
それではどうぞご覧ください。
あぁ、なんて事だろう。なんて無謀なんだろう。本当に愚かな人間だ。
人間というのはどうしてこうも負けるとわかっていながら進んでくるのだろうか。こんなもの自ら死を選んでいるだけだ。馬鹿馬鹿しい。愚か過ぎる。
首領はこの乱戦の中で何度もそう思う。怪人と人間の過去の強さなど、人間どもがわかっての通り、殴られれば肉体を貫通し、蹴られれば真っ二つにされる。力関係はこのように大きく離れている。
もしも人間どもが限界まで鍛えたところで、怪人側からすれば肉に肉がついた程度。ただの肉の塊に過ぎない。
結局こちら側が打撃を与えれば、骨は粉々となって内臓に突き刺さり致命傷だ。
「やめて皆んなッ!!」
「陽奈… もう止められないよ…!!」
陽奈が叫ぼうが、楓が叫ぼうが、どちらにせよ人間側が止まるという事はない。
もう既に人間と怪人は衝突し、この数秒という短い時間の中で何人もの犠牲者が出てしまったのだろうか。数なんて数えたくない。あまりにも悲惨過ぎる。
変身すれば数人の命は救えるだろう。否、救う事は難しい。救えないと言った方が正しいのだ。
「…… うっ」
「ライダーにはさせんぞ… エースの娘よ」
たった数秒の中で首領は陽奈たちの目の前に立ちはだかり、背後には班目がドライバーを腰に装着し、双方ドライバーを装着し終えた状態であった。
何かの拍子ですぐにでも陽奈たちも首領たちも戦える。ただ少しでもタイミングがズレればやられてしまう。
「戦争なんてして意味があるの? こんなのただ犠牲を生むだけよ!!」
「… 聞いていた頃とは全くの別人となったな。だがな、罪なき怪人を殺そうとした挙句、次は怪人も人間も守るだと? 都合がいいにも程がある!! お前がしてきた罪が変わる訳ではない。それを忘れて正当化しているのか?」
「確かに私は怪人たちに酷い事をしてきた… 仮面ライダーとしての正しい行いだと思った。仮面ライダーは人間の味方でありヒーローなんだって…… けどね? 私は大事な事を忘れてたわ。仮面ライダーは人間だろうと怪人だろうと、泣いている誰かがいたら手を差し伸べてあげるって。そういうものなんだって」
「だからどうした? お前の罪が消える訳ではない」
「永遠に罪は背負うし償っていくわ。私はもう失いたくない… 誰であろうと守って、あんたみたいな仲間を簡単に殺すような怪人はぶっ飛ばすだけよ!!!」
「馬鹿め。お前がいくら贖罪しようが決めるのは奴らだ。お前に決定権はない」
「それでいいから言ってるのよ。私はもう迷わない。私がすべき事を、私の越えるべき壁を潰して前へ行くわ!!」
すると、背後からパチパチという拍手が聞こえ、振り向くとヌッと陽奈の後ろから班目が現れて例のアビリティズフィードを握らせる。
班目に無理矢理渡されてしまったが、それを地面に叩きつけようということはせず、陽奈は首領の方へと向き直った。
「おや? 意外に素直ですね?」
「どうせこれもあんたの策略か何かでしょ? だったら逆にそれを利用させてもらうわ」
「ほう?」
「今の私のままじゃ勝てない。リスク承知で使わなきゃ私は父を越えられない」
「陽奈さん。前にも述べましたが、ここで詳しい事を言っておきましょう。そのアビリティズフィードの名は『マスタースペイドフィード』。ポーカドライバーに使用するデータを組み込んだ現在のエースの最高の最終形態です。ちなみにエースドライバーにはポーカドライバーの負荷に耐えられる様な機能は付けてないのでそれなりに負荷が掛かります」
「それがどうしたの? 今更負荷が掛かるなんて事、気にしてたらスーパーハードウェポンが泣くわ……… じゃあ、そろそろ準備いいわね」
そして陽奈はマスタースペイドフィードを顔の横で構える。
首領がそれを防ごうと変身して一気に距離を縮めようとしたが、そこへ班目が割って入り近づくことを許さない。
「退け班目ッ!!」
「そのような口を聞いて大丈夫なんですかね?」
「ぐっ…!!!」
この状況に困惑しながらも、陽奈はマスタースペイドフィードの上部を押す。
すると、マスタースペイドフィードから《ビバ!! マスター!!》という音声が流れた後、陽奈はエースドライバーにそれを差し込んでスライドさせると、ドライバーの真ん中にスペードのマークが露わとなる。
《マスター!! スペード!! Open bet!!》
「変身ッッッ!!!!!」
陽奈は掛け声と共にエースドライバーの側面を押し込んで、腕をクロスさせると、彼女の全身を白い糸が包み込む。
やがてそれは霞んでしまい、まるで蛹の様に変化する。ピクリとも動かなくなった蛹がピキピキと背中から音を立てて割れ始め、そこから巨大で美しい羽が光り輝いて現れる。
その羽は蛹を包み込んで見えなくなった途端に、蛹から光が溢れ出し、新たに煌びやかな装甲を纏った仮面ライダーエース マスタースペイドウェポンが姿を現す。
《Let's try!! Let's call!! ビバ!! マスタースペイドエース!!》
「── この戦いは私が止めるッ!!」
マントの様な羽をバサリとはためかせ、ゆっくりと首領の元へと歩みを進める。
まさにマスターといった貫禄を見せつけるその姿に、流石の首領も息を呑んだ。一歩も動けないほど威圧を肌で感じる。
首領は班目を押し除け、姿が変わったエースの元に一気に近づいて渾身の蹴りの一撃を浴びせる。
「なん…だとっ!!?」
「全然効かないわよ… こんなダメキック!!」
今度はエースの蹴りをまともに喰らった首領だが、あまりの強さに一瞬息ができぬまま後方へ大きく吹き飛ばされた。
そして吹き飛ばされ首領を見た者たちは皆が唖然とし、戦っていた者たちもその動きを一時的に止める。
「楓。今のうちにお願い」
「あ、うん!!」
楓は仮面ライダークインへと変身し、まだ微かに息のある人々や怪人たちを回復させる。ただし、怪人たちの方は中途半端に回復させ、再び襲ってこない様に調整を行いながら隅へと運び出す。
クインがそうしている間、エースは一気に首領の目の前まで跳んで行く。
「どうかしら?」
「小娘ッ…!!!」
「父さんの蹴りはこんなものじゃなかったわよ」
「…ッッッ!!!」
全てのジェスターの能力が使えるはずの首領の力を持ってさえ、マスターの前ではまるで赤子同然なのだ。
今、殴りかかってきた首領のパンチを軽く捌き、棒立ちの状態で顔面に裏拳を喰らわせる。メキリと音を立てて吹き飛ばされた首領に走って追い付くと、再び裏拳で殴り飛ばす。
「うっぐぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
何とか体勢を立て直す首領。無駄だと知りながらも当然のように突っ込んできた。
すると、エースは首領に向けて手を翳し人差し指を下に向ける。驚いた事に首領はエースの指した方角に向けて全身を地面に着けた。
「う、動けん…ッ!!!」
この光景は明らかに何かの能力が作用されていると思う首領。当然、マスタースペイドの能力によるものだ。
みるみるうちに首領は地面へとめり込んでいく。エースが近づくにつれて、更に上から押さえつけられる様な感覚が強まっている。
「なるほどね… マスタースペイドウェポンは重力操作ってことかしら。なら、都合がいいわ!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
地面は大きくヒビ割れ、首領の仮面もバキバキと音を立てて割れる。
チラリと覗く首領の顔… それは陽奈の父、月火の顔である。苦しそうな父の顔を見た陽奈は思わず重力操作を切ってしまった。
その隙に首領はエースとの距離を取り、一度呼吸を整える。
「…… この顔か。お前も慈悲深い小娘だ。中身は私であるというのに」
「違うわよ!! ただ………」
「都合がいいのはこちらだった様だな。いいだろう。この顔を利用させてもらうとしよう。精々私の為に戦ってくれるよな… 月火よ」
「あんたッ…… ホントに最ッッッ…… 低ねッ!!!」
「なんとでも言うがいい。私がお前を殺す事に代わらないからな」
「くっ…」
2人のやり取りを少し見た班目はニヤリと微笑み、何処かへと姿を消していく────。
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「さて、ここで私は言うんです。戦争を止めさせはしないと…… ふふっ、当然ですよね。私は楽しみたいのだから」
班目は今までにない以上に口角を釣り上げてニタリと微笑む。
何と言う事だろうか。陽奈たちのやったことが台無しになる現実が班目の目の前に広がっている。
人間と怪人の戦争は一部だけに留まるはずなんかなかったのだ。
人間たちの怒りや憎しみ。怪人たちの憎しみや怒り。両者の想いは同じであり、それは大きな憎悪となって街中へと広がった。
戦争は既に栄須市全体で発生したいた。もう止める事はできない。やがてこれは大きくなっていく。収集などつかないほどにより大きく広がるだろう。
「醜い。何とも醜い。ですが、私はこの醜い戦いがとても好きなんです。いやぁ… まさか月火さんの代で終わりだろうと思ってたんですがねぇ……」
─── 数十年前、私はこんな人生がつまらないと思っていた。
私は自分で言うのもなんですが、頭は良く、勘も効く。まさに天才と言うべき存在だったんです。
何でもできてしまう私の力は誰もが欲しがり、そして誰からも信頼され、好かれ、讃えられ、それはそれは楽しい日々でしたよ… と、皮肉を言ってみます。
実際のところは毛ほども楽しくなんかありませんでしたね。何の刺激も得られなかった。
なら、何がいいんだと問われれば、唯一私に刺激を与えてくれたライダーシステムの開発ですかね。
あれは楽しかったんです。自分の発明が人間では到底動かすことのできない大きなものを動かしてしまったんですから。
でも、それもすぐに飽きてしまいましたよ。人間は脆い。首領との戦いで彼らは共に散り、私は再びつまらない人生へと逆戻りした。とても腹立たしかった。
「陽奈よ。あなたがエースドライバーを開発した人?」
─── あぁ、希望が1人現れてくれた。自分をつまらない人生から救ってくれる正義のヒーローが。
だから私はそんなヒーローの為に大きなシナリオを考えました。
まず、ファングさんの傘下へと入り首領を月火の身体を糧に復活させて、陽奈さんには今と変わらずの援助を、親友さんは陽奈さんの覚醒のトリガーで操って…… そして1番いいネタがありましたよ。それが稲森さんです。あの最強の一族の生き残りなんですからねー… いやぁ嬉しいです。彼にも親友がいましたから覚醒のトリガーとさせていただきましょう。
全部混ぜ合わせてできたものがこちらです────。
「怪人を皆殺しにしろぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「怪人を1匹残らず殺せッ!!!!!」
「奴らの好きにさせるな!!! ここは俺たちの国だッ!!!」
「人間どもを皆殺しだぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
「人間など下等な生物を生かすなッ!!!!!」
「この世界は俺たちジェスターのモノだッ!!!」
「「「「「「殺せッ!!!!!」」」」」
人間側と怪人側のツートップが争えば、後は勝手にこうなってくれるんです。
この生き物の醜さが私は堪らなく好きなんです。随分と長生きすると、こうしていい事はありますね。
「稲森さんがいい仕事をしてくれなお陰です。お礼の品はありませんが、最後の仕上げとするなら…… ねぇ?」
「………」
「あなたにはお約束通り力を与えました。試しでやるなら今ですよ。どちら側に参加するかはあなた次第です」
大きな巨体にその身を包み込んだその姿。どこかで見たことがあるその風貌はまさに仮面ライダーと言える。
「では、どうぞ───── ファングさん」
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あれから悲惨なニュースが流れ、ある一部で大虐殺が行われたという情報があちらこちらに飛んできた。
人も怪人も関係なく皆殺しにされ、辺りは吐き気が耐えられない程に悲惨な状況となっていたらしい。
モグロウはそれを稲森に伝えると、流石の彼も目の色を変えた。
「わかってると思うが、これはお前じゃねーぞ」
「うん…… でも、こんなの誰が…」
「陽奈の奴から連絡が来てねぇからわからん。とにかく今は待つしかない」
「…… 僕も行かなきゃ…」
「そんな震えた手でか?」
「これは……!」
やはり手が震えている。手だけではない全身が戦いを拒んでいる。
「まずは陽奈の連絡が来るまではジッとしてろ!」
「…… ごめん」
「謝んなよ… ったく…… ん?」
モグロウは携帯が鳴り始め、それに出ると、話しの内容からして相手が陽奈だとすぐにわかる。
そして暫く話していると、モグロウが表情を変えて「本当か!?」と、何度も陽奈聞き返している様だった。話し終えたモグロウが通話を切ると、稲森に真剣な眼差しで彼に告げる。
「イナゴ。とんでもない事になったぜ」
「とんでもない事…?」
「─── 陽奈が首領を倒しただとよ」
久々の新フォームそのままお披露目回でした。
ですが、嬉しくない内容が……。
次回、第31話「本物をオーバー」
次回もよろしくお願いします!!