仮面ライダーアベンジ   作:辰ノ命

32 / 47
皆さんご無沙汰しております。

前回、陽奈は仮面ライダーエース マスタースペイドウェポンへと新たな変身を遂げて首領を押していたが、父の顔を見た陽奈は思わず手を止めてしまう。一方で班目は自分の計画が順調に進んだ事への喜びを噛み締めながら、仕上げの一手間とファングを連れていた。そして稲森は未だに立ち直れぬまま、一緒に居合わせたモグロウの元に一本の電話が入る…

それではどうぞご覧ください。


第31話「本物をオーバー」

 陽奈から連絡が来た時は、稲森もモグロウもお互いに目を合わせて暫く状況の整理をしていた。

 その後、陽奈から「首領を倒した」という言葉をもう1度聞いた事によって、ようやく「あぁ、そうか」と理解はしたものの、2人は喜べずに顔を何度も見合わせる。

 何故なら相手は内側は首領であるにしろ、外側は陽奈の父親そのものなのだから。

 

 

「わ、わかった。その…… 」

 

「--- 心配するだとか、同情するのはやめて。そう思ってくれるだけで嬉しいわ。でも、今は落ち込む事に時間は使いたくないの。今の状況わかってるでしょ?」

 

「あぁ、わかってる。だけどよ…!」

 

「--- 確かに父さんよ。だけど、あれは父さんの見た目っていうだけの別の何か。もうこの世に父さんはいない。それをわかってるから勝てたの。もう過去に戻らない。私はとにかく仮面ライダーとしてみんなを守るだけ」

 

「陽奈…… すまねぇ。お前の方がよっぽどわかってたらしいな。なら、変に同情したりはしねーよ。だから俺たちはお前に手を貸すぜ。どうしようもない時は駆けつけるからな」

 

「--- えぇ、ありがと。そろそろ切るわね」

 

「おう。またな」

 

 

 モグロウが通話を切ると、稲森は声を震わせながら涙を溢していた。

 確かに素直に喜べないというのもあるが、一体何に泣いているんだと、モグロウは稲森の背中を摩りながら聞く。

 

 

「おいおいどうした。確かに喜べないのはあるが、何に泣いてるんだよ」

 

「…… ごめん。でも、苦しんだ」

 

「苦しい…?」

 

「僕は本当に何をしてるだって… このままでいいのかなって……」

 

「お前は十分やったって言ったろ? 今は休むしかないんだ。今だけは陽奈たちに任せろ」

 

「アベンジの力は命を簡単に殺して奪う力…… それがもう怖くてたまらないんだ。でも、誰かの助けになりたい。僕どうすればいいんだろう…… 僕は一体何になればいいんだ……!!」

 

「イナゴ…… とにかくしっかりしろ。俺はお前が… その…… 苦しんでいる姿は見たくない。親友として」

 

「…… ありがとう」

 

「いいんだ気にすんな。俺にはお前がいて、お前には俺がいる。助け合うのが親友ってもんだぜ」

 

 

 親友とのちょっとした会話が稲森にとってどれだけ心の支えだろうか。

 しかし、最悪な状況は続く。

 稲森の住むアパートが突然大きな音を立てた。地震かと思われたその発生源が扉を引き剥がして現れる。

 

 

「あらあら? お2人さんお取り込み中だったかしら?」

 

 

 それはリゲインの幹部、スピーダとウェイトであった────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 これは陽奈たちが首領と戦っている時間まで遡る。

 首領が自らの見た目を利用して、エースの動きを止めていた。攻撃をしようものなら、この身体がただでは済まないぞと言うのだ。

 

 

「きっっ…… たない奴ね!! ホントにッ!!!」

 

「なんとでも言うがいい… 私は貴様に勝てばいいのだ」

 

 

 もう既に首領の威厳やプライドはそこには残ってなどいない。何をしてでもエースを倒し、そしてこの戦争にも勝ち、全てにおいて頂点であろうという我儘だけが残ったもの。

 まさに勝つ為には手段を選ばなくなった哀れなトップの終着点とも言えるだろう。

 

 

「死ぬがいいッ!! エースッ!!!」

 

 

 首領がノーガードで突っ込んでくると、エースは咄嗟に手を翳して重力を操作し、首領の動きを封じようとした。

 しかし、首領は父の顔でとても苦しそうで悲しそうな顔をエースに見せつける。目はジッと彼女を見つめる。

 そんな目を見せられ、エースは重力を解いてしまい、至近距離まで一息に詰められてしまった。完全に懐まで入られた。

 

 

「しまった…!!!」

 

「ふんっ!!!」

 

 

 流石のマスタースペイドの防御力と言えど、首領が能力発動させ、装甲の薄い場所に渾身の一撃を喰らわされてはダメージは通ってしまう。

 エースはマントの羽を広げ、空中で受け身を取りつつ首領から距離を離そうと試みる。

 ただ、首領は全てのジェスターの能力を使えるという力を持ち合わせている。飛んで逃げようとしても、彼は翼を生やしてエースを追う。

 

 

「どうして逃げるエースよッ!! 私を止めるのではなかったか!!?」

 

「うるさいわねッ!! 黙ってなさいよッ!!!」

 

「── 父さんから助けてくれないのか?」

 

「え…?」

 

 

 首領の声は父親そのもの。いつも陽奈に声を掛けてくれていた父の優しい声。不意に父の声のする方へと向いてしまった。

 瞬間、エースの死角から首領が姿を現し、防御も間に合わず再び渾身のキックを喰らって地面に向かって落下していく。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「この一撃に私の全てを賭けてやろうッ!!! これが本当に私の最後の一撃だッ!!! 数十年に渡った私の恨みはここで晴らされるッ!!!!!」

 

 

 父が拳を最大限に肥大化させてオーラを纏い、こちらに向かってくる。

 陽奈は父の顔を見ながら、昔のことを思い出す────。

 

 

 

 *****

 

「─── 陽奈。お前は俺をどう思う?」

 

「… どうって?」

 

 

 まだ幼い陽奈には父が何を言っているかわからなかった。

 今日のこの質問もそうだ。父はいつも自分について唐突に質問してくる。

 

 

「俺はいつもここには戻って来れない。ジェスター首領を倒さなければ、人間に明日はないからな。こうして陽奈と居られる時間も限られてしまっている…… だから聞きたい。お前は俺をどう思う?」

 

「うーん…… パパは大好き。仮面ライダーは凄いし、みんなパパのお陰で嬉しそう」

 

「そうか」

 

「…… でも」

 

「でも?」

 

「パパはいつも悲しそう」

 

 

 小さい頃の私からしても、父の顔は何度も見る度に悲しそうな顔をしていた。

 私はそれを見る度にどうしてそんなに悲しい顔をしているのと、父の質問と同じように何度も質問した。

 

 

「陽奈もいつも同じだな」

 

「だってパパが悲しそうなんだもん」

 

「…… 俺は辛いんだよ。人がこうして苦しんでいるのが… でも、それだけじゃない」

 

「???」

 

「怪人を倒してしまうのも辛いんだ」

 

 

 もう私の頭には疑問しか浮かんでこなかった。怪人を倒す父はそれが当たり前であり、仮面ライダーは怪人を倒す役目だと思っていたからだ。

 だからそこに命について言われた時、まだ私にはその大きさがわからなかったから「どうして?」という疑問しか出てこない訳である。

 

 

「みんな生き物なんだ。それを倒してしまうのは辛いだろう? 同じ命を奪う行為だからな」

 

「…? でも、パパはやっつけないとダメなんでしょ?」

 

「あぁ、それが俺の役目だからな……… 陽奈」

 

「なーに?」

 

「パパがもし陽奈に仮面ライダーを任せる時になったら、パパのお願いを聞いてくれるか?」

 

「それって?」

 

「それはな──────」

 

 

 ──── 父が首領との戦いで死んでしまい、私は父との約束と生前残した遺言書により、二代目仮面ライダーエースとして引き継いだ。

 その時、班目の元へと向かってエースドライバーとアビリティズフィードを貰いに行った。

 

 

「陽奈さん。月火さんの事は残念でしたね」

 

「…… そうね」

 

「この国は月火さんの目指したものになる事でしょう。いい条約を結んだそうですから」

 

「『怪人が人間に楯突く事は許さない』とかいう奴でしょ? 当然の報いよね」

 

「月火さんも優しそうではありますが、結構怖い条約を約束してきましたねぇ?」

 

「…… まぁね。ただ…」

 

「ただ?」

 

「何でもないわよ」

 

「あの頃はまだ可愛かった陽奈さんですけど、成長した途端可愛げがなくなりました…」

 

「は?」

 

「何でもありません」

 

 

 班目は父と仲が良く、そして父にエースドライバーを授けて人間の未来を救った凄い科学者だと最初は思ってた。この時はまだね。

 エースドライバー等を持ち、研究所から出ようとして陽奈は足を止めた。班目も作業していた手を止めて声を掛ける。

 

 

「どうしましたか陽奈さん? まだ何か?」

 

「…… 約束はしたわ」

 

「それは月火さんとの?」

 

「えぇ、父さんとの約束… と、言っても。まだよくわからないんだけどね」

 

「よくわからない約束…? 側から聞けば意味のわからない約束ですね…?」

 

「まぁそうよね。だからこれからわかると思うの。これから私が見つけるわ」

 

「聞いてもよろしいですか?」

 

「私が小さい頃約束したのよ。その約束は────」

 

 

 *****

 

「── そうよ。その意味… 今、理解したわ」

 

 

 エースは羽をバッと広げ、突風を起こして首領の体勢を崩させると、地面スレスレで飛行して再び天高く舞い上がる。

 そして首領は何とか地面に着陸し、エースの方へ視線を向ける。

 

 

「くっ… まだ足掻くかエースよッ!!」

 

「思い出したのよ。父さんとの約束」

 

「その約束が何だというのだ。貴様はここで死ぬのだ!!」

 

「私への課題。私だけに残した最後の遺言。その意味がここでようやくわかったわ!!」

 

 

 それからエースはドライバーの側面を押し込むと、羽はエネルギーの放出によって更に大きく広がり、エース1人では収まり切らないほどのサイズへと変化する。

 そのまま首領に向けて手を翳し、重力操作によってその場に固定する。

 

 

「… これがどうした? 貴様は父親を殺すのか? 自らの手で?」

 

「あなたは私の父親じゃないわ。見た目は同じでも中身は最低な怪人。それ以上でもそれ以下でもない!!」

 

「貴様ッ…!!! 本当に殺る気か!!? 父親もろとも!!?」

 

「だから言ってんでしょ!! あんたは私の父親なんかじゃないッ!!!!!」

 

 

 父との約束。それは────。

「陽奈。俺にはもうこの判断しかできなかった。だから引き継いだ後を頼んだぞ。お前の想う未来へ───」

 

 

「──── 父さんの言う言葉じゃなく、私自身の考え!! 私自身の希望ッ!!! 『私が想う世界へ』ッ!!!!!」

 

「貴様ァッ!!!!!」

 

 

 さよなら父さん。さよなら私の過去。

 そしてありがとう…… 父さん。

 私が築く新しい未来へ──────。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

《Thank you!! マスタースペイドエースライド!!》

 

「こんな… こんな事がッ…!!!私は再びエースにッ… ライダーにぃッ…!!!」

 

 

 エースによる天から下されたライダーキックは首領の胸部を突き抜けた。

 そして貫かれた首領は能力で再生を試みるが、心臓を破られたが為に再生は出来ず全身に火花が飛び散る。

 

 

「馬鹿………な……─────」

 

 

 全身から漏れ出すエネルギーと共に、首領は大爆発を起こして散っていった。

 陽奈は変身を解き、首領がいた場所を哀しげに見ていると、一部の戦争を止めた楓が陽奈の元へと帰ってきた。

 

 

「…… 陽奈、終わったんだね」

 

「えぇ、終わったわ」

 

「何も言うつもりはないよ。でも、お疲れ様って事だけは言わせて」

 

「ふふっ… 楓もね」

 

「うん! あ、そうだ。あっちは終わったよ!」

 

「わかったわ。じゃあ私はモグロウに電話するから周り見ておいてくれる?」

 

 

 これで首領は当然死んでしまったと思われていたが、陽奈たちが気づかないうちに一部だけ残った首領の細胞が何者かによって回収されていた────。

 

 

 

 

 >>>>>>>>>>>>>>>>>>

 

 稲森は現在、スピーダとウェイトに場所も聞かされないまま、強制的に連れて行かれていた。

 ── 数時間前のことだ。稲森の住むアパートが急な地震が起きたかと思うと、彼らの前にスピーダとウェイトが現れた。

 

 

「イナゴちゃんもモグロウちゃんもわかってるでしょうね? ここに住む人たちは全員人質。私がちょいとお願いしちゃえば、各部屋にいるウィンプジェスター達が殺しちゃうわよぉん?」

 

「…… 何が目的だスピーダ。イナゴには手を出すな」

 

「残念ね。イナゴちゃんに用事があるのよ。一緒に来てもらうわ」

 

「ふざけんなッ!!」

 

「おっと… いいのかしら?」

 

「…… ちっ!!」

 

 

 アパートの住民が人質に取られているとなると、素直に従っていた方が身のためであり、何より関係ない者たちの命まで巻き込んでしまう。

 モグロウがスピーダと睨み合っていると、後ろから稲森が現れてモグロウの前へと立つ。

 

 

「おい、イナゴッ!!」

 

「いいんだ… 僕を連れて行ってください」

 

「よせっ!! 何考えてんだ馬鹿野郎っ!!」

 

「大丈夫だよモグロウ… お願いだ」

 

「… やめろ」

 

「せめてもの罪滅ぼしをしたいんだ」

 

「ダメだっつってんだろ」

 

「…… 頼みます。スピーダさん」

 

「イナゴッ…!!! うぐっ!!?」

 

 

 そして稲森はスピーダの方へと向かうと、モグロウはそれを止めに入ろうとした。だが、居合わせたウェイトの力にねじ伏せられ、地面に倒され腕を拘束される。

 

 

「やめてくれ…… 頼むからッ!!!」

 

「ごめんよ。でも、モグロウ言ったろ?」

 

「なんだよ…!!」

 

「助け合うのが親友ってさ」

 

「……ッッッ!!!」

 

「それじゃあ、さっさと行くわよぉん!───」

 

 

 ─── それから稲森は見た事もない場所へと行き着く。中へと入ると、薄暗くほとんど何も見えない状況だった。

 暫く進むとどうやら広い場所に出たらしく、そこで全体の明かりが付き、思わず目を瞑ってしまう。

 稲森が目を開けると、そこにいたのは首領の右腕。ファングの姿があった。

 

 

「よく来たな。リゲイン本拠地へ」




稲森全く変身しないやん。という訳で主人公よりヒロイン目立ってる状態です。
大丈夫です!考えてありますので!…ね!!!

次回、第32話「獣牙にキング」

次回もよろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。