前回、人間と怪人の戦争を止める為に各々が必死に戦い続けていたが、班目の策略により戦争は止まるどころか激化してしまう。しかし、モグロウの身を呈した決死の叫びを皆が心の底から聞き入れ、ついに戦争は幕を閉じた。かに思われたが、まだ最後の決着が残っているのだ…
それではどうぞご覧ください。
── 今日この日。この日が運命の分かれ道なんだ。
「今日が… ファングとの最後の戦い……」
稲森は現在、自分の住むアパートではなく陽奈の実家にてその身を置いている。
机に置かれたお茶をグビッと飲み干し、深く大きなため息を吐く。
「はぁーーー……」
モグロウのお陰で人間と怪人の戦争は終わりを迎え、犠牲者は多く出たが最小限に留まらせることはできたと思う。
ただモグロウは戦争を終わらせる為に、身を挺して説得し重傷を負ってしまった。今は病院で治療を行っており、絶対安静という状態だと医者は言う。
「ため息なんてついてる余裕ある?」
「陽奈さん…」
「あなたが人類の運命を背負うって決めたんでしょ? だったら覚悟決めてやってくれなきゃ」
「… はい」
陽奈の言う事はごもっともなのだが、稲森は別に逃げるつもりも無ければ、負けるつもりなどなかった。
しかし、相手は仮面ライダーキング。変身者はファングである。
負けるつもりはないにせよ、負ける確率の方が上である事には変わりない。けれど絶対にこの戦いは勝たねばならない。
「まぁそれを1人で背負う責任の重大さって本当に苦しくて辛い事なんだろうけど、私たちは全部あなたに託してる。あなたが心で負けたら、今まで流してきた血を無駄にすることになるわ」
「…… そうですね。僕がやるって決めたんだからやるしかない… 陽奈さん、僕はファングを倒します」
「よく言ったわ!…… 全く父さんもこんな気持ちだったのかしら」
「そういえば陽奈さんのお父さんも人類の希望として戦っていましたね… まさか自分がその立場になるなんて思いもしませんでしたよ」
「本来なら私の役目なんでしょうけど… 巻き込んでごめんなさいとは言わないわ。同じ仮面ライダーとして、稲森。絶対に倒しなさいよ」
「はい!」
そして覚悟を決めた稲森と付き添いの陽奈は指定された最後の戦いの場へと出向くのであった───。
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「ファング様。そろそろお時間です」
「わかっている」
部下に呼ばれたファングは椅子から立ち上がり、稲森に指定した場所へと出向こうとしていた。
ファングの心には余裕があった。キングに変身したからというもの、誰も彼に対してまともなダメージを与えた試しがない。試しではなく現にそれを証明して見せている。
だから誰も自分に指図する事や意見する事はないと確信していた。
「大丈夫? ファングちゃん」
「…… スピーダ」
もう誰からも心配される事などと確信していたが、今もこうしてうるさく聞いてくる奴がいる。
「大丈夫か否かと問う前にわかりきっているはずだ。俺は何者にも倒せない」
「そうなんだけどね… 心配しちゃうのよ。私たちは」
スピーダの隣にはウェイトが立っており、そちらも心配そうな顔でファングを見つめている。
この2人は本当に何を心配しているのだろうか。ファングの頭には疑問しか浮かばない。
「貴様らが何を考えているかは知らんが、俺はこの戦いに勝って世界を手にする。その為にこの力を手に入れたのだ」
「えぇ、そうね。その力を手に入れてからファングちゃんは変わっちゃったものね」
「変わったとは?」
「前のあなたなら首領に対する忠誠心は絶対だったわ。足を舐めろと言われれば舐め、すぐに死ねと言えば死ぬ… 過度な事でも首領の命令とあるなら、ファングちゃんはどんなことがあっても絶対にやり遂げて見せた」
「だから何を言いたい」
「別に深い意味はないわ… ただ古くからの知り合いだから言っただけよ」
「いらない心配だな」
そうだ。こんなものいらない心配だ。
百獣の王に仲間など不要。必要なのは隣に立つ存在ではなく、後ろ若しくは下に立っていればいい部下だけ。
「俺は奴に勝ち。真の "キング" となる───」
決意を胸にファングは決戦の地へと歩む───。
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栄須市にある広い競技場の真ん中で稲森と陽奈は、今日の主役であるファングが来るのを待っていた。
稲森は何も話さないが何度も深呼吸を行っている。
陽奈もその行為が責任感からの緊張で無意識のうちになっているのだと思い励ましの声を一切掛けなかった。もう既にその事に関しては話しをした。同じ事をまた話すのは無意味だ。
「── そろそろ時間ね」
「はい」
そうして予定通りの時間が来ると、周りの空気は急にドッと重くなり、稲森たちは全身に寒気を感じる。
「予定より早いな、イナゴ」
「えぇ、礼儀ですから」
やはりファングは人間態の姿のままのようだ。皮肉な事にこちらの姿の方が表情がわかりやすく受け入れやすい。
そんな見た目と似合わない程の殺気と圧。
人間と仮面ライダーとなってから更に強くなったのではないだろうか。これもまた皮肉な話しだ。
「他の奴らはスタンドに上がらせろ。わかっているとは思うが、誰1人としては邪魔をする事は許さん」
ファングがひと睨み効かせると、怪人たちは皆スタンド方へと急いで着席する。
そして陽奈は稲森の肩をポンッと叩いてスタンドへと向かう。
スタンドには人間たちがおり、テレビのクルーであろうか、カメラを抱えて戦いの一部を収めようとしていた。
こういう光景を目にしてしまうと、やはり責任感が重くのしかかると稲森は思う。だが、全く後悔はない。
「稲森さーん!! 頑張ってー!!」
スタンドから黄色い声援が聞こえ振り向くとそこには楓がいた。
実は楓の怪我は既に良くなっており、無理はしない方がいいと稲森と陽奈は言っていたのだが、モグロウの件を聞いてこんな所で寝てる場合ではないと飛び起きたのだ。
最も今回の戦いが勝てなければ最悪な結末を迎えるのは確か。誰の助けも借りる事は許されない1対1の真剣勝負。
「頑張りまーす!!」
稲森は笑って見せたが、その声は微かに震えていた。
その震えを楓は察したのか更に大きな声で応援し始める。陽奈も負けじと似合わず大声をあげて稲森を応援し始めた。
やがてそれは人間たちも巻き込み始め、皆が揃って稲森に期待の声が浴びせられる。
「…… ありがとう。皆さん」
「茶番はそこまでだ。そろそろ始めるぞ」
「僕が勝ちますよ」
「抜かせ。俺が勝つ」
稲森とファングは暫し睨み合った後、両サイドに分かれる。
すると、スピーダが真ん中に立ち両者に変身を促す。今回の戦いの審判という立ち位置であろう。
「両者仮面ライダーに変身することを許可するわよぉん!!」
それと同時に両者は互いにドライバーを巻き、慣れた手つきでセットアップを完了させる。
「「変身ッ!!!」」
《Put a flag on the mountain of sacrifice, I'm an avenge world revenge!!》
《START!! リジェクトアベンジ!!》
《let's call!! クラブキング!!》
仮面ライダーアベンジ リジェクトウェポンvs仮面ライダーキングクラブウェポン。
両者仮面ライダーへと変身し、自分の拳が届く範囲まで歩み寄る。
「それじゃあ2人とも準備はいいかしら? 世界の命運はあなたたちの手にかかってる!! ファングちゃんに当然勝って欲しいけど… お互いに頑張りなさい!! 試合─────」
僕の持つ全てをぶつけるんだ。負けるつもりはない。勝つんだ。
「絶対に───」
「俺が───」
スピーダは手を挙げて、その手を勢いよく下げて言い放つ。
「開始よぉぉぉぉぉぉぉぉんッッ!!!!!」
「「勝つッッッ!!!!!」」
今、最後の戦いが幕を開けた───。
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「イナゴの奴…… 大丈夫かな………っ!」
モグロウは1人病院の個室で寝転がっていた。
今日は稲森とファングの最後の戦いの日。本当ならばその戦いを見届けておきたい。
しかし、こんな身体となってしまっては行こうにも行けない。戦争を止めたのだから後悔はないのだが、親友の決着を見れずにベッドで横になっているのも嫌な気分だ。
「くそっ…」
こんな時にテレビをつけるのはどうかと思ったが、もしかしたら生放送を行っているかも知れないとテレビをつけた。
すると、最初についたチャンネルにはアベンジとファングが激しい戦いを繰り広げているのが映し出されていた。
「イナゴ…!!?」
稲森の戦う姿を観れた事だけで嬉しいのだが、そこに映し出されていたのはアベンジが着々と負けてしまいそうな程、手も足も出せずにやられてしまっている姿。
この戦いは凄まじいスピードで行われ、アベンジもあのキング相手にかなり食いついているようだ。
だが、それもすぐに劣勢になり、結局は手も足も出せないという状況に陥っている。
「そもそもキングの力が卑怯だろッ!! これじゃあイナゴは勝てな──!!」
モグロウはハッとなって口を押さえる。
今、自分はテレビに映る稲森に対して何で言おうとしていたのだろうか。勝てる勝てると元気付けておいた自分が、稲森がキングに負けると言い放とうとしていた。
それでもこの光景を前にしてポジティブな意見が出せるだろうか。いや、普通は出せないはずだ。
稲森は既に負けてしまっている。心は負けていなくとも、リジェクトの装甲は剥がれ落ち、砕け、その隙間から血が滴っている。
「俺は… 何もできないのかよ…!!」
この戦いは稲森とファング以外の参加は不可能。そういう約束をしたからだ。
陽奈や楓、皆がそれに従っているのだから、誰1人として文句など言えるはずがない。
仕方がないと言えば仕方ないで済む。でも、1人ではファングには勝てない。
「すまねぇ… イナゴ」
モグロウはシーツをグッと握りしめて唇を噛んだ。
そんな時、個室のドアが開かれる。
「あ…?」
常識なら部屋に入る時にノックくらいするだろう。
明らかにこの空気は怪しいと感じ、動かない身体に力が入る。
「… お前はッ!!?」
そこにいたのはモグロウが知る意外な人物であった────。
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仮面ライダーキングはまさに王としての名が素晴らしく似合うほど、相応に強大な力を秘めている。
アベンジが使用するリジェクトウェポンは、その能力から無限に強くなれるはずだ。
しかし、稲森という誰よりも心優しい人物が使うと、その力は無限ではなく限りあるとものとなってしまう。
「がはっ…!!」
「やはりそんなものか」
リジェクトウェポンの力はもうキングには通じない。
わかりきっていたのにそれでも立ち向かおうとした。
「リジェクトの力は俺の王の力には最早到底及びはしない。貴様もそれをわかっていたはずだ。どれだけ威勢が良くとも、目の前にある力の差は精神論では追い抜くことなどできん。これで終わりだ。俺の時代が来る」
「そんな事…… させる訳ないでしょう!!!」
「もうやめろ」
キングはアベンジの腹を蹴り、身体をくの字に曲げさせ、更に力強く蹴り抜くと一瞬にしてアベンジはスタジアムの端の壁に激突する。
スタジアムの壁はその衝撃からかミシミシとヒビ割れをしていき、客席にも大きなヒビが入り始めた。
「…ァッ!! ガッ……!!!!」
リジェクトの割れた装甲の隙間から血が滴る。
「貴様の身体は限界に近いようだな」
「僕はまだ…… 負けてないッ!!!」
「認めろ。貴様の目の前にいる奴は何をしている? 吹き飛ばされた貴様の前に堂々と立っている。だが、貴様はどうだイナゴ? 俺に殴られ、蹴られ、投げられ… その過程において貴様は俺に少なからず決定的なダメージを与えたか? 残念だが、俺にその記憶はない」
「僕は… こんな所で…!!」
「くどいぞイナゴッ!!!」
「…ッ!!?」
「…… ただ貴様は確かに諦めてはいないのは事実だ。この戦いは俺の勝ちだが… 負けを認めない奴を倒した所で本当の勝利と言えるだろうか?」
「何を…」
「俺の目的は元から決まっている─── 貴様を殺す」
キングはそういうとアベンジの首を左手で掴み、もう片方の手でポーカドライバーを閉じてまた開く。
右手に自分の持つエネルギーを集中させ、更に左手の握力は増していく。
「最後に言い残すことはあるか?」
アベンジを応援していた周りの人間たちや少数の稲森派の怪人たちは、皆が揃って口を閉じた。
今、平和が終わろうと来ていることがわかったからだ。先の結果が見えてしまったからだ。
「稲森ッ…!!!」
「稲森さんッ!!!」
陽奈と楓が唯一その中でも声掛けをやめようとはしなかった。
だが、その顔は絶望に満ちていた。
「見ろ。奴らの顔を」
「……ぅ」
「貴様に勝手に期待をし、絶望し切った奴らの姿を…… 俺はこの顔が嫌いだ。勝手に期待をし、裏切られたと勘違いするその腐った人間の心。俺はそれが何より腹立たしい…!!! それでも貴様は人間を守ると言いたいか?」
「…… はい!! それでも僕は人間を信じます!! 僕は… 僕は皆んなが笑ってられる世界を取り戻す!!! ファングッ!!! 僕はお前に絶対に負けるつもりはないッ!!!」
「この減らず口が……!!! いいだろう。一瞬で殺してやろう!!!」
そしてキングのエネルギーを纏った拳がアベンジに放たれよあとした瞬間、何者かの叫びにより彼の拳が済んでの所で止まった。
「イナゴォォォォォォォォォッ!!! 負けんなぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
「負けないでバッタのお兄ちゃぁぁぁぁぁんッ!!!」
「君なら勝てるぞ稲森くんッ!!!」
その声はなんとも懐かしい人たちの声である。
「モグロウに… あの時の女の子… それに店長ッ…!!?」
そこには親友のモグロウ。そしてバートンに病院を襲われた際に稲森が助けた少女。稲森の元バイト先の店長の姿があった────。
今回最後に登場したのは、1話で登場稲森のかつてのバイト先の店長さん。2話でバートンに襲われた病院に取り残されてしまった少女です。
そして次回のお話は!! 遂に仮面ライダーアベンジの最強の力が目覚めます!!
次回、第37話「僕はエスポワール」
次回もよろしくお願いします!!
最終回まで残り── 7話