前回、班目の復活と語られた真実に怒りを露わにする稲森たち。皆で班目を倒そうと決めるも、班目はポーカドライバーを使用し、仮面ライダーキング ロイヤルエックスウェポンへと変身を遂げる。全員で一斉にかかるも手も足も出ず敗北してしまい絶望するも、陽奈の喝により彼を止める決意を決めたのだった…
それではどうぞご覧ください。
「─── ふぅ、陽奈さん。そっちの方どうですか?」
「当然終わったわ」
現在、アベンジとエースの2人は班目復活と同時期に街で沸き始めたウィンプジェスターを殲滅した。
また出現する可能性は大だが、それ以上に気がかかりなのは班目がこの3日間目立った動きがないという事。ウィンプジェスター自体は班目の策略の一つであろう。
ただそれが何を意味しているのかは不明である。
「あいつ戦争を再始動させるみたいなこと言ってたけど、あれから3日間ずっとウィンプジェスターと戦いっぱなし」
「それにしても妙ですよね」
「えぇ、私たちを疲れさせる為にやってるんじゃないかと思ったけどそうじゃないみたい」
「班目にはきっと裏があるはずです…… 単純に裏があると言っても、僕たちがどう考えても彼の思考についていく事なんて無理でしょう…」
「そうよね。あいつってホント何考えてるのかわからないわ。正真正銘害悪な奴よ」
2人はため息を吐き、同時に変身を解除しようとした。
すると、アベンジの後ろから飛びかかってきた影が見え、それに気づいたエースは咄嗟にエースガモスボウを構えて撃ち放つ。
影は後方へと吹き飛び、すぐに体勢を立て直してこちらに向く。
「大丈夫、稲森!?」
「あ、はい! まだ生き残りが…!!」
ここにいたウィンプジェスターは殲滅したと思っていたが、どうやらまだ1匹残っていたようだ。
「……… あれ?」
その怪人はウィンプジェスターではなく、姿形が全く違う怪人であった。
アベンジはそれを見て何者なのかよくわからなかったが、エースはそれが誰なのか一瞬でわかったらしい。
しっかりと目を見開いてよく見ると、どことなく仮面ライダーエースの姿に似ており、それでいて首領のように見えた。
「ま、まさか…!!」
「… 何であなたがここにいるの? 首領…… 父さん」
そこに居たのは醜い姿となった首領であり、陽奈の父親である月火の姿があった。
何故、どうして彼がここにいるのかわからない。だが、班目の差し金で来ている事は明らかであり、あちらはアベンジ達に対して敵意を持っている。
「どうしますか…?」
「どうするってやるしかないでしょ。アレは班目の良いように扱われる人形よ。手加減なんていらないわ」
「…… わかりました!」
そして今にも攻撃を行いそうな勢いの首領に、アベンジ達は構えてその攻撃に備える。
しかし、首領は攻撃を仕掛けるどころか唸り声を上げ始める。
「ん? なんか… 苦しそう…?」
それは唸り声ではなく、首領が呻き声をあげているようだ。
首領は更にとても苦しそうに頭を抱え始め、呻き声もより一層大きなものへと変わっていく。「うぅぅぅ…」という苦しそうな声は首領なのか月火なのかはわからないが、どちらにせよ聞いていて良いものではない。
「陽奈さん、僕ちょっと行ってきます」
「はぁ!? 何言ってるのよ!」
「何故かわからないんですけど… 今の彼からは敵意が見られないというか…」
「だからって行く意味ないでしょ! 不用意に近づいて不意打ちやられたらどうするつもり!?」
「大丈夫です。信じてください」
そういうアベンジはゆっくり首領へと近づき、その手前で跪く。
「あの大丈夫ですか?」
この行動は見ての通り全く無謀であり、側から見れば訳の分からない行動である。
だが、アベンジは何故かわからないが、首領か月火であろう怪人は敵意を見せず、まるで自分の中の何かと戦って苦しんでいるかのように思えたのだ。
自分の中の敵、それは首領からした月火であるのか。それとも月火からした首領なのか。どちらにせよ2人は死んでいる。ただし可能性がないわけではない。
「─── 月火さん」
そうアベンジがフッと名前を出すと、怪人は目を血走らせ、頭を抱えながら天を見上げて咆哮した。
その声は首領ともう1人別の声が混ざり合った声で、咆哮し終えた怪人はだらんと両腕を垂れ下げ、先程の状態が嘘のように静かになった。
「…… 稲森。あなたからどういう事よ…」
「僕にも本当にわからないんです。けど… モグロウが言ってたのが正しいのなら、今ここでその名前を出せば反応してくれるんじゃないかって思ったんです」
アベンジの言う通り反応はしたようだが、その後全くピクリとも動きを見せない。
「ちょっとフリーズしちゃってるんだけど。どうにかしなさいよ」
「それは僕に言われても分からないです…」
「叩けば治るんじゃないの?」
「テレビじゃないんですから」
そしてアベンジが動かない首領に触れようとすると、突然それは動き出し、アベンジの首の後ろに手を回し、顔を自分の方へと近づかせる。
「ぐっ…!!?」
「稲森ッ!!!」
それから最初は抵抗を見せたアベンジだが、急に動きをピタリと止めたかと思うと、首領は彼を離して高く跳びながら何処かへと去っていった。
一瞬の出来事でわからなかったエースはすぐにアベンジの元へ行き、何があったのかと問いかけた。
「稲森どうしたの!?」
「………」
「稲森…?」
「───…… あ、はい!!」
「あなたも何フリーズしてるのよ。あいつに何されたの?」
「いや… 別に何も……」
「ん…? 何か隠してるでしょ?」
「いえいえ、耳元で訳のわからない事を言われただけです」
「訳のわからない事?」
「僕にもさっぱり。特に深い意味はないと思いますよ」
「… あっそ。それじゃあ楓たちの方に連絡してみるから、あなたは周囲の確認よろしくね」
「わかりました」
本当は何もない訳なかった。陽奈には言えなかったのだ。
だからアベンジはエースを呼び止め実行に移す。
「陽奈さんすみません。僕、今から別行動します───」
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「話しがある。栄須市の君が初めてベルトを手にしたあの場所に来てくれ」と、首領に言われて懐かしいあの場所へと足を踏み入れた。
ここで初めてアベンジドライバーを手にし、自分の人生で仮面ライダーとして戦う事になるなんて夢にも思わなかった。
だけどこうして様々な困難や苦難の壁を乗り越え、自分は強くなり、仲間も増え、世界を平和にしたのだ。
そう思ってはいたいが、それも全て班目が仕掛けたもので、彼の予想を超えるような動きをしたけれど、最終的に彼の思い通りの道を歩かされているのかもしれない。
「……… はぁ」
稲森はそんな事を思いながら工場内を見渡していると、背後から何者かがこちらに近づいてきているのがわかり構えた。
「誰ですか」
「ここに君を呼んだのは俺だけだ。他に誰もいない」
「…… あなたは首領… じゃないですよね?」
「わかってくれて助かる」
「もしかしてあなたは───」
「あぁ、そうだ。俺は羽畑月火。陽奈の父親だ」
最初はこの言葉を疑った。目の前にいるのは首領だ。彼も生前言っていたが、月火自体は完全に死んでしまっており、今あるのは月火という肉体だけがあるのだと。
だから今、稲森の目の前に立っているのは首領である可能性が高い。
「信じてもらえないか…… 当然と言えば当然か。こう言っても信じてもらえないか? 俺は班目の命令で来たわけでもなければ、君の腹の内を見ようというわけでもない。ただ俺は君と話しがしたいというだけだ」
「………」
「そうだな… 例えば、陽奈が昔くしゃみをして鼻の両穴から出た鼻水が床まで垂れ下がった奇跡の話しをしようか」
「… へ?」
「あれは凄かったぞ。俺の飲んでいたコーヒーの匂いを嗅いだ瞬間だったかな? どれほど奥に溜まっていたんだと大笑いした記憶がある」
「…… くふっ」
「あの時、コーヒーにかかるのを未然に塞いだ俺も流石仮面ライダーと思ったが、陽奈が笑った拍子に私にベッタリと付いてしまった時は…… 思わず目から涙がほろりと落ちた」
「な、なんなんですかその話し!!」
「… 笑ったね」
「え?」
「君のその顔が見たかった。俺も君のような笑顔を守る為に戦ってきたつもりだが… 結果は首領に身体を使われ、陽奈を傷つけ人を傷つけ… 怪人を傷つけた」
稲森は確信した。この人は首領ではなく、正真正銘の月火なのだと。
月火の表情は笑ってはいるものの、とても悲しい気持ちが深く伝わってくる。
「月火さん… なんですね」
「信じてくれるか?」
「えぇ… なら、何故僕をこんな所に?」
「君をここに呼んだのは、俺に聞きたい事があると思ったからだが?」
「あ… じゃあ、あの時モグロウを呼んだ人ってやっぱり…」
「俺だ。君がこの世界の命運をかけて戦っていた事は知っていた」
「えぇ!? それってどういう事なんですか!? つまり月火さんは…… 何がどういう…?」
「俺は一度死んだ筈だった。だが、俺はもう首領の中で生きていたんだ。とはいえ、やはり首領の方が完全体として外に押し出され、俺はただ中から嘆くしかなかった。そんな時、君が首領を倒してくれたおかげで、俺は自分を出す事が可能になったんだ…… 中途半端にな」
「中途半端だから度々あの様な事になったんですか?」
「…… あぁ、自分の意思とは関係なく、身体が勝手に奴らの命令で動いた。嫌な話しだがな…… しかし、日に日に俺が全面的に前に出れる様になったのはつい最近の事だった。それはそのエスポワールの力でもあるだろうな」
「エスポワールが?」
「これはただの憶測に過ぎないが、エスポワールの力は俺に少なからず影響を及ぼしたと言っても過言じゃない。現に俺はあのスタジアムに居合わせて、その光を浴びてこうして俺が俺でいれるようになったんだからな」
「…… そうですか。それは本当に良かったです!!」
「ただ、この身体もそう長くは持たない」
「え…?」
「こればかりの身体だ。当然の話しだろう。だからせめて、俺がしてきた事を限りある時間の中で償いたい。俺も…… 誰かの笑顔がなくなるのは嫌なんだ」
「月火さん…… はい。僕も皆んなの笑顔がなくなる世界なんて嫌です」
「仮面ライダーアベンジ、稲森。この世界を… 陽奈を任せたぞ」
「月火さんはどうするんですか?」
「俺はこのまま裏から班目を止める手立てを考える。と、言ってもこの戦いの勝敗を担うのはそのエスポワールだ。絶対に諦めるな。エスポワールは… 希望は君が諦めない限り必ず見える。陽奈や楓、モグロウと共に最後まで希望を捨てないでくれ」
「…… はい!!!」
「それじゃあ任せた。仮面ライダー!!」
そう言って月火は驚異的なジャンプをして何処かへと去っていく。
今の話しを聞いた稲森は、この件を陽奈に言わないようにすると決めた。これと言った理由はない。だけど言ってはいけない気がしたのだ。
「諦めない限り希望はある… か。ははっ、本当に親子ですね…… よし!!」
それから稲森はその場所を後にしようと外へと出ると、凄まじい爆音が辺りに響き渡った。
地面が揺れて思わず尻餅をつくと、そこへ稲森の携帯が鳴り始める。
「は、はい!! 稲森です!!」
「--- 稲森!!? あなた今どこにいるの!!?」
その声の主は陽奈であったが、明らかに様子がおかしい。
先程の爆発音もこの揺れも尋常ではない事態が予測される。きっとその事についてだ。
「今、工場地帯にいまして…」
「--- なんでそんな所? まぁいいわ!! とにかく早く栄須市の中央広場に来て!! 急ぎで!!!」
「あ、はい!! わかりました!!」
陽奈のこの焦り方からして何やら本当に緊急事態のようだ。
稲森はマシンアベンジャーを呼び出し、すぐさま中央広場へとバイクを走らせる───。
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栄須市の中央広場へと着いた稲森はバイクから降りて広場へと向かう。
そこにはたくさんの人混みがあり、それをかき分け前へと行くと陽奈、モグロウ、楓が既についており、何があったかと陽奈に問うと目の前のモニターに指を刺す。
「あれを見て」
「えっ…… あれはっ…!!」
そこに映っていたのは班目であった。見た目はファングの人間態なので班目ではないのだが、稲森達からすればそれは憎んでも憎みきれない班目そのもので映っている。
そして班目はマイクのテストと場の空気に似合わない事を言い出し軽く声を通すとニヤリとしながら話し始めた。
「--- 皆さんどうもおはようございます。ウィンプジェスターの方いかがでしたでしょう? 怒りましたか? それとも怖かったですか? どちらでも構いませんが、とりあえず良い気分とはいかなかったでしょう。あれは深い意味なんてありません」
「班目…!!」
「--- これをきっと仮面ライダーの方々は観てくれていると思いますが、観ている程で話しを進めます……… 私はこの世界を壊したい。ただ壊したいのではなく、あなた方人間と怪人が争って自分たちで互いの文明を滅ぼす。そんな未来を待ってました…… が、それも仮面ライダー達のおかげで水の泡となってしまいました。私からすれば自分の研究が返ってきているだけなので嬉しいと言えば嬉しかあるのですが…」
「なんなのよ… さっきから何が言いたいの?」
「--- そうですね。もうまどろっこしい事は抜きに致しましょう──」
班目は更に口角を釣り上げた。
「─── 私は1人とあなた方世界と戦い、全てを滅ぼします」
班目ついに世界破壊宣言。ついに頭イかれてしまったようです。
元々でしたね!
次回、第41話「本当のビギニング」
次回もよろしくお願いします!!
最終回まで残り── 3話