勝利宣言と共に勢いよく悪魔との通話をブチ切り、一旦家の中へと帰還して。
二階にいるインのもとへ向かい、彼女に諸々の事情を説明すると、インは焦って俺を押し倒してきた。
『まさかいま催眠を掛けようとしてるんじゃ』なんて言っていたし、相当焦っていたのだろう。
もし式上先輩の催眠術を使って今すぐにクリアできるのだとしても、インは『今はクリアしない』と言って譲らなかった。
どうやら俺の親友は、クリア条件であるバレンタインデーまで俺をサポートし続けるつもりらしい。
そんな彼女の好意を笑顔で受け取りつつ、俺たちは一階の居間へと向かった。
そこにいる式上先輩に聞かなきゃいけないことが山積みだからだ。
リビングへ到着すると、先輩はムチ子と並んでソファに座ってお茶を飲んでいた。二人ともマスコットみたいでかわいい。
とりあえず俺たちもお茶を貰いつつ、事の顛末を全て先輩に話した。
そして期待を胸に待っていた式上先輩からの第一声は──
「……ごめん、無理」
──まるで予想していなかった返答であった。
簡潔にまとめると、式上先輩の催眠術は『相手から見た対象が式上先輩本人である場合にのみ発動する催眠』という限定的なものだった。
つまり合法ロリ先輩が俺にオナホだと認識させることが出来る人間は、彼女本人しかいないという事だったのだ。
催眠の基本である『相手を眠らせること』以外の彼女の催眠は、使う状況が限られているものばかり。
俺が期待していた、インと性行為そのものをせずに俺とセックスしたと思い込ませるような催眠、なんてのは夢のまた夢で。
それどころか俺にインをオナホだと思い込ませることすらできない事実が発覚し、俺とインは押し黙ってしまった。
「ふっ、二人ともごめんね!」
「……いえ、先輩が謝るようなことじゃ……うぐぐ」
しかし、やはり悔しい。あれだけ悪魔に啖呵を切ってクリアすると嘯いておきながら、状況は手詰まりだ。
これは……そうだな。都合よく式上先輩にだけ頼ろうとした俺への罰だ。
彼女はここまで発明ガジェットやら催眠やらで、何度も何度も俺たちを救ってくれた。
見返りを求めることなくずっと真摯に俺たちを助け続けてきてくれた先輩に、最後の最後まで頼り切りではいけないんだ。
あくまで先輩がしてくれるのはサポート。
そこから先は──俺自身が道を切り拓くべきだ。
「式上先輩、頼みがあります」
「え? ……んんっ。──うん、聞こう」
咳払いを一つ。先輩は真剣な表情に切り替わる。
「俺に……催眠術を教えてくださいっ!」
★
話によると、式上先輩の催眠術はほぼ独学とのことだった。
この世界では激やばな催眠術こそ横行しているものの、催眠術師たちがそれぞれ手の内を明かそうとしないため、技術の共有はほとんどされていないらしい。
必要以上に利益を求めず、自らの性の欲望の為だけに術を使う──それが催眠術師だと先輩は語る。
先輩にも一応催眠術の師に当たる人物がいたらしく、その人物が残したノートと過去の催眠術の文献を合わせて研究した結果生み出したのが、先輩の五円玉を使った『
他の催眠術に比べて即効性が高く、また効果も術者が操作しない限り解除されない優れもの。
そんな桃彩式催眠術を習得してゲームをクリアするため、彼女に弟子入りを志願したあの日から、俺の壮絶な修行の日々が幕を開けたのであった。
目指す催眠術は『行為をせずにインに俺とセックスしたと思い込ませる』というものだ。
桃彩式催眠術は相手から見た場合の対象が自分である必要があるため、俺がインに催眠を掛けなければいけない。
故に先輩と催眠術のグレードアップを研究しつつ、俺自身も催眠術を覚える必要があるため、催眠術習得の修行に日々明け暮れるのであった。
「ゆーらゆーら」
「うっぐ……ぐぬぬぬ……っ」
「今日からボクは君のママだよ~。ほら甘えておいで~」
「うううぅぅぅぅっぐぉぉぉぉ……っ!」
まずは催眠に耐える特訓から。
催眠は五円玉に自分の意思を乗せ続けなければならないため、相手に見せる五円玉からも目を離してはいけない。
そのため基本としてはまず自分の催眠に掛からないようにしなければいけないのだ。
時刻は夕方。場所は学園内にあるNTRの基地だ。
弟子入りしてから一週間が経過しているため今は夏休み中だが、式上先輩が所属している科学部の顧問を通じて校内使用の許可を貰い。
今はまだ催眠術そのものが使えないため、式上先輩の威力が低めな催眠術で耐性を付ける特訓をしている最中である
「赤ちゃんに戻っていいんだよ~。ボクのおっぱいちゅーちゅーしようね~」
「こっ、このママガキ……ッ! 俺はそんな安い催眠には負けママァ~♪」
「わわっ!」
あれ?
「おっぱい吸われるぅ~! ムチ子くんヘルプ!」
「はいはい──っと」
「ブベッ!」
情けないことに式上先輩の催眠に掛かってしまった俺を、人間の姿に変装してるムチ子がビンタをすることで正気に戻す。
これを何度か繰り返しているのだが、如何せんムチ子のビンタの威力が強すぎて、催眠に耐える以前に意識が朦朧としてきた。
赤髪の少女の姿になったはいいものの、力は相変わらずの魔物級だ。アゴ外れちゃう……。
「む、ムチ子ぉ……もうちょい手加減できねぇ……?」
「手加減したら催眠が解けないじゃない。殴られたくなかったら、頑張って催眠に耐えなさいよ。私だって殴りたくないし」
スパルタだよぅ……つらいよぅ……。
「コウ、大丈夫?」
「あっ……イン」
頬の痛みでフラフラしていると、黒髪ポニーテールの無表情っ娘が、タオルとスポーツドリンクを手渡してくれた。
タオルはお湯に浸してから絞ったのか、顔を拭くとじんわりとした温かさを感じられて、心地よい安心感を覚えた。
あれから感情が落ち着いたインはまた人形のごとく表情がなくなってしまったのだが、以前にも増して調子が良くなったように思える。
具体的に言うと身振り手振りなどのボディランゲージが積極的になった。
これからはちゃんと感情を読み取ってもらえるように努力する……とのことらしい。
無表情のまま必死に体を動かす姿を見ていると、なんだか此方まで元気になってくる。
「ありがとな、イン」
「ううん、私にできることがあったら何でも言って」
心強い味方だ。今も俺が頑張れているのは、ひとえにインの存在があってこそだろうと実感する。
特訓中は先輩もムチ子も厳しめだからか、優しく介抱してくれるインの優しさが体全体に染み渡るぜ。
「今なんでもするって言った?」
「そこまでは言ってない」
言ってなかったかぁ。
「……後輩君の集中力が落ちてきてるね。今日はここまでにしとこうか」
目に見えて疲弊している俺の様子を見かねた式上先輩の一言で、とりあえず今日の催眠術の特訓は終了した。
弟子入りしてから一週間が経過しているが、今のところはまだ成果が見られない。
まぁバレンタインデーまではまだ半年以上あるし、焦りは禁物だ。努力こそすれ、無茶はしない。
家に引きこもってたら頼んでもないおっぱいデリバリーが来たり、コンビニで飯を買ったら『お弁当のついでにおちんちんも温めますか?』とか聞かれるこの抜きゲーみたいな世界では、体力や体調を一定以上保っていないと危険なのだ。ここでの基本戦略は逃走だから。
「さて、このあとはアレだね」
基地の中で帰り支度を始めている途中で先輩がそんなこと言い、俺の肩がビクンと跳ねた。
動揺を隠すように唾を飲み込む俺とは正反対に、ムチ子とインは当たり前のように先輩の言葉に頷く。
アレ……アレかぁ。今日もやるのか……。
心の中で嘆息を吐きつつ、俺は先行する女子三人にしぶしぶ付いていくのだった。
★
時刻は夜。場所は俺の家で俺の部屋。
四人で過ごすには聊か狭い部屋のベッドの上で、俺は三人の人間に囲まれていた。
右腕を抱いているのはイン。左肩に纏わりついているのはムチ子。
そして胡坐をかいている俺の膝の上には、この中で一番体重が軽くて体の小さい式上先輩が乗っていた。
まさに四面楚歌。後ろは壁で、左右と前をNLSのメンバーに塞がれた俺は、まるで身動きが取れなくなっていた。
「……ぁ、あの、みんな……」
耐えきれずに俺が弱々しい声を漏らすと、正面に跨って先輩が首を傾げた。
「何だい?」
「ほ、本当にこれ、やる意味あるんです……?」
この
「コウが勝利宣言をしたせいで、それをよく思わない悪魔たちが力ずくでこの世界に干渉してきた」
「うぐっ」
「えっちなイベントは前より多くなったし、それらは逃げればいいけど、前よりも強力な淫夢を見せてくるようになったサキュバスたちに対しては、コウが夢の中で抗って自ら覚醒して起きるしか手立てがない」
そうなのだ。俺が調子に乗って悪魔にデカい口を聞いた影響で、思い通りに事が進まないことに憤慨した悪魔たちが余計な茶々を入れ始めてきやがったのだ。
以前俺にハツジョーくんを送った要領で、やつらはこの世界の住人──特にサキュバスに対してパワーアップするようなアイテムを渡した。
そして強くなったサキュバスたちはムチ子が弱っていることを知るや否や、この街を拠点にしようと次々と流れ込んできたのだ。
力が増したサキュバスの淫夢はあまりにも絶大な魔力が込められており、それを見せられている間は外から肉体に何をされても起きることが出来ない。
奴らの夢ワールドから脱して現実へと帰還するためには、サキュバスたちが仕掛けてくる誘惑に俺自身が打ち勝たなくてはいけない。
しかし夢の世界はある程度サキュバスが自由に弄れて、おまけに夢を見せられている状態の俺は脳を直接魔力で攻撃されているため、普段の状態よりも意志と心が弱っているときた。
というわけで、俺に目の前の性欲に対しての耐性を付ける、ないし耐性を必要以上に強くするために、NTRの三人はとんでもない作戦を立案した。
……女子三人で俺を誘惑し、数時間の間それを耐久させる、という作戦を。
「後輩君。これはどうしても必要な処置なんだよ。女の子にすり寄られて体を擦りつけられる誘惑に耐えられるようになれば、君はきっと淫魔に打ち勝つことが出来る。
逆に言えば……これに耐えられるようにならないと君は夢の中で誘惑に負けて死んでしまう」
いや、分かってはいるんですけどもね。
なんというか、抜きゲーみたいな世界に抗うためとはいえ、逆にエロゲみたいなシチュになってるのは本末転倒な気がしてならないというか、あの、その……。
「今はムチ子くんの呪いも付与されてて性欲MAXだろう? いまの性欲マシマシ状態で誘惑に耐えられるようになれば、呪いがなくなった後のキミは無敵だよ」
そうか……? そうかなぁ……。
「コウ、がんばって。コウならできるって……信じてる……ふふっ」
ちょっと笑ってんじゃねーかテメェ!? 面白半分で参加してるだろインお前オイッ!!
「アンタはいいから大人しくしてなさいってば……」
「おい耳元で囁かないで」
お前にいたっては本物のサキュバスなんだからもう少し手加減して……。
「いいこと? アンタはこれから二時間、絶対に動いちゃダメ。動いていいのは……誘惑に負けてアタシたちの身体を触るときだけよ」
「と、トイレとか……!」
「さっき済ませてきたでしょ。緊急用に尿瓶とティッシュも用意したから心配しないで」
尿瓶とか勘弁してくれ。介護じゃないんだぞ。
「うっさいわね、介護みたいなものでしょ。……ほらロリっ子、さっさと始めちゃって」
「ロリじゃないですけど! ……コホン」
「あ、あの、先輩やっぱり考え直しませんか」
「だーめ。じゃあ後輩君──始めるよ」
その一言が開始の合図となり。
右のインと左のムチ子が俺の頬にそっとキスをして、二時間の性欲我慢耐久特訓が開始された。
彼女らの体から香る甘い匂いが鼻孔を通って脳を刺激し、更にマシュマロのように柔らかく反発する寝間着越しの乳房を腕に押し付けられ、心臓は俺の下半身へ次々と血液を充填させていく。
我慢は強いられているが、興奮は制限されていない。
インに耳を甘噛みされ、魔力を操作して少し大きくした胸の果実をムチ子に押し付けられ、正面から式上先輩に顔を近づけられる。
先輩はキスはしない。誘惑を我慢させる、という目標の通り、彼女は唇が接触する直前で止まってしまう。
誘惑に負けてキスをしたらゲームオーバーということなのだろう。
どいつもこいつも体のあちこちを触ったり、唇以外にキスをしたり舐めたり甘噛みしたりするのに、確実に俺の性器だけには触れないことで、完璧な生殺しの状況が成立してしまっている。
太ももの内側やへその下を撫でられるが、それは快感に直結せず、脳内の悪魔が俺に『触れ』『襲え』『我慢をやめろ』と甘美な言葉をささやいてくる。
ギリギリR18なことはしてこないこの状況を、あと二時間。
もしかしたら俺は死ぬかもしれない。
「ねぇ、コウ」
ふと、隣に座っているインが声をかけてくる。
歯を食いしばって我慢をしている俺は返事を返せないが、構わず彼女は言葉をつづけた。
「これが終わったら……ちゃんと自分で性欲処理してね」
耳元で囁く透き通るような声に肩をビクつかせるが、少女はそれを見ても止めようとはしない。
「溜めすぎたらダメ。それだと夢の中で暴走しちゃうから、我慢できたらご褒美があるって考えて」
ご褒美とは。今まさに地獄を体験しているのだが、これが終わったら何が与えられるというのか。
「私たちがコウのオカズになってあげる。命令してくれたら、目の前でスカートをたくし上げてパンツを見せるし、えっちな衣装だって着るし、おっぱいや太もも、お尻だって好きに触っていい」
え、いいの?
──いや待てッ!!
インのこれは耐久作戦中の囁き攻撃だ! 本気にしちゃダメだ! 俺は負けねぇぞッ!!
……あれ。でも今のって、耐久作戦が終わった後の話だよな? てことはご褒美は本気にしていいのか?
わ、分かんなくなってきた。
これが先輩の立案した性欲耐久作戦の威力だっていうのか……!?
強敵だ、ここまで判断能力が揺さぶられるなんてッ!
うおおおぉぉわああぁぁぁっ!! 負けねぇええぇぇぇっ!!
「セックスはダメだけど、それ以外のことなら三人で何でもしてあげる。コウが頑張れるように、私たちが性欲処理係になってあげる」
やめろーっ!! ヤメロォォーッ!!!
「……だから、私たち以外で射精をしちゃダメだよ」
囁くなぁぁぁ゛ぁぁァァ゛ァァッ゛ッ!!!!
「我慢できたら、私たちが気持ちよくしてあげるから──
──だからがんばってね、親友」
コウ:は? そんな甘い言葉には騙されないんだが? という気持ち
イン:ストレスを溜めさせたくないのでわりと本気で言ってる
ムチ子との約束や協力することになった理由は次回ですわよ