夏場は本当にいろいろな事があった。
悪魔たちが介入してきた影響もあるのだろうが、いつにも増して頭の悪いエロイベントが多かった気がする。
捕まったら即レイプの『リアル
季節は移り変わって冬。
光陰矢の如しとはよく言ったもので、忙しい毎日を送っていたらいつの間にかクリスマスイブになっていた。
この世界での生活にも慣れてきた頃だが、それはそれとして油断はできない。
今日も今日とて、スケベな刺客から逃走中だ。
「ムチ子! 先輩を頼む!」
「はいはい!」
昼の住宅街を駆け抜けながら、抱っこしていた式上先輩を、サキュバスの翼で空を滑空しているムチ子にパスした。
「うわわぁっ!」
「──っと。ロリっ子は軽くて助かるわね」
「ロリじゃないってば! ていうかこのラグビーの球みたいな扱いなんなんだよぅ!」
確かにボールみたいな扱いをしちゃってる気はするけど、俺たちを追ってきてるのがパンツ一丁のロリコン種付けおじさんなので仕方がない。
本人曰く式上先輩は立派なレディとのことだが、見た目は完全にロリなのだ。優先的に守らなければ。
「ボール扱いされながら過ごすクリスマスイブは初めてだ……」
「いちいちうっさいわね、アレ見てみなさいよ」
ムチ子に言われて振り返る先輩。
そこには脂ぎった汗だくのおデブなおじさんが五人ほど、下着一枚の姿で鼻息荒く俺たちを追う姿があった。
「締りよさそうなぷにあな孕ませるぅぅぅっ!!」
「その淫乱ピンク髪のロリをおいていけええぇぇぇっ!!」
「桃彩ちゃんお嫁さんに欲しいっ♡ いつでも精子コキ捨てられるお手軽オナホ生意気淫乱天才合法ロリ渡してくださいっ♡♡ 一生大事にするね? 孕めッ!!」
かなり恐怖を感じた。
先輩もめちゃくちゃ顔が引きつっておられる。
「おとなしくボールになってます……」
「んっ、よろしい。──イン! 今よ!」
ムチ子の合図と共に、先行して先の曲がり角に身を潜めていたインが、此方に向けて煙幕玉とフラッシュバンを投げた。
俺とムチ子と先輩がゴーグルとマスクを装着すると同時に煙と閃光が炸裂し、種付けおじさんたちは悲鳴を挙げて狼狽える。
どうやら完全に足が止まったようだ。
奴らは野外セックスしかないというポリシーがあるため家の中までは追って来れないし、このまま俺の自宅へ逃げ込めば勝ちである。
「みんな、こっち」
住宅街を直進していくと、大量の買い物袋を抱えたインが俺の自宅の玄関前で待機している姿が見えた。
先輩を抱えたムチ子と俺がそのままなだれ込むように家へ突っ込み、追手がいないことを確認したインが玄関のドアを施錠したことで逃走は終了。
本日もNTR全員で、安全に帰宅することが叶ったのだった。
★
俺たちがわざわざ外出したのには、当然理由がある。
家に突入する前にインが大量の買い物袋を抱えていたことからも分かる通り、俺たちは買い出しに出ていたのだ。
俺とインがこの世界で過ごす最初で最後のクリスマスなのだから、普段の健闘を称えることも兼ねてクリスマスパーティをしよう、といった式上先輩の提案からこうなった。
当たり前だが外出をすれば刺客と出くわす機会も増える──けど、俺個人としてもせっかくのクリスマスはNTRのみんなで過ごしたいと思っていたので、種付けおじさんたちのような敵から逃げることも想定して買い出しの提案に乗ったのだ。
逃走に慣れた今ならきっと大丈夫、しかし油断せずに買い物をしよう、という気持ちで臨んで……まぁおじさんたちには見つかってしまったが、こうして無事に買い物を済ませることが出来たので結果オーライだ。
「イン、アンタ……ろーすとちきん? なんて作れるの……?」
「うん。そこまで難しくないからムチ子も手伝って」
現在は夕方。
リビングでは料理上手なインがムチ子にいろいろ教えつつ、夜に食べる用のチキンなどの下準備をしている。
ケーキ以外は全部手作りにするらしい。インは料理上手というより、単に料理をするのが好きなのだろう。
男の時もよく手料理を振舞ってくれてたっけな。
「後輩くーん。その部品とって」
「あ、はい」
ちなみに俺はテーブルで逃走用ガジェットの調整をしている先輩の手伝いをしている。
……といっても技術面はさっぱりで、使ってみた感想や部品の手渡しくらいしかできていないが。
若干の手持無沙汰で落ち着かない。
先輩は眼鏡をかけてドライバーやらなにやらでカチャカチャ弄り回しているが、これは何をやっているのだろうか。
「先輩、それって……確か囮用のラジコンですよね。改造ですか?」
「まあね。最近は発情状態でも囮のホログラムに引っかからない子たちが増えてるから、いっそのこと武器として使おうかなって思って」
武器……? ラジコンがどうやったら武器になるんだ?
「爆薬を詰めて吶喊させるとか」
「死人が出ますよっ!?」
「あはは、冗談冗談。拘束用のネットを射出させたりとか、イン君が常備してるスモーク弾やスタングレネードなんかを数発搭載させようかなって。きっと凄いのが出来上がるぞ~……フフッ」
怪しく笑いながらラジコンに手を加えるその姿は、なんともマッドサイエンティスト染みていて、式上先輩本来の姿が垣間見えたような気がした。
今更になって実感したけど、合法ロリで発明の天才で催眠術も使えるとか、うちのロリっ子はちょっと属性過多というか個性が強すぎる気がするな。
「ロリじゃないよ?」
さらっと心を読まないで……。
「そういう顔してたし」
「どういう顔?」
「伊達に君より生きてないぞ。ボクはこの人生の中で『あっ、ロリだ』って考えてる人の顔が分かるようになったんだ」
「さすが合法ロリ先輩ですね」
「合法って付ければ許されるわけじゃないからね!?」
後輩君のバカ。
そういって式上先輩は顔を逸らしてしまった。
どうやら過度なロリ弄りで彼女を怒らせてしまったらしい。ぷんすかしている。ほっぺが膨らんでてかわいいね。
「こら! だからその子供を眺めるような生温かい眼差しをやめたまえよ! ボク先輩だぞ!?」
「すみません先輩。怒らせるつもりは……フッ」
「笑うなぁーっ!」
しょうがないでしょ。こんなかわいい怒り方する年上なんて他に知らないし。
「ばぁか……」
あまりにも意地悪な俺に愛想を尽かした先輩は今度こそ視線を外し、ガジェット調整に意識を切り替えてしまった。
流石にやりすぎたかな。後が怖いし今のうちに謝っておいた方がよさそうだ。
「ごめんなさい、式上先輩。怒らせるつもりはなかったんです」
「……つーん」
口でツーンっていう人初めて見た。
この人本当に年上か……?
「本当にすいません、許してください。何でもします」
「……ほんと?」
失言だったかもしれない。
まぁ、でも先輩が機嫌を直してくれるならある程度のことはやって然るべきだろう。
いつもお礼をしてもし足りないくらい世話になっているのだ。この機会にワガママを言ってもらう方がこちらとしてもありがたい。
「……じゃあ、質問に答えて」
「なんなりと」
「ボクってそんなに子供にみえる?」
「っ……」
いきなり答えづらい質問ぶち込んできたな。思わず黙ってしまった。
しかしここはしっかりと答えねばなるまい。
俺は断じて先輩をロリだと馬鹿にしているわけではないということを、この場で証明しなければ。
「……確かに先輩は体こそ小さいかもしれませんけど、この場にいる誰よりも大人な人間です。年齢とかの話じゃなくて」
「ふーん……?」
「困ってる俺とインに手を差し伸べてくれたし、見返りを求めず俺たちに協力してくれているあなたは、もはや聖女か何かの類だ」
後輩君って褒め方が下手だね──と言われてしまった。
うるさいです。これでも頑張って褒めてるんだからちゃんと聞いてください。
「先輩が子供なワケないじゃないですか。俺たちが一番頼りにしている大人こそが、式上先輩なんです……!」
正座をしながら真摯な眼差しでそう告げた。
今述べたすべての言葉に嘘偽りは存在しない。
これは紛れもなく俺の本心であり、彼女に伝えるべき感謝の意でもあるのだ。
とどけ、俺の想い──っ!
「…………うん、ありがと」
あ、あれ。
反応が薄い……。
「せ、先輩は大人ですよ? 本当ですよ?」
「そんな必死にならなくてもいいよ。……別に、もう怒ってないから」
そう言いながら、先輩は仕方なさそうな柔らかい笑みを浮かべた。
よ、よかった。俺の想いはちゃんと届いてくれたようだ。
「ふふっ。まぁ、きみを
「はぁ……」
ん? 大人にした……とは?
「きみってえっちすると爆発して時間が巻き戻るだろう。そうなるとキミと本当にえっちした経験がある人間って──ボクだけでしょ」
「なっ!?」
なんてこと言いだすんだこの人は。
あれは事故だし、そもそもお互い忘れたいはずの忌まわしき過去の記憶のはず。
掘り返さないでくれ……! 俺は体の小さい女の子をオナホ扱いして犯したことなんて……!
「えへへ、ボクと一緒に大人の階段上っちゃったねぇ、後輩君?」
「ち、違う、ちがうぅ……! 俺はまだ童貞を捨ててはいないんだぁ!」
「往生際が悪いなぁ後輩君。きみはボクのこと振り回して四回も
「ぐああああぁぁぁっ! やめろおおおおぉぉぉぉッ!!」
なんだ! 何だこれ!?
ロリってからかいすぎた俺が悪いのか!?
これが式上先輩なりの報復なのかァ! こんなエグい精神攻撃をしてきやがるのかこの人はぁぁ!
「──式上先輩。あんまりコウのこといじってないで、そろそろ手伝って」
「ロリっ子ーっ! フライパンが燃えてるんだけどぉーっ!? 助けてぇぇ!!」
そんな折、俺に助け舟を出したのはインとムチ子。……いや、ムチ子はアレ勝手に事故ってるだけだな。
「はいはい、調整も終わったし今いくよー」
肩をすくめた式上先輩はガジェットをトランクケースにしまい込み、座椅子から立ち上がった。
よかった、助かった。あんまりにも強すぎる精神攻撃で死ぬかと思った。
──と、そんな風にホッと胸を撫で下ろしていると。
式上先輩はリビングへ赴く前に、俺の耳元へ顔を近づけた。
「せっ、先輩……?」
先輩は、なぜか怪しく笑っていて。
「──今夜は三人で、サンタのコスプレをしてキミの部屋にお邪魔するね」
「……ふぇ」
とんでもない爆弾発言に脳天をぶった叩かれて放心する俺をよそに、小悪魔先輩はフフっと笑ってリビングへと向かっていったのだった。
……なんというか。
ほんとうに、読めない人だ。