セッ〇スしたら爆発して死ぬ呪い   作:バリ茶

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完結までもう少しあります


無力な主人公

 

 何十時間も逃げ続けて、身体中の筋肉が悲鳴を挙げている中、やっとの思いで俺たちが逃げ込んだのは廃ビルの屋上だった。

 息も絶え絶えに鉄柵へ背を預けて座り込み、腕時計に目を通してようやく今の状況が把握できた。

 

 残り五分。

 ゲームクリアまで五分。

 俺がこの世界を退去するまで──あと五分。 

 

「式上先輩、包帯を巻くね」

「ありがとイン君……」

 

 隣では汗だくのインが式上先輩を解放しており、長時間の飛行と索敵で疲弊したムチ子も今は俺の隣に座って息を整えていた。

 俺たちは実質二日間、四十時間以上の間この街を駆けずり回って逃げている。

 途中途中でなんとか水だけは確保して水分補給はしていたものの、ほぼ飲まず食わずで逃走を続けていたせいか、もうNTRの面々は疲労困憊で限界寸前だ。

 

「コウ。クリアまであとどれくらい?」

「……あと五分だ」

 

 式上先輩の足に包帯を巻き終わったインにそう答えると、彼女も疲れたようにため息を吐きながら鉄作に体重を預けて座り込んだ。

 

「なら、ここにいればあとは大丈夫そう……かな」

「……っ」

 

 インの言葉に俺は頷けない。

 口が裂けても『だいじょうぶ』なんて言葉は口にできなかった。

 確かに追手の影は見えないし、あと五分で俺たちはこの世界から解放されるが、やはりそれは俺とインにしか当てはまらない話であって。

 

 ムチ子と式上先輩は、俺たちがいなくなった後もこの世界で、賞金を懸けられた大犯罪者として追われ続ける。

 それの何が大丈夫なのか。

 安心できる要素なんて何一つない。

 自分が生き返って元の世界に戻れるのだから、それ以外の事はどうでもいい──なんて考えられるほど楽観的にはなれないのだ。

 

「……主陣コウ」

「ムチ子?」

 

 どうしようもない目の前の現実に歯痒い思いを感じて頭を抱えていると、隣のムチ子から声が掛かった。

 

「人間のオスの匂いが沢山近づいてきてる。多分もうこの廃ビルの中に入ってきてるわ」

「くっそ……みんな、立てるか?」

 

 俺の声に反応したメンバーの様子を、一人ひとり注意深く見ていって気がついたことがある。

 

 ムチ子はまだ大丈夫そうだ。

 比較的すぐに立ち上がったし、先ほどのように周囲の敵を察知する程度の余力はまだ残されている。

 先輩も足は怪我しているものの、途中からはインに背負われていたため、体力の消耗は少ない。

 足首の痛みも少しは引いてきたのか、鉄柵を支えにして一人で立ち上がってくれた。

 

 ……しかし、インは。

 

「ちょっと、待って……大丈夫だから」

 

 どこをどう見ても体調不良で、倒れてしまう一歩手前だ。

 立ち上がろうとしても膝が笑っているし、頭もフラつかせていて焦点が合っているかも怪しい。

 首や額からは滝のように汗を流していて、呼吸だって定まっていない。

 

 インがここまで消耗しているのは当然だ。

 ただでさえ過酷な長時間の逃走を続けているのに、途中からは式上先輩を背負って移動していたのだから、いまさら余裕なんてものが残っているはずなどない。

 むしろ体を女にされて体力を削られたのに、ここまで付いてきてくれた彼には敬意を表するべきだ。

 

「……イン。ここまで付き合ってくれてありがとな」

「こ、コウ?」

 

 こんな状態の彼女にこれ以上の逃走を強いるわけにはいかない。

 もうインは十分すぎるくらい頑張ってくれたのだ。

 

「今からお前を催眠してクリアさせる。そのまま座っててくれ」

「え……? ま、まってよコウっ」

 

 これまで修行してきた催眠術でインに『主陣コウと性行為をした』と思い込ませてゲームをクリアさせ、彼女を先にこの世界から解放する。

 インは以前の宣言通りこうして時間ギリギリまで俺を助け続けてくれたし、ここらが潮時だろう。

 

「わ、わたし足手まといにはならないから……だから、まだ手伝わせて……っ」

「心配すんなって。あとたった五分だぞ? それくらいならお前がいなくても頑張れるさ」

「でも……」

「あと少しでここに追手が来るし、タイミング的にも今しかないんだ。先輩は俺が背負ってくから心配すんなって。……ほれ、コレを見ろ」

 

 インを諭しながら、ポケットに入れていた紐付きの五円玉を取り出し、彼女の顔の前にソレを垂らした。

 この数ヵ月間で俺は桃彩式催眠術を完全にマスターし、インに催眠術を掛けることも可能になった。

 性行為を誤認させる催眠術は何度もムチ子で練習してあるので、今更失敗することもない。

 

「コウ……」

「流石に残り五分弱でしくじるほどヤワじゃねえよ。信じてくれ」

「……わかった」

 

 半ば強制的に彼女を納得させ、インを眼前の五円玉に集中させた。

 紐をつまんで五円玉を揺らしながら、俺は催眠の言葉を彼女に聞かせていく。

 

 

 ──インに催眠を掛けながらも、俺は別の事を考えていた。

 

 無事にゲームをクリアして生き返った後のこと……ではない。

 インと戻るべきあの現実ではなく、俺が破壊してしまった式上先輩の未来のことだけが、ずっと俺の頭の中を支配している。

 俺がいなくなって、インもいなくなって、そうして残されるNTRのメンバーは彼女を除けばムチ子だけだ。

 現状では式上先輩の味方をしてくれる存在はたった一人だけしかいない。

 

 そんな四面楚歌な状況で彼女たちは本当に生きていけるのだろうか?

 世界中が敵になったいま、一介の学生に過ぎない式上先輩と、まだ魔力が回復しきっていないサキュバスのムチ子だけで、この世界に太刀打ちできるのか?

 

 無茶だ。

 そんなの無理に決まっている。

 大体ムチ子だって本当ならもう協力する理由なんてないんだ。

 彼女が義理堅い……というより仲間想いなおかげで、式上先輩は辛うじて孤独にはなっていないものの、女性である式上先輩はムチ子に精気を与えることができないし、追われる身である先輩を庇いながら生きていくのは、いくら人間社会に縛られない存在であるサキュバスのムチ子でもやはり困難だろう。

 

 せめて俺がいれば──いや。

 

 彼女たち二人を、平和な俺たちの世界に招き入れることが出来れば──

 

 

「……うぅっ、ぁっ♡ こ、ぅ……っ♡」

 

 

 ──我に返った。

 

「ちょ、ちょっと後輩君! 催眠の強度が高すぎるよ!」

「あっ……ご、ごめん!」

 

 無意識に振り続けていた五円玉をしまい込み、催眠をやめた。

 

「わっ、私ぃっ♡ コウとこんな……ひうぅぅっ♡♡」

「インッ!」

 

 瞳にハートマークを浮かばせて、体をビクビクさせているインのもとへ駆け寄ると、彼女の体が()()()()()事に気がついた。

 

「これは……っ」

 

 焦って彼女の胸ポケットからスマホを取り出すと、そこには【ゲームクリア】の文字列が表示されていた。

 視線をインに戻してみれば、彼女の体全体が半透明になりかけている。

 

「あぇ……わ、私……っ?」

「……イン」

 

 催眠による誤認性行為が終わって我に返ったインが自分の体の異常に驚いているなか、俺は彼女の肩に手を置いて目を見合わせた。

 

 

「先にあっちで待っててくれ」

 

 

 俺がその言葉を口にすると同時に、インの体は眩く光り、足元から徐々に消滅──もとい転送され始めた。

 

「こ、コウ……」

「心配すんなって。俺もすぐに行く」

「そうじゃなくてっ」

 

 向こうの世界へ転送されることの不安や、俺のゲームクリアの心配ではなく。

 

「ムチ子と、式上先輩のこ──」

 

 俺に伝えたかった言葉を言いかけたその瞬間、彼女の体は完全に消え去り、元の世界へと帰還してしまった。

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 インが消え去っていく様子を傍観していた後ろの二人は、何も言わない。

 

「……イン」

 

 彼女が言いかけた言葉の全てを想像することは出来ない。

 ただ分かったのは、彼女が最後に考えたのは自分の事でも俺のことでもなく、この世界でずっと共に過ごしてきた仲間のことだった、という事だけだ。

 

「……行きましょう、追手が来る」

「……う、うん」

「とりあえず隣接してるビルに飛び移ります。……ムチ子」

「はいはい。ほらロリっ子、飛ぶから捕まって」

 

 彼女にとっても大切な人たちだったこの二人と、俺はあと三分半しか一緒にいられない。

 そんな短い時間しか、俺は彼女たちの味方でいることができない。

 日付が移り変わったその瞬間、俺はこの世界から消え去ってしまうから。

 

 

「……後輩、くん」

「大丈夫です。()()()()()……絶対に俺が守りますから」

 

 

 ずっと一緒にいる。

 何があっても自分が守り”続ける”。

 

 そんな事すら口にできず、相も変わらず悪魔たちの手のひらの上で躍らされている自分が、どうしようもなく情けなかった。

 

 

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