『トドメだぁぁぁぁァァァッ!!』
おれの フライパンこうげき!
かいしんの いちげき!!
サキュバスに 99999ポイントの
ダメージを あたえた!
サキュバスを たおした!
『むちぃ……あ、アタシが負けるなんてムチ……』
パタリ。
『わーい勝ったー!』
『やりましたねーっ!』
喜ぶロリ。
彼女を抱っこして高い高いする俺。
そんな俺たち二人を見つめる無表情な少女。
なにより、床に突っ伏して動かなくなったムチムチ女。
そう。
激しい死闘の末、俺たちは無傷でサキュバスに勝利したのだった。
はい、回想終わり。
★
といった感じで、サキュバスとの戦いは割とあっさり終結し、あれから既に数週間が経過している。
現在は七月の中旬。あと数回登校をすれば、学園は夏季の長期休暇に入るといったところだ。
ゲームクリアのバレンタインデーまではまだ半年以上あるが、サキュバスの件を通してまた一回り成長したNLSの面々ならば、サキュバス事件初日のあのようなヘマをやらかすことはないだろう。
一度窮地を乗り越えたからこそ、俺たちの絆はより一層強いモノへと進化しているのだ。
「よーし、寝るか」
時刻は零時を回り、心地よい眠気で瞼も重くなってきた。
部屋の冷房をリモコンで設定しつつ、俺は布団の中へ入った。
明日と明後日の二日間の学園生活を終えれば、その翌日からは夏休みだ。
無論、いままで生きていた元の世界のように、平和で暇なだけの夏休みというわけにはいかないだろう。
この世界は抜きゲー染みている。
たとえ夏休み中であろうが、理不尽なエロイベントがたくさん襲ってくるに違いない。
よって、長期休暇中もNTRの活動は継続する方針だ。
俺とインの為に、せっかくの夏休みだというのに協力してくれる式上先輩には、もう頭が上がらない。
「足向けて寝られねぇなあ……」
そんなことを呟きながら布団でゴロゴロしていれば、次第に意識が明滅し始めてきた。
このままジッとしていれば眠りに落ちて、気持ちよく朝を迎えることが出来そうだ。
「……すぅ」
微睡みの中で、全身の力が抜けていく。
そして、このまま、意識が落ち──
「みつけたーっ!!」
眠りに入るその直前。
何者かが甲高い声と共に体の上にのしかかってきて、俺の意識は強制的に現実へと戻された。
「っ、……ッ!?」
突然の事で心臓が飛び跳ね、訳が分からず目を開く。
そうして視界に映り込んできたのは、薄紫色の肌が特徴的な、どこか見覚えのある女だった。
「さっ、サキュバス……っ!?」
「ようやく見つけたわよ! 主陣コウ!」
なにやら怒った表情で俺に跨っているその女は──いや
彼女はなぜか肉体が縮んでおり、インと同じスレンダーな少し背が低い少女の姿へと変貌している。
むしろインよりも胸が無く、太ももだってかなり細くて、もはやあのムチムチうるさかったナイスバディなスケベ女の面影は残っていない。
顔つきがそっくりだったから判別ができたものの、体だけで言えばもう別人だ。
しかし、どうして俺の家に。
彼女は数週間前、しっかりと警察に引き渡したはずだ。
「頑張って逃げてきたのよ……。おかげで魔力を使いすぎて、こんな姿になっちゃったけどね」
いや頑張れば警察から逃げられるのやばいだろ。
俺が知らなかっただけでこのサキュバス、かなりスペックが高い方だったのか。
──って、そんなことより。
「……何しにきやがった。言っておくが、もうオマエの催眠ガスとかは効かないぞ」
このサキュバスの目的は一体何なのか。
一応今は式上先輩が作った特殊な腕輪をつけているため、エロモンスターたちのエロ攻撃や催眠には耐性がある。
ベッドの下にも麻酔銃とフライパンを仕込んであるし、襲う素振りを見せたら即座に反撃するつもりだ。
「そんなんじゃないし。ただ警告しに来ただけ」
「警告……?」
「アンタたち、前に戦ったときにアタシの体に直接触れたでしょ」
そりゃあ戦ったわけだし。ロープで縛るときもバッチリ触りましたね。
「サキュバスの肉体に触れるとね、こっちの意思とかに関係なく催淫の呪いが掛かるの」
えっなにそれは。
「発動されるのは付与されてから三週間後。つまりアンタらは明日からってワケ。
呪いが起動すると性欲が通常の五倍になるから、性欲発散するなり運動して誤魔化すなりして頂戴」
「ちょっ、まてまて。いきなりすぎてワケわかんねぇんだが」
「言葉通りの意味よ……。あぁ、あと呪いは起動してから二週間で消えるから」
唐突にとんでもないことを暴露してきやがった。
触れるだけで呪いが付与されるなんて、予想以上にサキュバスとは危険な存在だったらしい。
戦闘する中で俺たちNTRは全員サキュバスに触れてたから、みんな明日から性欲が五倍になってしまうではないか。ヤバイわよ。
「……ていうか、なんで敵のお前がそんなこと、俺に教えるんだよ?」
俺が怪訝な表情でそう質問すると、サキュバスはプイッと顔を背けてしまった。
「アンタたちが呪いで発情して、それでまたアタシのせいだって八つ当たりされたら溜ったもんじゃないもの。
いい? とにかくその呪いはアタシの意思じゃないから。
もうこの地域からは出ていくから、追ってきてまた捕まえるなんてことはしないでよね!」
そう言って立ち上がるサキュバス。
部屋の窓を開け、背中から黒い羽根を出現させた。
「お、おい! ちょっと待て!」
「……何よ」
呪いの件は……まぁ抜きゲーみたいな世界だし、そもそもサキュバスなんて存在が実在しているのだから、そういうものなのだと納得することにした。
でも、このまま見逃すわけにはいかない。
せっかくまた会えたのだから、彼女には言っておきたいことがある。
「お前も生きるためなんだろうけど……今回みたいに無辜の人々を襲うのは、なるべく控えてほしい。
できれば、悪い奴とか性欲が凄いやつとか、そういう人間を対象にしてくれないか?
もし普通の人を選ぶのだとしても、搾精する量を減らすとかさ」
「……そんなの、保証できないわよ」
「なるべくでいいんだ。搾精し尽して意識混濁の状態にするのは、やりすぎだと思うから」
サキュバスの生活事情は詳しく知らないが、きっとやりようはあると思う。
それにこいつは極悪人というわけではないと思う。
わざわざ俺の所へ警告に来なくても、黙って遠くへ逃げてしまえば済む話だったのに、呪いの事を俺に教えてくれた。
彼女ならきっとできると、そう信じたい。
「……」
ジッと俺を見つめるサキュバス。
そのまま固まっていると、彼女は小さくため息を吐いた。
「……ハァ。アタシを見逃せないなら、さっさと捕まえるか通報するかすればいいのに。
馬鹿というかお人好しというか……」
「ばっ、馬鹿ってなんだよ。そういうこと言うと本当に通報するぞ」
「ふふっ。あー、こわいこわい。早く逃げなきゃ」
サキュバスは両翼をはためかせ、部屋の外へ出た。
そして空中で浮遊をしながら俺の方を向いて、仕方なさそうに笑った。
「まっ、アンタの言った通り人は選ぶし加減もするわ。……なるべく、ね」
「そうしてくれ。またオマエと戦う、なんて機会が訪れないことを祈るよ」
「あっそ」
フンっ、と鼻を鳴らしたサキュバスは、空を上昇していく。どうやら今夜のうちに、この街から離れるらしい。
……あっ、そうだ。
「サキュバスーっ!」
「なによー」
「最後に名前を教えてくれないかー!?」
窓から身を乗り出してそう叫ぶと、サキュバスは顎に手を添えて考える素振りを見せ──小さく頷き、返事をしてくれた。
「ムチ子」
その名前マジか?
「名前なんてもともと無いの。でもアンタがムチムチうるさいって言ってたから、とりあえずそう名乗っておくわ」
皮肉ってわけかよ。自分の名前にも無頓着だなんて、やっぱりサキュバスはよく分からないな。
まぁいいや。そっちがそれでいいなら、俺もその名前で認識するぜ。
「またなムチ子ーっ!」
「二度と来ないわよ、ばーか」
俺が手を振ると、ムチ子はどうでもよさそうに小さく手を振って、そのまま飛んで真夜中の闇へと溶けていった。
サキュバスを逃がしてしまったのは、もしかしたらとんでもなくヤバイことなのかもしれない。
だけど、ムチ子の言った『なるべく』というセリフは、約束を守る人間の声色だったように思う。人間ではないけど。
とにかく、彼女はなんだかんだ言って約束は守ってくれると、俺はそう信じている。
勝手に。都合よく、一方的に。
今後登場する際のムチ子の基本的な姿は
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大人の姿
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少女の姿