多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

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第34話 嵐の前

 新西暦186年9月 地球圏にて

 

 欧州は完全にムゲ帝国の支配下に落ちていた。

 

 無論、地球連邦軍欧州方面軍は死力を尽くして抵抗したが、それでも尚駄目だった。

 と言うのも、この欧州方面軍、実はロシア方面軍や中華方面軍(管轄広過ぎて&出身者同士が仲悪いから分割)、南米方面軍よりはマシとは言え、多数のスーパーロボットの集う極東方面軍や新型機開発計画の中心地たる北米方面軍、地球連邦政府の首都ダカールのあるアフリカ方面軍に比べると旧式兵器の多い地球において更に更新が遅れていた事が原因とされる。

 更に欧州方面軍はそこでの有力者であるロームフェラ財団並びロゴス(ジブリール派)の影響力が強く、主力となる人型機動兵器すら独自のものを採用しているのだが……そんな状況で現在の地球連邦陸軍の普通の部隊を派遣して満足に運用できるだろうか?

 現地改修とかならいざ知らず、どう考えても兵站面で言えば悪手でしかない。

 加えて、ロームフェラ財団並びロゴス(ジブリール派)は自分達の影響下の部隊に優先して補給・人員の手配や作戦上の便宜等を多く行っている。

 これでは派遣するにはどうやっても部隊単独ではなく、運用のための補給物資その他も持っていかざるを得ず、しかしそうして苦労して持って行ったとしても現地の上官に階級を盾に徴発される事すら発生した。

 これにより、他の方面軍は自分達の管轄する方面にも敵が来ている事を理由に欧州方面への増援を出し渋った、徹底的に。

 これにはレビル首相も内心の苛立ちや嫌悪を押し殺しつつ、各方面から欧州への増援部隊を編制する様に命令したのだが……編成途中、たった3週間で欧州の殆どが陥落した事によって停止した。

 これには先に述べた様に、ムゲ三将軍の巧みな連携と人類が今まで遭遇した事の無かった精神攻撃の戦術・戦略的運用が行われたためであり、その具体的な対策を持っていなかった地球連邦軍は押しに押されてしまった。

 しかも、その歴史的に占領がクッソ面倒な人種の坩堝たる欧州に対し、ムゲは単純明快な解決策を持ちだした。

 

 

 即ち、組織的大虐殺である。

 

 

 果敢に戦った兵士は可能ならば捕虜とし、精神攻撃の応用で洗脳して兵士として使役するのを例外として。

 ムゲは量産したメガロプレッシャーを用いて、ゲリラからの攻撃があった地域を市街地や連邦軍施設諸共に虐殺する事を選んだのだ。

 メガロプレッシャーが無い戦域でも航空機による焼夷爆撃を主軸に、市民の組織的虐殺が行われた。

 これには欧州方面軍も尻に火が付いた。

 地球連邦陸軍はムゲとの戦いは二度目とは言え、完全に異種でありながら知性を持った存在との戦争というものを未経験だった。

 故に何処かジオンと同じ、そう例え民間人に被害が出たとして流れ弾位だろうと、そんな甘ったるくて反吐の出そうな事を軍民の区別なく無意識の内に考えていたのだ。

 地底種族連合からの侵攻の被害にあった地域はそうではないが、それは主に極東方面や沿岸部であり、欧州方面の人々には関係なかった。

 だからこそ、幸運にも彼らは今日までムゲ帝国の敵と敵国民への残虐さを知らなかった。

 そこから欧州方面軍の地獄の撤退戦が始まった。

 

 『すまん、後は任せる…!』

 『俺達の故郷をこれ以上焼かせるかよ!』

 『この、ムゲ野郎共がぁー!』

 

 彼らは自爆すら厭わず、燃えて灰に成りゆく故郷から脱出する人々が逃げるための時間を稼いだ。

 旧式のジムⅡや初期ダガータイプ、リーオー等は元より、一年戦争期に開発された旧式MSや61式戦車等で彼らは必死に応戦した。

 上役がどうあれ、彼らもまた地球連邦軍の一員であり、ムゲ帝国や地底種族連合と戦い続けた軍人達だった。

 その健気な反撃を、ムゲ帝国軍は喜々として蹂躙する。

 敵にもならない市民なんて無視して、ムゲ兵の多くは闘争の愉悦を味わうべく、敗退を続けながらも決して諦めない欧州方面軍に襲いかかる。

 ムゲは分かっていたのだ。

 地球連邦軍にはまだまだ後がある、戦い続けるだけの余力がある。

 その余力を発揮させるには、こうした苦境にあっても戦い続ける兵の存在こそが重要であり、戦えぬ市民なぞ捨て置くべきであると。

 既に示威行為であるメガロプレッシャーによる虐殺は済んだ。

 今後、占領地域で迂闊にムゲに逆らう者は出ないだろうと、長年の戦乱の経験で学習済みなのだ。

 加えて、全ての市民を脱出させる事など出来はしない。

 多くはコロニー落としの恐怖から各地に設置された大深度大型シェルターへと逃げ込んでいる。

 だが、想定よりも多くの人数を緊急時だからと収容した結果、内部に備蓄された物資では明らかに足りない。

 何れ食糧難や内部での争いから、我らムゲ帝国に頭を垂れ、帝王様の慈悲に縋る事だろう。

 ムゲ側の予想は正しく、率先して反撃を行う熟練兵や正規兵は苛烈な反撃によって次々と戦死し、残ったのは新兵や民兵ばかりで、逃げる市民を巻き添えにしてしまう事態が多発するという有様だった。

 それでも彼らは必死に戦い続け、時間を稼ぎながらの撤退を行い、欧州方面軍主力部隊の旧英国方面への脱出を成功させた。

 嘗ての一年戦争の経験からブリテン島全体が要塞化されていると言っても過言ではない砲台陣地が多数形成されている他、水上艦艇に空戦用機動兵器も多数配備されている。

 手薬煉引いて待ち構えている様子はムゲ側も事前の偵察で既に察知しており、ここで無理に急がず、欧州への前線基地の建設並び物資と兵力の集積に注力する事にした。

 もし攻めていれば、相当な犠牲が出るものの攻め落とす事は出来た。

 しかし、ムゲ帝王様が観覧している現状、無様な戦いをする事は出来ないと言うのが、三将軍の共通した見解だった。

 よって、焦らず正攻法で攻める事をムゲ帝国軍は選んだ。

 この辺り、地底種族連合などよりも遥かに厄介な所だった。

 戦術・戦略的に最適な行動を、各兵科と連携して行う。

 そんな当たり前の事をしてくる敵が、連邦軍にとっては単なる異星人や化け物よりも厄介だった。 

 

 が、そんな常識的な戦術・戦略など、常識を投げ捨てた存在には通じないのである。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 『皆様、我々は太陽系防衛用無人機動部隊所属補給部隊です。食料並び医薬品のデリバリーに参りましたので、お通しくださいませ。』

 

 こいつらにそんな常識的な考えは通じないのである。

 この各地にある大深度地下シェルター、安心と驚愕のA.I.M.製である。

 シェルター表面はDFで守られ、更に表面にはエネルギー変換装甲、各部はDブロックで区画毎に守られているという贅沢ぶりで、全面核攻撃すら想定されている。

 加えて、配置全てを把握しているA.I.M.は早速地球圏に配備している量産型無人ヴァルチャー部隊の位相空間潜航・ワープ機能を活かして各所に必要な物資を配達して回った。

 疲労もなく、運べる量も通常の輸送船どころか輸送艦に匹敵するヴァルチャー達は各地で歓迎された。

 なお、今回のヴァルチャーの外見は常の機械のボディではなく、市民の警戒を解くために背面に翼に似た光を放つウイングバインダー、頭部には光の環に見える近距離向けの追加センサーユニットを備えたメイド型である(無論、後で大問題になる)。

 また、総ナノマシン製なのを良い事に機体サイズ(1m半ば~3m程度まで変更可能)を自在に変更してシェルター内部の不具合等もチェック、修理していく。

 医者がいなければ医療用ナノマシンを用いての治療、拒否されれば普通の医療知識を用いて治すし、争いが起きれば人間相手では過剰に過ぎる戦闘能力の一欠けらを発揮して鎮圧する。

 気付けば、下手するとシェルター内部での暮らしの方が豊かじゃね?という状態にすらなっていた。

 が、文句を付ける輩は一定数存在する。

 

 「おい!アンタ等はここを自由に出入りできるんだろう!?だったら直ぐに俺達を安全な所に移してくれ!」

 『それは現在出来ません。』

 「あぁ!?ムゲの連中に攻められているのはアンタらが不甲斐ないからだろうが!?それとも人間様の命令が聞けないってのか!?」

 『…こちらにネズミ入りペットボトルがあります。』

 「あ?それが何か…」

 『こちらを転移します。…戻ってきたのがこちらになります。』

 

 ヴァルチャーの掌、そこにはペットボトルと半ば融合し、ビクビクと痙攣を繰り返すネズミの姿があった。

 どう見ても死にかけであり、見開かれた目はぐりんと白目を向き、半端に開いた口からは末期の呻きが聞こえてくる。

 

 「ひっ!?」

 『現在の装備並び貴方の体質ではワープに耐えられず、通常空間の復帰が不完全なため、周囲の物質と融合してしまう可能性があります。こうなっても構わないのでしたら直ぐにワープを行いますが、よろしいでしょうか?』

 「ひいいいいいいいっ!!」

 

 無論、嘘である。

 だが、大抵の聞き分けの悪い連中はこうして脅すか、酷いよう(ムゲに降伏すべきだ、協力すべき等の扇動、他犯罪行為)ならば法律に基づいて武力によって鎮圧する。

 この辺は既に連邦政府首脳とコンセンサスが取れており、緊急時の法の執行や人道的支援等は認められている。

 思いっきり司法に喧嘩売っているが、「じゃあお前ら侵略者との最前線で法の執行してみるか、あぁん?」(意訳済み)と言われたので、司法関係者は沈黙した。

 誰だって命は惜しいので、そんなもんである。

 こうして、欧州方面の一般市民は何とか生き永らえていた。

 

 「きかいのおねーさーん、おうたうたってー。」

 「うたってー。」

 『私の歌は単にスピーカーから出力しているものですが、よろしいでしょうか?』

 「えっとね、きょうはいっしょにうたお?」

 「みんなでおうたのれんしゅうしてるのー。」

 『私の固有音声で皆様と共に歌う、という事で宜しいでしょうか?』

 「よろしいのー。」

 「よろしいよー。」

 『…予定調整完了。一時間だけですが、参加させて頂きます。」

 

 結局、3時間も子供達と一緒に歌う事になった。

 

 そんなこんなで、シェルター内部の秩序は保たれていた。

 この時、多くの人々が自動人形という人外でありながら人を手助けする存在の便利さに気付き、やがては移民船団並び民間への普及へと繋がっていく。

 無論、自動人形を巡っての各種人権問題へと発展していくのだが、それでも人は一度知った便利さを手放す事は出来ない。

 あーだこーだ言いながら、目下の問題へと対処するために長-く棚上げされる事となるのだった。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 おまけ

 

 自動人形関連の問題の一例

 

 「夫が人形に夢中で、私に構ってくれない!」

 

 「人間の女よりも自動人形が良い!」

 

 「怒ってばっかのおとーさんやおかーさんよりお人形さんの方が良い!」

 

 各所でこんな問題が多発し、自動人形そのままでの販売は不可能となった。

 結果、高度な言語能力や美しい外見を持った自動人形の販売は見送られ、ベイマックス型や動物型、ロボット型の多種多様なデザインが作られた。

 果てはオーダーメイドで娯楽作品のキャラやロボット等を作ったり、自分でハンドメイドする者まで現れた。

 しかし、A.I.M.は頑なに本当の自動人形(=マシンハート機能有り)の販売は行わず、外見だけ整えたAIにリミッターを設けた量産型自動人形(=マシンハート機能無し)を量産、移民船団向けに販売を開始した。

 これに対し、極まった自動人形好きは移民船団に参加、自らの自動人形と共に宇宙へと旅立つのだった。

 

 同時に、「マジモンの自動人形みたい」、「超Cool&Beautyfull!」、「最初は機械的、でも徐々に愛情深くなってくれる」と言われるA.I.M.所属社員の自動人形(表向き人間)への人気も爆発して、マシンハート解放者が増加してトレミィが爆笑したという。

 

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