多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

122 / 188
幕間的なお話その1


第41話 暗闘

 新西暦186年8月7日 地球 極東方面 第二新東京市郊外

 

 第二新東京市の郊外の森から、今しがた戦闘の終わった街をアルベルトは葉巻で一服しながら眺めていた。

 それは新たな勢力であるアインストの戦闘データの収集でもあり、あの若者達の戦いを見るためだった。

 

 「アルベルト様、ここに居られましたか。」

 「イワンか、遅かったな。」

 「申し訳ございません。何分、ムゲとここで鉢合わせるのも不味いため…。」

 「…まぁ良い。欧州の方はどうなっている?」

 「恙無く進んでいると報告を受けております。」

 

 BF団は本格稼働したGR計画に基づき、地球人類の各勢力並びに侵略者達の間引きや統廃合を開始していた。

 その一つが以前の侵攻時から接触を持っていたムゲ帝国軍を、今一つ地球連邦軍としての纏まりの薄い=軍備の手薄な欧州へと案内する事だった。

 現在、欧州は他の方面軍やコロニー駐留防衛部隊を合わせたよりも尚上回る物量と質によって蹂躙されている事だろう。

 これにより、欧州に巣食うロームフェラ財団並びにロゴス最過激派たるジブリール派は根拠地を失い、その勢力を大幅に縮小する。

 また、ゼーレにしても下部組織たるNERVがこうも醜態を晒しては、以前からの衰退も重なって、最早その勢力の維持は不可能だった。

 このまま行けば、後数年で完全に瓦解する程に、あの宗教狂いの老人共は追い込まれていた。

 それを良い気味だと思いながら、窮鼠猫を噛む、最後の賭け次第によっては自分達が引導を渡す必要がある。

 それはそれとして気に食わない事がアルベルトにはあった。

 

 「ふん、侵略者共の片棒を担ぐのは不快だが…。」

 「あ、アルベルト様?まさか…」

 「ふん!」

 

 背後に控えていたイワン目掛け、否、その背後にいた存在に向け、アルベルトは衝撃波を放つ。

 慌てつつもBF団のB級エージェントの一人であるオロシャのイワンは回避に成功、衝撃波はアルベルトの狙い通りに背後からこちらを伺っていた人物へと真っすぐ突き進み…

 

 「フン!」

 

 パァン!と、盛大な破裂音と共に衝撃波は霧散した。

 森の木々の影からゆっくりと姿を現すその人物に、イワンはぎょっと目を見開いた。 

 

 「き、貴様は、マスターアジア!?」

 「アルベルトよ、貴様もう少し部下を鍛えてやるべきではないか?」

 

 筋骨隆々に鍛え抜かれた肉体を薄紫の太極拳服に包んだその男。

 流派東方不敗の開祖にしてシャッフル同盟が長。

 ガンダムファイターの頂点、ガンダム・ザ・ガンダムの称号を持ち、初の殿堂入りを果たした男。

 彼こそが名実共に最強のガンダムファイター、東方不敗、マスターアジア。

 この世界においては良き弟子を、友を、宿敵を、大儀を、万全な肉体を持つ彼は、正しく東西南北中央不敗スーパーアジアと言える状態だ。

 

 「耳が痛いな…イワン、後で久々に揉んでやる。良いな?」

 「は、は!」

 「で、久しいな、シュウジ・クロス。息災な様だな。」

 「無論。で、どうだった、ワシの馬鹿弟子は?」

 「素晴らしい。まだまだ粗削りながら、あぁも粋の良い弟子を持てた貴様が羨ましいぞ。」

 

 一見して和やかな会話が続いている。

 しかし、居合わせたイワンは徐々に二人の間で高まる闘気のうねりに盛大に顔を引き攣らせる。

 彼は分かっているのだ、この二人の本気の戦いに巻き込まれたら、自分なんて簡単に死んでしまう事を。

 

 「して、先程は随分と興味深い事を話しておったな?」

 「ほう、貴様が興味を持つとは珍しい事もあるな?」

 

 にっこり、にっこり、と。

 二人は笑みを交わし合う。

 その場にいたイワンは目を反らす事も出来ず、顔を蒼褪めながらじりじりと距離を取る。

 誰だって特機同士の戦闘に至近距離で巻き込まれたくはない。

 況してやこの二人は長年決着の付かない腐れ縁とも宿敵とも言われる間柄。

 その戦闘は十傑集同士の殺し合いに匹敵するか、或いは上回る可能性すらあった。

 尚、周辺の野生動物は先の市街地の戦闘の頃からとっくに逃げ出している。

 

 「アルベルト。貴様、侵略者共の片棒を担ぐとは、どういう意味だ?」

 

 ビシリ、と。

 東方不敗から漏れ出た怒気によって、森の地面や木々の表面に亀裂が走った。

 東方不敗は地球を愛し、人々を愛し、平和を愛し、武を愛す。

 故にこそ、己と同格の武の持ち主が非道を行った事に怒りを燃やしていた。

 

 「全ては我らがビッグファイア様のため…と言っても納得いかぬだろうな、貴様は。」

 「言うまでもない。」

 

 すっと、両者が構える。

 その瞬間に、脂汗が全身からだくだくと流れていたイワンは脱兎よりも早く駆けだした。

 

 「今度こそ、我が拳によって貴様を倒す。」

 「ほざけ、表舞台に出て平和ボケしたアホが!」

 「貴様こそ、娘愛しさに親馬鹿になりおって!」

 「サニーは関係ないだろうが、サニーは!」

 

 そんな悪ガキ同然の罵り合いと共に、最上級の特機同士の戦闘に匹敵する生身の人間同士の戦いが始まった。

 

 

 

 後日、ちょっとボロボロになったアルベルトにイワンはしっかり絞られた(瀕死)。

 

 

 ……………

 

 

 新西暦186年8月7日から始まったムゲ帝国軍の再侵攻に対し、地球連邦軍の対応は的確だった。

 欧州を除いた多くの方面軍とコロニー駐留部隊はその装備と訓練の成果を遺憾なく発揮し、襲い来るムゲの殲滅に成功した。

 一方、ロームフェラ財団とジブリール派の専横極まる欧州は末端は兎も角として、上位の人員の多くが両派閥の横槍人事や縁故採用であったがために、計画的な防衛・撤退戦も出来ず、ムゲの新兵器たるメガロプレッシャーと精神攻撃兵器たる量産型ギルバウアー、更にデスガイヤー将軍率いる精鋭部隊の存在によって蹂躙されていった。

 僅か一か月、それが旧英国領を除いた欧州方面全土がムゲ帝国軍によって陥落するまでの時間だった。

 しかし、逃げ遅れた民間人の多くは安心と驚愕のA.I.M製大深度地下シェルター群に避難し、半年は軽く籠城可能になっている。

 では、シェルターに入る事も出来なかった僅かな民間人はどうなったのか?

 それはとある人物らの活躍によって、辛うじて欧州の地から脱出する事に成功する。

 

 『皆、剣を執り給え。我らスペシャルズは、ノブリスオブリージュを果たす。』

 

 トレーズ・クシュリナーダ准将。

 潰走する友軍と逃げ惑う人々、それに襲うムゲの軍勢を前に指揮系統も実質壊滅したティターンズを抜け、上層部の多くがあっと言う間に逃げ出して混乱する古巣のスペシャルズの残存部隊、更には一部で未だ儚い抵抗(時間稼ぎに過ぎないと分かっているが)を続ける連邦軍残存部隊を糾合し、彼は立ち上がった。

 

 『民間人の避難誘導並びに味方主力部隊の撤退を支援する。人が生き延びさえすれば、地球連邦は、我らが故郷たる欧州は必ずや再起する。各員の奮励と努力を期待する。』

 

 彼の放つ圧倒的なカリスマに統率を失い、指揮官や友軍に見捨てられ、それでも市民を守るべく奮闘していた各残存部隊はその指揮下に入った途端、頑強な抵抗を見せ始めた。

 

 『ノイン、ワーカー、両翼は任せる!トールギスⅢ隊は私に続け!』

 

 更に撤退中の護衛を命じられながら、それをブッチしてきたゼクス・マーキス少佐率いるトールギスⅢ一個中隊(第一小隊はノイン、第二小隊はワーカーがそれぞれ小隊長を務める)が参戦。

 各所でVFに匹敵する圧倒的機動性を活かした一撃離脱戦法や斬首戦術を繰り出していく。

 欧州全体に広がり、各所が手薄となったムゲ軍の隙を突く形で各所で混乱を巻き起こした。

 このトールギスⅢ、新型主力機開発計画にて改装されたトールギスⅡをムーバブルフレーム・DF・マグネットコーティング・テスラドライブを初めとした他の最新鋭主力量産機に採用された技術を搭載前提で再設計した機体である。

 外観は頭部だけそのままに、他の部分がトールギスⅢとなった他、背中にはテスラドライブを内蔵している。

 主兵装はスペシャルズの採用しているロームフェラ製MS用汎用兵装各種を装備可能となっている。

 他にもコネクタの調整とFCSの制限解除で連邦軍のMS用汎用兵装各種も装備可能になる。

 ここら辺の武装の互換性の低さはロームフェラだから、としか言い様がないが、現場の兵士達によって普通に解除されて運用されている。

 一応設計段階から連邦軍MSの共通規格たるユニバーサルコネクターに対応しているのを、生産時にリミッターを掛けているのだから、ロームフェラ財団もお疲れ様としか言いようがない。

 が、現場を知る実際の生産側はその辺を巧みに誤魔化して、多少の調整で武装を共用できるようにした辺り、まだまだ完全に腐ってはいないのだろう。

 そのお陰で現在の欧州の地では、数々の連邦軍のMS用汎用兵装を装備したトールギスやリーオーが見られた。

 彼らの活躍と前線のまともな兵士達の死にもの狂いの活躍により、辛うじて戦線の後退速度は下がっていった。

 だが、彼らの活躍も長くは続かなかった。

 必死に必死を重ね、死力を尽くし、民間人を逃し続けても、欧州に援軍は来なかった。

 何処の方面軍もロームフェラの貴族共とジブリールの過激なやり方を気に入っておらず、今回の事も自業自得だと白い目を向けていたのだ。

 辛うじて火消し役として第一次侵攻の出鼻を挫き続けた地球連邦軍参謀本部直属の空中機動艦隊が駆けつけてくれたが、エースパイロット以上しかいない彼らの活躍を以てしても、既に欧州方面の陥落は時間の問題だった。

 連邦軍参謀本部は必死に本格的な増援部隊を編制しようとしたのだが、しかし、漸く各方面軍のムゲの掃討が完了し、編成が始まろうと言う8月の末には欧州は陥落してしまった。

 

 『潮時か…。各員、部隊を再編成し、アフリカ方面へと撤退する。君達は誉れある地球連邦軍の兵士。これからの戦いのためにも、先ずは生きてここから脱出しよう。』

 

 自らも専用のトールギスⅢを駆りながら、トレーズは欧州きってのエース・オブ・エースとなったゼクスと共に殿を受け持った。

 一週間もの撤退戦が続き、生き残ったのは僅かな兵達だった。

 欧州最精鋭とされたトールギスⅢ隊も3割が未帰還、他の糾合した残存部隊も多くが壊滅所か消滅した。

 それでも彼らは生き残り、戦友と市民の遺骸を背にアフリカの大地へと辿り着き、アフリカ方面軍への合流に成功した。

 

 『私は必ず戻ろう。あの赤き欧州の地を取り戻しに。』

 

 これが若き天才にして後の地球連邦首相の苦難の時代だった。

 

 

 




なお、東方先生が気付かれたのは、アルベルトの言葉に怒りと困惑(あのアルベルトが侵略者と手を組んだとか嘘やろ???)で動揺してしまったせいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。