多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

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第43話 暗闘その3

 新西暦186年9月半ば 地球 欧州方面にて

 

 「態々ワシの前に姿を現すとはな…どういうつもりだトレーズ?」

 

 ギロリ、というデルマイユ公は自らの執務室に訪れたトレーズに対し、殺気混じりの視線を向けた。

 

 遡る事数時間前、トレーズは引き連れてきた物資満載の輸送艦隊を各地に分散させ、それぞれの担当区域で物資の配給並びに医療支援を開始させつつ、自らはこうして自分の所属するロームフェラ財団の長であるデルマイユの元へとやってきたのだ。

 

 「勿論、一軍人としての公務であり、貴族としての義務のためであります、デルマイユ公。」

 

 物腰優雅にして典雅、絶対的なカリスマと美貌にあらゆる分野における才能、エレガントさ。

 それら全てを併せ持つ、正に神に愛されたとも言える男(検査の結果、こんなんでマジにガチのナチュラルである)を前にして、デルマイユ公は財団の長にして欧州を実質的に治めてきた大貴族としての矜持で気圧される事なく対峙する。

 彼とて傑物の一人、ただ相対するだけで気圧される等あってはならないのだ。

 ただ、彼の世界は欧州であり、地球であり、その他は精々コロニー程度しかない。

 あくまで優先すべきはその中での自分達の利益であり、貴族としての矜持であり、貴き血筋を存続する事なのだ。

 商売上火星や木星、コロニーとの繋がりはあるが、あくまで商売上のものに過ぎない。

 ほんの少し多くの有力者よりも世界の定義が狭いがその立場に似あった能力は持っている。

 それがデルマイユ公という老人だった。

 

 「言ってみるがいい。」

 「来る欧州方面での反抗作戦、その総指揮権を参謀本部より任されました。」

 「何だと!?」

 

 それはデルマイユ公の息のかかった欧州方面軍が幾ら上申しても許されなかった、父祖の大地をこの手に取り戻すためのチケット。

 それをこの若造が与えられただと!?

 今まで泰然自若であろうと自らに言い聞かせていたデルマイユをして動揺を露わにするものだった。

 

 「無論、参謀本部からの命令への服従を前提として、です。」

 「ぬぅ…まぁそうだろうな。」

 

 自らの力、自らの兵、自らの手腕で父祖の大地を取り戻す事はデルマイユらロームフェラ財団の悲願とも言えるものだが、それが既に独力ではどうしようもない事もまた悟っていた。

 だからこそ、商人でありながらその傲慢と欲を隠す事すら出来ないジブリールとも手を組んだのだ。

 彼らとて、本当は分かっているのだ、既に自分達の力では欧州を守り切れないと。

 それを悟ったのはムゲや地底種族連合の出現?否。

 太陽系外に潜む宇宙怪獣との遭遇?否。

 アバオアクーでの異星人の出現?否。

 ジオン公国による地球連邦との一年戦争?否。

 もっともっと前から、彼らは何処かでそれを悟りながらも、今の今までそんな事ある訳ないと目を反らしてきた。

 そのツケが今、彼ら自身と欧州の民、欧州を守る兵士達に襲い掛かってきたのだ。

 そして、ツケを溜め込んだ者達の長として、デルマイユは責任を取らねばならなかった。

 

 「それだけではあるまい。他の条件は何だ?」

 「公を始めとしたロームフェラ財団首脳陣の退陣並びにジブリール氏の逮捕です。」

 

 それを聞いて、デルマイユは納得した。

 救援物資までならまだいつものA.I.Mへの仕業で納得できるが、欧州反抗作戦の指揮権までは流石に説明がつかない。

 だが、その条件を聞けば納得だった。

 既にロームフェラ派にもジブリール派にも侵略者に対抗する力が無いのは明白であり、奇襲を受けたとは言え侵略者を跳ね除ける事は出来なかった。

 これを機に両者を表舞台から退場させ、地球連邦による体制をより盤石なものにする。

 それが連邦軍の、否、連邦政府からの条件だったのだろう。

 そして、トレーズはそれを呑むしかなかった。

 トレーズはとっくの昔に悟っていた。

 現状のままのロームフェラとジブリールではこの先の戦乱を生き抜く事なぞ出来ない、と。

 

 「…ロームフェラ財団そのものの解体ではないのだな?」

 「えぇ。財団は欧州の復興並びに文化の保護のためには絶対に必要である、と言う意見が多かったとの事です。」

 「成程、芸は身を助くとはよく言ったものだな。」

 

 地球人類のアイデンティティである文化の保護活動並びに復興への人・物・金を出す事で力を削ぎつつ、混乱を避けるために延命を行う。

 それが連邦政府が出した結論だった。

 なお、その影に文化の衰退とか許されざるよ、とか言った某合法メカ幼女の存在があったとか。

 そして、ロームフェラにとって前者は以前から行ってきた事だし、後者はどの道必要でやる予定の事だった。

 それが多少事情が変わっただけに過ぎないと考えれば、これはロームフェラにとってはこれ以上ない程に好条件だ。

 

 「…良かろう。但し、こちらも条件を出す。」

 「聞きましょう。」

 「他の重役への説明と説得への協力。そしてMDの採用だ。」

 

 そのデルマイユの言葉に、傑物の中の傑物たるトレーズもその独特な眉を顰めた。

 人を愛し、奥深い人の感情が積み重ねた歴史と文化を愛し、しかし衰退から逃れられない強者ではなく、衰退から羽搏いていく敗者こそを尊ぶトレーズ。

 彼にとって心無い兵器であるMDで戦う事は即ち、そうした成長や経験の蓄積とは無縁の者に落ちる事に他ならず、同時に戦乱を厭う気高さもない唾棄すべき兵器だった。

 

 「お前の言いたい事も分かる。MDには対人戦闘に対し、その根幹プログラムからリミットを設ける。」

 「公…。」

 「MDは、無人機は必要なのだ。地球人類を守り、存続させるために。」

 

 太陽系の外に存在する、人類とは全く異なる種族である宇宙怪獣にインベーダー達。

 そのデータを知る事の出来る立場にあったデルマイユからすれば、その存在は余りに絶望的で、自らの矮小さを思い知らされる程に理不尽な存在だった。

 そんなものを相手に、常道で戦って勝てる訳がない。

 有人兵器に早々に見切りを付け、ツバロフ技師長の唱えていたMSの無人化計画たるMDシステムに注力するのは当たり前の結論だった。

 

 「この銀河に、この宇宙に潜む化け物共に対抗するには最早あの無人兵器達だけでは足りぬ。そも、あ奴らが人類を育て、その軍事力を増強させるべく動いているのは『自分達だけでは対処できない』と分かっておるからであろう?」

 

 デルマイユの言う事は正鵠を射ていた。

 既にしてトレミィ達は独力での太陽系防衛を諦めていた。

 現在は太陽系外周部を捨て、冥王星基地に防衛ラインを敷き直し、現在はズール銀河帝国の先遣部隊や小艦隊に対しての徹底的なハラスメント攻撃に終始している。

 無人戦闘機群による亜光速での対艦攻撃(場合によっては縮退炉暴走による自爆も追加)を日に100回近く不定期に受けるのである。

 先遣部隊・艦隊の死亡率たるや、凄まじいものがあった。

 加えて、撤退しようものならズール皇帝の怒りに触れて死に、太陽系から逃げ出そうにも今度はズール銀河帝国艦隊と互角であるゼ・バルマリィ帝国第七艦隊が太陽系外部にて出待ちしているのだ。

 彼らに退路はなく、ただ目の前に広がる地雷原へと突き進むしかなかった。

 そんな死兵同然の敵を相手に二ヵ月近く攻勢を停滞させる程度には、彼女らは今も頑張っている。

 そんな現場の努力と苦闘を嘲笑うかの様に、待機に飽きてきたズール皇帝が本腰を上げるまで、もう間も無くに迫っていた。

 

 「多くの兵をあたら死地に送り込む様な事は断じてならぬ。だからこその対人戦闘へリミットを設けてでも、MDを始めとした無人兵器を実用化せねばならぬ。」

 「デルマイユ公の御慈悲、このトレーズ感服しました。MDの件、リミッターに関しては私の部下も噛ませる形になりますが、委細承知いたしました。」

 「うむ。退陣後、ワシは正式に隠居する。トレーズよ、後の事は任せたぞ。」

 

 本来、デルマイユはこうも殊勝な人物ではない。

 その青い血の持つ伝統と歴史、誇りにかけて、侵略者共を一兵残さず殲滅する気でいた。

 事実、ムゲ帝国並びに地底種族連合の第一次侵攻はその旗下の部隊で散々に打ち破り、降伏も許さず殲滅された。

 しかし、第二次侵攻でやってきたムゲ帝国軍は彼らの想定を遥かに上回る物量と質、各兵科の連携に戦術と戦略を用いた完璧な軍勢だった。

 最初の侵攻はそも地球の最終防衛ラインである2億近い量産型無人OFセトの軍勢に転移中の攻撃を喰らい、指揮系統を散々に乱された状態だったのだ。

 それが魔神覚醒事件で半減したせいで最初とは比較にならない物量で侵攻してきたムゲに対応できず、明確な指揮系統を維持したままでの侵攻に成功したのだ。

 これは異種族の烏合の衆だった地底種族連合とは比べ物にならない組織力を維持したままである事を意味し、精神攻撃兵器の組織的運用とメガロプレッシャーという決して無視できない戦略兵器の存在も加わって、敵わぬと見てティターンズやロームフェラ派の指揮官が早期に撤退、指揮系統が瓦解してしまった。

 その後に起こった事は語るまでも無いだろう。

 …君達は富士川の戦いの平氏か何かかね?

 そんな自分とジブリールの派閥の無様さとあれ程忌み嫌っていた地球連邦軍の兵士達やトレーズ旗下のスペシャルズの奮闘ぶりを見て、デルマイユは心が折れた。

 或いは漸く諦めた、納得したと言っても良い。

 最早今の時代に自分達の様な懐古主義の老い耄れは対応できない、と。

 恐れ、逃げ惑う自分達と違い、彼らは絶望的な軍勢の津波に正面から立ち向かい、兵士としての職務から、貴族としての責務から逃げる事なく戦った。

 その姿は正に貴族としてのあるべき姿で。

 貴族としての責務…民から税を取り、仕えられる等の多くの特権の代償。

 即ち、民とその暮らしを守り、善政を敷く事。

 それを忘れ、特権を恣に貪り続けた自分達のなんと醜い事か…。

 自らの醜悪さを理解したが故にトレーズからの申し出をデルマイユは納得と共に受け入れる事が出来た。

 

 以降、デルマイユは退陣した財閥の役員らと共に欧州の復興並びに文化の保護・育成活動の他、親や家族を亡くした人々への生活支援を行い、余生を過ごす事となる。

 彼らが亡くなった後、世話になった人々は感謝を込めて彼らの銅像を建立し、各々の名前とある言葉を記した。

 

 

 『伝統と文化の守護者達に永遠の感謝を込めて。 彼らに助けられた全ての市民より』 

 

 

 彼らは死して尚その名を人々の記憶に遺す事に成功したのだった。

 

 




デルマイユ公、ムゲの軍勢により漂白。
同時にトレーズ様への説得成功という人生最大の大戦果を上げる。
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