多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 作:VISP
新西暦186年9月21日 地球 欧州方面
ムゲ帝国軍による旧英国領への先制攻撃から急遽開始された欧州奪還作戦。
その第二段階が始まった。
欧州外縁部に展開するムゲ帝国軍の射程外のその更に向こう。
そこに展開した欧州方面奪還のために各方面軍より抽出された圧倒的多数の軍勢が展開していた。
東欧方面からは露西亜方面軍が、カスピ海・黒海方面からは中華方面軍並びに各アジア方面軍の混成軍団が、地中海方面からはアフリカ方面軍が、そしてノルウェー海は北米・南米・極東・豪州方面軍所属艦艇から成る大艦隊がそれぞれ押し寄せてきた。
『長距離弾道弾、着弾位置設定完了しました。』
『陸上艦艇群、誤差修正完了。各ガンタンク部隊並びに戦車部隊、ターゲットリンク良し。』
『各部隊、準備攻撃の準備、完了しました。』
『よし、全軍準備砲撃開始!』
斯くして、各地のムゲ帝国軍の頭上へと文字通りの砲弾の雨が降り注いだ。
さて、ムゲ軍の兵器を見てみると、ムゲ戦艦に戦闘機兼戦闘ヘリなドル・ファー、主力量産機たるゼイ・ファー、指揮官やエース向けのデスグロームⅡ、特機級量産機たる量産型ギルバウアー、そしてギルバウアーとザンガイオー。
これらに加えて名も無き戦闘車両や戦車、対空砲や重砲等がムゲ兵士達によって運用される。
その辺の兵器のラインナップは大凡一年戦争前の地球連邦軍とそう大差はない(性能的には射程距離と命中精度に大きな隔たりがあったが)。
無いが、彼らには地球連邦軍に比して地球での戦いの経験と無数の特殊な兵器への対策が余りにも足りていなかった。
「飛翔体の迎撃に成功!…!? ジャミングを確認、レーダー使用不能!」
「対空迎撃用ミサイルにも障害が発生!誘導不可能!」
「ぜ、前線部隊との無線通信が遮断されました!」
彼らは未だ、ミノフスキー粒子の恐ろしさを知らなかった。
嘗て地球連邦軍がジオン公国によって散々に教え込まれた通信やレーダー、誘導弾等の機能不全の恐怖。
無数の砲弾とミサイル、その中に混ざり込んでいた外見は通常のものと一切変わりないミノフスキー粒子散布用砲弾とミサイル。
それらを知らず迎撃した事で、ムゲ帝国軍の精密電子機器の多くが作動不能に陥っていた。
流石に機動兵器自体の無力化は出来ていないが、ロックオン機能の多くが使用不可能になった事を大きい。
これにより、ムゲ帝国軍側は効率的な対空迎撃や精密射撃、部隊間の指揮系統が半ば麻痺する事態に陥っていた。
加えて、残りの有線通信にも事前に仕掛けが施されていた事を彼らはまだ知らない。
連邦軍はしっかりと、嘗ての経験を己の血肉に変える事に成功していた。
「えぇい、通信や伝令は兵が直接行え!工兵隊は急ぎ有線通信を繋げ!絶対に前線部隊を孤立させるな!」
『部隊を迎撃しつつ徐々に後退!量産型ギルバウアー隊は突出してくる敵を狙い撃て!先ずは部隊間の通信網を再構築、後に連携するのだ!』
ギルドロームとヘルマット。
共に多くの部下を率いる身であるが故に、この状況の怖さを知るや否や即座に対策に移った。
「来る…。」
「何?」
「敵が来るぞ、ここ本陣にな。」
「何だと!?」
そして、歴戦の武人としての嗅覚故に、デスガイヤーは連邦軍の狙いを察した。
「旧英国領に向かったヘルマットを始めとした前線部隊は連絡が付かず、実質的にここは陸の孤島と化した。偵察で判明した敵部隊は間違いなく各地で前進を開始し、このジャミング状況でも問題なく行動しているだろう。連携が取れず、各個で判断している現状では本陣に何があっても応援には来れず、また目の前の敵がそれをさせてくれない。」
「馬鹿な、ここの守備兵がどれだけいると思っている?加えて、周辺の防衛ラインの戦力とてあるのだぞ?」
「だからやるのだ。」
疑念の声を上げるギルドロームに対し、刻々と迫り来る死闘の気配にデスガイヤーは獣が牙を剥くかの様な笑みを見せた。
「ここを落とされれば地球侵攻は確実に頓挫する。少なくとも10年単位で再侵攻はされぬだろう。だからやるのだ。」
「…癪だが、貴様の勘はこういう時外れた事が無い。」
「直ぐに全軍を戦闘態勢に移す。そう時間はあるまい。」
だが、彼らの判断は今一歩遅かった。
ズズン!と、基地全体に激しい振動、そして爆発音が響き渡る。
「何事だ!状況報告!」
「て、敵の破壊工作と思われます!対空砲並びに弾薬庫の一部、通信用の有線回線がやられました!」
「敵の侵入を許したのか!?えぇい何たる失態か!」
ギルドロームが怒りを露わに叫ぶ。
地球に直接来てからというもの、快進撃は本命の欧州方面でだけで、他は全て撃退されるか逆に殲滅されてしまった。
更には延々と繰り返されるハラスメント工作による侵攻準備の遅延が彼から忍耐を奪っていたのだ。
こうした敵司令官から冷静な判断力を奪うと言う面では黒騎士隊は実に良い仕事をしてくれた。
「…貴様、見ない顔だな?」
だが、武人として数多くの戦場を駆けずり回った経験豊富なデスガイヤーはこの程度の事には動じなかった。
そして、自分達の元に真っ先に駆けて来て冷静な報告を行った兵士の持つ「自分達ムゲ帝国人とは異なる気配」を鋭敏に察知した。
加えてヘルメットの隙間からはみ出る独特な前髪の存在に、デスガイヤーは目の前の兵士が自軍の者ではないと素早く判断した。
故に叩き潰さんと迷いなくその剛腕を振るったが、寸での所で回避されてしまう。
「おっと、流石はデスガイヤー将軍。この程度の変装じゃ無理か。」
「貴様、何者だ?」
「国際警察機構所属、人呼んで不死身の村雨健二。じゃあなお二方!」
「逃げたか…奴もまた優れた戦士か。」
「感心しておる場合か!えぇい、ギルバウアーを出せ!ワシ自ら奴らに悪夢を見せてくれる!」
気炎を上げるギルドロームに続き、デスガイヤーもまた己の乗機へと乗り込む準備をする。
司令部ではなく機体に乗り込んだ事。
これが二人の命を繋げる事になるとは未だ知る由もなかった。
……………
新西暦186年9月21日 地球 極東方面 伊豆基地
ムゲ帝国軍司令部が破壊工作による大混乱に陥る2時間前、伊豆基地では何隻ものスペースノア級並びにヒリュウ改が大慌てで出港の準備を続けていた。
本来なら今日の夜半に完了する筈の準備を今直ぐにでも終わらせるという無理難題に、しかし整備班や補給担当らは必死になって積み込みを行う。
武器弾薬に医薬品に食料、予備パーツやオプション兵装等の他、一部の機体の装備変更に出撃前の緊急点検。
どう足掻いても時間が足りないのだが、最近現場で採用され始めた作業用オートマトンのお陰で荷運びの人手だけは困る事はない。
そのため、辛うじて準備は後30分半程度で終わる予定だ。
「艦の最終点検は!?」
「スペースノア、ヒリュウ改、ハガネ改、クロガネ、シロガネの全艦が完了しました!」
「クルー並びにパイロット全員の搭乗を確認!」
「合流予定のマクロス並びにメガロード、それぞれアラスカ基地とラングレー基地から離陸したそうです!」
「こちらも間も無くだな…。」
格納庫やドッグと同様に喧騒に包まれるブリッジ内を見回して、ブライトは一人呟いた。
この作戦の結果如何では今後の対侵略者戦略は大きく後退する事も有り得る。
決して失敗できないという点に胃壁が擦り減りそうになるが、そんなもん今更だよな…と若手なのに重責ある立場に追い遣られ続けるわが身を呪うブライト。
「整備点検抜かるなよ!我々のミスは敵を喜ばせるだけだ!全パイロットはコクピット待機!非戦闘員は緊急出港後は直ぐに安全区画に退避しろ!出港と同時にエンジン全開で宇宙に上がり、指定座標にてマクロスとメガロードと合流する!」
決戦まで、もう間も無くに迫っていた。
……………
さて、一方その頃のマクロス並びにメガロードはと言うと、合流地点として指定された座標の宙域に4隻のるくしおん級をお供として待機していた。
このるくしおん級は敵司令部へのISA戦術には参加しないが、もしも障害が発生した場合には作戦実行までの露払い=護衛が役目となっている。
そんな彼らには今、突然の仕事が舞い込んできた。
『! 前方200kmに転移反応と思われる空間歪曲を確認!このエネルギーは…パターン青!使徒と思われます!』
『通常空間への実体化まで後15秒!』
『全発射管に光子魚雷装填!実体化と同時に対空間転移攻撃開始!』
『了解。全発射管に光子魚雷の装填完了。いつでも行けます!』
『…3・2・1・実体化!』
『発射ぁ!』
6隻のるくしおん級、それらから放たれた大型対艦ミサイルサイズの光子魚雷が亜光速の速度となって実体化した反応へと突き刺さる。
白いホルスの目にも似た模様が表面を動き回る巨大な黒い球体。
その姿を確認するや否やというタイミングで突き刺さる多数の光子魚雷。
如何なATフィールドにジャミング能力と言えど、碌にそれらを発揮させなければどうという事もない。
第七使徒サハクィエルは当然の如くその構成質量の過半が消滅、後に辛うじて残った肉片が十字架の光となって爆発四散した。
原作ではエヴァ三機で協力しなければならなかった最大の使徒は登場から僅か数秒という短さで殲滅されるのだった。
『…周辺に残存敵勢力無し。転移反応もエネルギー反応も確認できません。』
『よし、周辺警戒を怠るな。また何か出てくるとも限らん。我々の仕事はマクロスを旗艦としたISA戦隊の護衛だ。彼らがムゲ帝国軍司令部の破壊に成功するまで、何としても彼らを守り抜くぞ!』
この後は碌な妨害すら発生せず、割とあっさりとスペースノ級4隻+ヒリュウ改との合流に成功する。
欧州最大の激戦、その第二幕が上がるまでもう間も無くだった。