多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話   作:VISP

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第53話 バトル・オブ・ヨーロッパその8

 新西暦186年9月21日 地球 欧州方面 ドーバー海峡周辺

 

 「ヘルマット将軍…無線・有線にレーザーとあらゆる通信手段を試み続けておりますが、司令部との連絡は途絶したままです。」

 「そうか。では、最早間違いないな?」

 「地球侵攻軍総司令部は、先に観測した軌道砲撃によって陥落したものかと…。」

 

 ムゲ戦艦のブリッジ、そこにある艦長席にて、ヘルマットは天を仰いだ。

 やはりこの世界に侵攻するべきではなかった。

 また勝ち戦だ、先遣隊の仇だと叫ぶ現場の兵士達の戦意とムゲ帝王様のご期待を裏切ってでもお諫め出来なかった時点で、この結末は決まっていたのかもしれない。

 

 「満足に動ける部隊はポイントD-1への移動を開始、然る後に撤退せよ。動けぬ者、退く気の無い者はその場にて最後まで戦え。そして、諸君には悪いが本艦は殿として残る。今の内に若い連中は急ぎ脱出せよ。5分だけ待つので、艦内放送で徹底させよ。」

 「は!」

 

 去っていく兵士の背を見送りながら、ヘルマットは高速でその思考を回転させていく。

 現状、最早幾ら戦術的勝利を重ねようとも挽回は不可能。

 高度に組織化された軍隊であるムゲ帝国軍が司令部とそこに付随する部隊と工廠施設、補給物資を無くした以上、完全にこちらの敗北は決定付けられた。

 であれば、少しでも多くの兵士達を自分達の宇宙へと逃し、相手が迂闊にこちらに攻め寄せてこれない様にするのが肝要だろう。

 そのためにも先ずは今の戦場を上手く切り抜けねばならない。

 

(幸い、向こうの巨大兵器の砲火は未だ収まっていない。流石にミサイルは弾切れの様だが、アレを盾にしつつ後退し、時間稼ぎが最善か。)

 

 ヘルマットが敗軍の将としての策を思考する中、事態は彼の予想よりも早く動いた。

 

 「! 敵司令部の予想位置付近より機動兵器の出撃を確認!物凄い速さです!」

 「何だと!?」」

 

 ヘルマットの乗艦の数km先、未だ双方の前線部隊相手に暴れ狂うフォウ・ムラサメの駆るデストロイガンダムに向け、凄まじい速度で迫る機影が感知されたのだ。

 

 『お前!お前も私の記憶を奪うのかぁ!?!』

 『悲しいな、操り人形というのは。そこまでやっても、君は戦いに向いていないのだよ。』

 

 自身の専用機たるトールギスⅢカスタムのコクピットで、常人なら圧死しかねないGに襲われながら、トレーズは敵味方に記憶と人格、正気を奪われたフォウ・ムラサメを哀れんだ。

 デストロイガンダム到達まで後5秒の距離で、両腕の飛行型5連装ビーム砲が連射され、弾幕を形成する。

 だが、トールギスⅢカスタムはその弾雨を掠らせる事すら許さず完璧に回避し、更にペダルを踏み込んで加速する。

 到達まで後4秒、弾幕が足りぬと判断したフォウは胸部三連装拡散・収束切り替えメガビーム砲を拡散状態でチャージを開始、同時に頭部の4連装80mmバルカン砲を乱射する。

 流石にこれは回避し切れなかったのか、トールギスⅢカスタムはシールドを正面に構え、展開しているDFによってこれを防ぐ。

 だが、そのスピードは一切減速させない。

 到達まで後3秒、弾幕は展開されたまま、命中弾も徐々に出る。

 しかし、トールギスⅢカスタムは主に命じられるままにその加速を緩めない。

 到達まで後2秒、遂にデストロイの胸部から三連装の拡散メガビーム砲が放たれる。

 発射口から幾条にも別れ、周辺を焼き払っていくビームは、しかし拡散されたが故にトールギスⅢカスタムを撃墜するには至らない。

 フォウは最初から、収束状態での一撃を狙うべきだったのだ。

 だが、長時間の戦闘、それも完全に錯乱状態で動き続けたが故に既に大きく体力を消費し、その判断能力も大きく低下していた。

 到達まで後1秒、回避も迎撃も防御も間に合わない。

 それでもせめて直撃を免れようとトールギスⅢカスタムの予測進路上から避けるべく機体を傾かせる。

 

 『それを待っていた。』

 

 0秒。

 自らの進路上に空いた隙間、その直ぐ近くにある自機から見て左側にあるデストロイの頭部。

 それこそがトレーズの狙いだった。

 左腕で構えるシールドの影となり、死角だった左腰部に佩かれたZサーベルをまるで居合の様に抜刀し、鞘をレールとした勢いと機体の加速を乗せて、Zサーベルが一条の輝きとなって走り抜け、空いた空間へと走り抜ける。

 

 『今は眠り給え。』

 

 余りに美しい切断面を残し、デストロイガンダムの頭部は海面へと落ちて行った。

 その頭部内のコクピットには傷一つなく、心身双方への衝撃と蓄積した疲労でフォウ・ムラサメは気絶しただけで済んだ。

 後に残された機体は誘爆する事もなく、ただ静かにドーバー海峡へとその巨体を沈めていくのだった。

 その圧倒的かつ余りに鮮やかな腕前に、歴戦の将たるヘルマットと彼の部下達は唖然とし、次いでその機体の乗り手の行動に驚愕した。

 

 「し、将軍!あの機体から通信が入っております!」

 「何のつもりだ!?繋げろ!」

 

 動揺するムゲ軍に構わず、トレーズは堂々としならがも一切エレガントさを損なう事なく告げた。

 

 『ムゲ帝国軍全将兵に告げる。私は地球連邦軍欧州方面奪還作戦総司令トレーズ・クシュリナーダ准将だ。』

 「ムゲ帝国軍が三将軍が一人、ヘルマットである。この通信の意図を知りたい。」

 

 目の前に出て来て一方的に宣言するトレーズに対し、ヘルマットが告げる。

 そう言いながらヘルマットはスクリーンに写し出された男を見て…己の敗北を悟った。

 自分は指揮官として一廉の人物であると自負していたが、目の前のコレは違う。

 一廉所ではない、歴史の中において綺羅星の如く輝く英雄達の中においても尚一際強く輝く程の大器。

 ヘルマットとてムゲ人の一人、即ち地球人類の平均値よりも高い性能を持ち、同時に微弱ながらも精神感応能力を持つ。

 ヘルマットはギルドロームの様な攻撃に転用できる程のものではないが、ある程度相手の感情を推し測る事は出来るのだが……結果として、彼は通信越しとは言えトレーズの持つ圧倒的なカリスマと大器、エレガンさを直視し、心を圧し折られかけていた。

 

 『君達の総司令部はこちらの別動隊の攻撃により壊滅した。最早君達には救援も物資も指揮系統もない。趨勢は決した。今降伏するのならば、君達の身の安全は保障しよう。』

 「ぬぅぅ…。」

 

 正直、魅力的な言葉だった。

 だが、それはしたくとも出来ない相談だった。

 

 「それは出来ん。」

 『何故と問うても?』

 「ムゲ帝王様ご本人ならば兎も角、臣民の手で兵達が排斥されかねん。」

 

 ムゲ・ゾルバトス帝王。

 彼は負の無限力の一角として悪霊達の王であり、野心こそあれども慈悲深く、疑いなく名君と言える。

 しかし、その配下まで、況してやその率いる臣民全てがそうだと言う訳ではない。

 先ず間違いなく、これまで戦術的敗北はあれど戦略的敗北は無かったムゲ帝国軍の無敗伝説を汚したとして、地球侵攻軍の兵士は一兵卒に至るまで祖国に帰り着いたとしても民衆からの罵倒は免れないだろう。

 例えムゲ帝王様のお声があろうとも、民衆の不満というものはそう簡単に消えないのだ。

 それが例え軍上層部からは反対されていた遠征で失敗の可能性が元々高くとも、失敗したからにはそれは実行を担当した軍部の責任なのだから。

 

 『では、このまま名誉の戦死を選ぶのかね?』

 「…私が戦死した後は、各々の裁量に委ねる。」

 

 それは全ての責任を己で負うための方便だった。

 最上位指揮官が戦死するまで戦い続けたのならば、例え末端の兵士達が降伏した所で問題とはされ難い。

 少なくとも、そのまま普通に降伏するよりは遥かにマシな扱いとなる事だろう。

 

 『了解した。では、貴殿の首級は私が取らせて頂く。』

 

 それはトレーズなりの最大限の敬意の示し方であり、両軍の兵士全てにどちらが勝者で敗者であるかとありありと見せつけるための儀式でもあった。

 通信の終了と同時、トレーズのトールギスⅢカスタムが再度最大速度で突貫する。

 司令官自らが突撃するという暴挙に、周囲の兵士達も思わず止める事も忘れてその行方を見守る。

 対し、先程デストロイガンダムにした様に自らの元へと突撃するトレーズに対し、ヘルマットは素早く全艦に指示を下す。

 

 「各砲座、対空防御だ!正面に撃ち方始めぇい!」

 

 ヘルマットの号令に、今まで停止していた彼の座上するムゲ戦艦が火を噴く。

 元よりヘルマット将軍を守るための最後の盾であるムゲ戦艦の乗員が弱卒である筈もない。

 号令から数秒で展開され始めた対空砲火と弾幕は的確かつ濃密であり、通常のパイロットではとてもではないが近づけないだろう。

 加えて、元より頑丈かつ多機能な万能母艦たるムゲ戦艦。

 通常のMSの武装ではとてもではないが、その装甲を直ちに貫通して撃沈する事は不可能だった。

 だが、ここにはそのどちらもクリアできるパイロットと機体がいた事が、彼らにとっての不幸だった。

 

 『トレーズ・クシュリナーダ、参る。』

 

 濃密な弾幕を膨大な推力任せの圧倒的加速力で以てあっさりと突き抜けるトールギルⅢカスタム。

 多少の命中弾はあれど、その装甲と盾、DFによって阻まれ、碌に減速する事も揺らぐ事も無く。

 再び鞘から抜刀されたZサーベルを、一切の減速を許さずに今度は唐竹割に一閃する。

 それは同時に内包されていた光子力エネルギーを解放しての一太刀であり、トールギスの全長を超える光の刃だった。

 分厚いムゲ戦艦の装甲を易々と斬り裂く光の刃はそのまま真っすぐ進み、全長約500mにもなるムゲ戦艦を正面から両断してみせた。

 

 『静かに眠り給え、ヘルマット将軍。』

 

 二つに別れ、海面へと沈む前に爆散したムゲ戦艦の爆炎に照らされながら、トレーズは間違いなく強敵であったヘルマットに手向けの言葉を送った。

 この後、ムゲ帝国軍旧英国領侵攻部隊は速やかに降伏、武装解除した。

 余りに華々しく、見事な散り際を見せたヘルマット将軍とそれを成したトレーズへと敬意を示した結果だった。

 

 

 ……………

 

 

 同じ頃、ISA戦隊は補給を済ませた後に隊を二つに分けて、敵司令部周辺の防衛ラインを形成する基地に対して攻撃を開始、順次制圧していた。

 同時に各方面軍から成る各戦線も進撃を開始、司令部の壊滅による指揮系統の混乱と士気の低下により組織的反撃が難しくなりつつあるムゲ帝国軍は各地で次々と戦線が瓦解、追撃戦・掃討戦へと移行していた。

 

 「これはいけませんなぁ。」

 

 その様子を見て、諸葛亮孔明は呟いた。

 

 「やはり問題か、孔明?」

 「えぇ。通常の連邦軍ならまだしも、彼らという剣を研ぐには今回の戦いは余りにも温過ぎます。」

 「だろうな。それだけ事前の戦運びが見事だったという事だが…。」

 「ムゲの連中も不甲斐無さ過ぎる。これでは地底種族連合の方がまだマシだったぞ?」

 

 BF団が最高幹部たる十傑集と軍師諸葛亮孔明。

 彼らは連邦軍の欧州反抗作戦の余りの手際の良さを見て、頭を抱えていた。

 彼らなりのやり方で地球を守ってきたBF団ならば、侵略者であるムゲ帝国が撃退されたのは寧ろ歓迎すべきなのだが、ISA戦隊を始めとしたこの星の次の守り手を育成するための試練の場としてムゲ帝国を手引きしてまで用意した戦場だというのに、余りにあっさり決着が着いてしまって碌な経験にならなかった事に困っていた。

 宇宙では迂闊に手出しできないし、あのズールとバルマーという彼らから見ても厄介な連中が控えている。

 今回と同じ様な手ではそれこそ地球が陥落する可能性がある。

 どうしたものか、と頭を抱えるのも当然だった。

 

 「…仕方ありませんな。幽鬼殿、すみませんが例のプランをお願いできますかな?」

 「…承った。しかし、良いのか?確実に戻って来れるとは保証できんが…。」

 「何、まだ時間はあります。彼らにはしっかりと経験を積んでもらえますし、最悪別の候補を見繕うまでですとも。」

 

 こうして、BF団はまた新たな策を実行すべく行動を開始した。

 

 

 

 




欧州戦線編、これにて終幕!

振り返るとトレーズ閣下のエレガントさとムゲ三将軍の奮闘が光る話だった。
…あれ?原作主人公と本作主人公チームは何処?(今更
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