多重クロス作品世界で人外転生者が四苦八苦する話 作:VISP
新西暦186年9月22日 地球 欧州方面
欧州方面を陥落させ、多くの地球人類を殺傷したムゲ帝国軍の第二次侵攻作戦はISA戦隊による地球侵攻軍総司令部のある旧ドイツ領ラムシュタイン空軍基地近郊への軌道上からの戦略砲撃並びに強襲作戦により消滅した。
デスガイヤー将軍並びに精鋭部隊は殆ど壊滅した状態でISA戦隊と戦闘に突入、ギルドローム将軍を秘匿名称ポイントD-1へ逃がすために奮闘空しく全滅した。
ヘルマット将軍は己の率いる旧英国領侵攻部隊と共に撤退を試みたが、旧英国領に詰めていた反抗作戦本隊によりドーバー海峡にて討ち死に。
残存兵力は降伏し、大人しくしている。
残る各方面に配置された部隊は各方面軍から抽出された部隊との戦闘中に総司令部の消滅を受けて混乱、その隙を突かれて防衛ラインを突破され、瓦解していった。
辛うじて一部部隊は撤退に成功、現在はとある場所目掛けて落伍者を拾う事もせず敗走を続けている。
そのとある場所、それこそが秘匿名称ポイントD-1、即ちギリシャのデルポイだった。
神代、即ちギリシャ神話の時代においては世界のへそとも言われたこの地は古代ギリシアでの聖地であり、多くの遺跡や伝承が残る土地だった。
『恐らく、先史時代の人々がここが何等かの特異な空間であると気付いていたのでしょう。今の我々とは違う技術体系によって。』
「成程、ムゲの残存兵力が集結しているのはその地にある何かが原因という事か。君達が言うと猶更信憑性が増す。」
『恐れ入ります。』
総司令部付きの将官用秘匿通信室にて、トレーズは国際警察機構・A.I.M保安部・連邦軍情報部からの報告を受けていた。
旧英国領の戦闘が終息後、投降した大勢のムゲ帝国軍の武装解除や捕虜の収容等の作業並びに補給・整備・修理をするため、旧英国領に配置された戦力は殆ど動かす事が出来なかった。
結果的に、ヘルマットの行動は旧英国領に配置された戦力、即ちトレーズとその手足たる兵達の動きを一時的にとは言え封じる事に成功していたのだ。
だが、それは何も出来ないという事と同義ではない。
否、寧ろ将帥にとって戦闘の前後、膨大な事前準備と事後処理こそ最大の正念場なのだ。
故に現在、トレーズは将官として今己に出来る事を行っていた。
『こちらの調査はまだ未了だが、恐らくは亜空間ゲートの様なものだと推測されている。どんな原理でどれだけの物質を奴らの宇宙へと転送できるかは不明だが、場合によってここから逆転される可能性すらある。』
「こちらのチューリップ型ゲートと同じと言う事だね。」
現在、地球・火星・木星・土星・金星に加えて共和連合領の一部を結ぶこチューリップ型ゲートは宇宙において軍事・経済両面における最重要拠点であった。
その転送量は膨大であり、毎日千を超える輸送船や軍艦が行き来している。
もしこれと同じ程の転送量だとすると、現状の戦力差を簡単に覆されかねない程の転送量を持つ事となる。
『現在、太陽系防衛用無人機動部隊の最終防衛ラインを担当する無人量産型OF隊が位相空間内から調査に当たっていますが、以前には見られなかった力場によって侵入を阻まれ、難航しています。』
「原因は?」
『この力場が魔術や超能力に類するものを原動力としており、無人兵器たる我々にとっての天敵であるが故だと思われます。』
自動人形らは人間やその他異星人等とは異なり、明確な精神を、魂を持たないと言われている。
マシンハートを起動させたとしても、魂や精神を観測する手段が彼女らには無いために確かめようもなく、精神の才能たる超能力や魔法、NTの様な特異な資質を発現する事は無い。
加えて、全ての生物が持っている当たり前のそうした能力への抵抗力というものが皆無に等しいため、天敵なのだ。
この抵抗力に関してはマシンハート起動後は多少発生するため、恐らくは魂・精神が確立するのだろう、と仮設を立てているが、定かではない。
「そういった分野の専門家を呼ぶ事は?」
『国際警察機構のメンバーに幾人かいた筈だが…。』
『生憎とこれ以上この件には人手が割けないとさ。BF団がまたぞろ動き出したらしい。』
国際警察機構には超能力者が多数と仙術の使い手が一人いる。
で、その中でムゲ側のゲートシステムを解析できる程の者となると三人しかいない。
一人は国際警察機構最高責任者にして最大戦力たる黄帝ライセことヨミ。
二人目は客員エキスパートにして仙術を使う公孫勝・一清道人。
三人目は九大天王にして多くの超能力を扱うディック牧。
ライセはトップであり、軽々に動く事は出来ない。
一清道人は客員エキスパートであり、ディック・牧他と共に対BF団の任務に就いている。
『一応、民間のオカルト関係者に声を掛けた事はありますが…。』
「芳しくなかったと。」
『大抵の人は一目見て断られ、自分ならいけると言った方は呪詛返しで一族郎党死にました。』
以前よりA.I.MはNTを含めたオカルト分野に目を付けていた。
しかし、体系立てて運用し、引いては兵器化するには余りに有効なサンプルが少なく、極めて難儀していた。
それでも地道に研究を重ね、サイコナノマシンやサイコセンサーとして結実している。
現在はプロトカルチャー系技術の解析が進み、ある程度の対策案が出来つつあるものの、やはり異能系やファンタジー系の敵を相手にするには純粋物理科学のみでは限界があるとも考え、他にも様々なアプローチをしていた。
そのため、以前撃破した残骸から回収したムゲ兵士の死骸や化石獣の残骸等を民間から募った霊能力者とか占い師を呼んで霊視を依頼したのだ。
が、結果は上記の通りであり、まともな情報を得る事は叶わなかった。
そうしたサンプルの類は解析後、呪術的汚染を恐れて焼き払われ、現在では消滅している。
「仕方ない。そちらは国際警察機構の方が時間が空いたら頼む事にしよう。」
『申し訳ない。何分こっちも手一杯でね。』
『所で、捕獲に成功した強化人間や投降したムゲ兵はどうするご予定でしょうか?』
強化人間達の多くは余りに錯乱と暴走が酷く、その場で味方であった欧州方面軍によって撃破された。
強化人間の中で生き残った者は少なく、機体に乗り込む前だった数名とフォウ・ムラサメしか生き残っていない。
逆にブーステッドチルドレン達は投入された4名は全員が生き残り、現在は随行員だったクエルボ博士と共に治療に当たっている。
なお、フォウが生き残っていたのは、この世界のデストロイドガンダムの構造に由来する。
SEED系列の技術体系の多くが発展する前に失われたこの世界では、あの機体はガワこそデストロイだが、その実態はサイコガンダムの原型機とも言える実験機を無理矢理戦闘用としてロールアウトしたものだ。
で、元はジオン系のMAとNT技術の実証試験を行うためのものであったのだが…実験中、とある問題が発生した事からコクピットが分けられたのだ。
即ち、強化人間の錯乱による他のパイロットや技術者の殺傷事故である。
その強化人間は人工筋肉の移植にチタン合金製骨格への交換を始めとした重度の強化措置を行っており、銃無しでは通常の兵士10人がかりで漸く抑え込める程の身体能力となっている。
だが、その代償として極めて不安定であり、搭乗実験の際には胴体部コクピットで同じく搭乗していた研究員並びに他パイロット3名を錯乱の後に素手で惨殺したのだ。
その強化人間は射殺され、データを収集した後に研究は薬物投与や催眠による洗脳、軽度の外科手術へと方針転換された。
その際にコクピットも通常のパイロット達が乗る胴体部と強化人間=生体CPUの乗る頭部へと分けられたのだ。
そして誕生した強化人間の第二ロットの中で最も優秀な個体だったフォウ・ムラサメもそういった事情で頭部のコクピットへと乗り込んでいた。
他にもゼロ・ムラサメにロザミア・バダム、ゲーツ・キャパ等がいたが、彼らは機体に搭乗前だった事もあり、辛うじて周囲の兵士達に取り押さえられるか、研究員らによって麻酔を投与されて眠りに就いた。
現在は落ち着いたとして拘束は外されているが、歩兵部隊により厳重な監視下に置かれている。
「強化人間とブーステッドチルドレンに関してはA.I.Mで治療を頼めるかな?」
『畏まりました。ですが、暫くお時間がかかるかと。』
「構わないとも。それと投降したムゲ帝国軍の兵士達だが、地球に置いても問題になるだろう。もしもの時の事も考えて廃棄予定のコロニーで労働に当たってもらう事は可能かな?」
『可能です。幾つかをピックアップしますので、後で参考になさって下さい。』
「早めに頼むよ。兵士達は勇敢だが、それ故時に容易く蛮行に染まってしまう。」
ムゲ兵士達は全ての武装を念入りに解除され、現在は旧英国領に急遽設置された捕虜収容テント群にて大人しく過ごしている。
だが、それは欧州侵攻によって家族や友人、故郷を無くした兵士達のすぐ傍にいるという事に等しい。
憲兵隊の監視が無ければ兵士達によって無抵抗であってもリンチされかねない状況であり、早急に他所へ移す必要があった。
とは言え、地球上の他の方面からは早々に拒否と告げられ、既に住民がいるコロニーに預けるのももしもを考えれば危ない。
そのため、もし脱走や反乱が起きればコロニーごと始末できるように廃棄予定のコロニーが選ばれる事となった。
「ふぅ…流石に少し疲れたか。」
その後、大凡の指示と報告をやり取りした後に通信を切ると、トレーズは深々と椅子に身を沈ませた。
睡眠・食事・排泄の休憩は取っていたとは言え、戦時下である事から碌に気を抜けていなかった彼はここに来て心身の疲労を自覚した。
思えばムゲ帝国軍の第二次侵攻で欧州方面の陥落が間近に迫った頃から今日まで、A.I.Mアフリカ支部にて一夜を過ごした以外は碌に気を抜く事も出来ずに走り抜けた。
持ち前の才覚と超人的な身体能力によって抑え込まれていたその反動が今になって訪れていた。
「ここは静かだ。少し、仮眠を…。」
そう言って、スッと眠りに落ちて行った。
室外で待っていたレディ・アンが入室し、世にも珍しいトレーズ閣下の寝顔を拝見して萌え死かけるまで後数分の事だった。
……………
『間も無くだ。』
『間も無く、準備が整う。』
『贄は今回の件でほぼ揃った。』
『ライディーンが覚醒し、ムートロンが吸収されたのは残念だったが…まぁ良い。』
『ムゲ共めに感謝だな、これは。不愉快な連中であったが、良い仕事をしてくれた。』
『だが、地球の支配者たるのはこのワシのみ…。』
『そう!妖魔大帝バラオのみよ!』
ムゲがいなくなった?
残念!敵はまだまだいるんだゼ!